真実
「ダミアン…今までの時間は嘘だったのね。」
彼女は近くに落ちてるナイフを取って握った。
「ニコル、何してるんだ!」
ダミアンは冷や汗をかきながら言った。
「これ見て分からないの?これからあんたを殺すのよ。全てを聞いてよく分かった。本が好きなあんたも偽物なの?」
「本が好きなのは本当だ。君を愛してるように。」
「そんなセリフはいらない。死ね!とっととクタバレ!このクソ野郎!」
ニコルは叫びながら暴れた。
「殺す!殺す!」
「やめろ!」
「死にたくないと思ってるんでしょ!だけどもう終わりよ。」
「確かに君のやったことは許されないし見逃すつもりは全くない。だけど君を愛してしまった。愛していけないのに愛してしまった。頭では分かってる。だけど自分自身に抵抗した。」
「そう言えば助かると思ってるの?警察が来る前に…」
ダミアンはニコルにキスをした。
「君を見逃すかどうかでずっと葛藤していた。だけど愛してるからこそ君を見逃すわけにはいかない。」
「どうして…どうして私のことを好きになったの。利用価値がある私をどうして?どれが本当のあんたかよく分からない。どれが本物のダミアンなの?」
彼女の手はとても震えていた。
「どれも紛れもない俺自身だ。君を警察に通報して自分の利益にしようとするのも、自分の名声にしようとするのも、君を愛してしまった俺も全て俺自身だ。他の誰でもない。」
彼女はナイフを投げた。
「ニコル…」
ナイフは床に転がった。
「あんたを殺すことなんて出来ない。殺そうと思ったのに。生き残る為に殺そうと思ったけど出来ない。」
「これ以上悪者になる必要なんてないんだ。」
「もう取り返しがつかないのよ。」
「取り返しがつかなくても向き合わないといけない。善行をして何とかできるもんじゃないがそうするしかない。それが宿命だから。」
「あんたは罪を犯してないからそんな宿命なんて背負わなくて良いわ。これ以上私と関わるならあんたも同じように腐敗するだけよ。」
「君らしくない。こんな弱い姿を見せるなんて。」
「強いとか弱いなんてどうでも良い。そういうもんなのよ。」
ツリーハウスの周りは自然の音しか聞こえなかった。
「警察に連行される前に最後に1つお願いがあるの。もしかしたら長い期間刑務所で暮らすことになるかもしれない。」
「何だ?」
「私のことを抱きしめて欲しい。」
「良いよ。」
「それと警察が来るまで愛してると言って欲しい。」
「愛してる。君のことは離れても忘れない。罪人としても恋人としても…」
「あんたのことも忘れないわ。憎き探偵としても、女たらしとしても、建築デザイナーとしても、それに愛する恋人としても。」
交じってはいけない二人が愛の言葉を交わす。嘘を重ねていても愛する言葉には嘘はなかった。それだけは嘘をつくことは出来なかった。
「君と俺は違う。だけど愛してはいけない理由はない。駄目だと言う俺自身に抵抗して革命を起こした。自分の固定観念の革命だ。君も革命を起こした。」
「私はただあんたを愛してるだけよ。多くの人が嫌う嫉妬と言う汚い感情と一緒にね。憎たらしいのに愛することはやめられない。愛は恐ろしいものね。」
「少しだけだが最後にこんな君を見れるのが贅沢だな。」
お互い身体をゆっくりと触る。
「いつから私を好きになった?いつから心が燃えたの?」
「そんなことは覚えてない。気がついたらそうなってた。」
「あと何分で来るの?」
「言わない。」
「何で?」
「今この時間を大切にしたいから。」
2人は再び体を重ねる。服が床に落ちて行く。
「ここで悲鳴でもあげようかしら?」
「暴行を加えたように見せるのか?やって見るか?」
「きゃーー、助けて!警察の方、助けて!何てね。」
「もっとちゃんとやったらどうだ?」
「演技は上手くないの。本を食べてたら違うかもしれないけど。」
「そうだと思った。」
「よく分かってるのね。私達、本の虫ね。あんたが本に挟まってただで本をただ読みしまくる虫で、私が本の隙間に入って本を食べ尽くす虫。お互い本に対しての思いは違うけど本を愛することは同じね。探偵なら推理小説読むのが好きなのかしら?推理小説のただ読みとかしたことあるのかしら?」
「推理小説はそこまで興味がない。昔の文学が大好きだ。人の喜劇や転落をそのまま書いてる写実的なものや風刺的なものが好きだ。」
「私のように転落してる主人公がいる小説とかは?」
「昔の小説はたくさんいる。悲劇ばかりじゃなくて喜劇も好きだ。どっちも誰でもたどり着ける可能性があるから。」
「悲劇の方がよくある話よ。喜劇なんてフィクションのようなもの。特に罪を犯せば悲劇なんて決まってるのよ。小説でも現実でも人は倫理に反するものを恨んで消したいと思うもんだから。」
「喜劇と悲劇どっちが好きなんだ?」
「現実なら喜劇よ。こんな感じの。ヒロインがヒーローをこうやって抱きしめるような。」
「俺はヒーローか?」
「世間体では悪を裁くヒーローよ。私にとっては脅威でしかない敵ね。映画なら悲劇の方が良い。感情移入しやすいから。映画のような困難を乗り越えて喜劇にたどり着いたサクセスストーリーなんて本当に一握りよ。現実では経済的に不幸になる人、精神的な問題を抱えて不幸になる人ばかりよ。」
「映画の喜劇もたった1つのシーンに過ぎない。人々に感動を一生心に留めて置きたいからあとの話を書かないだけ。喜劇の後の話は残酷なストーリーかもしれない。それなら喜劇は次の作品を作らずにそのままにしておいた方が良い。それに悲劇の中にもかすかな幸せがあるシーンもある。君は悲劇を見て自分より下の存在がいると思いたいか?」
「そう思えるならまだ気持ちが楽ね。私は現実なんてそんなもんだと冷めた気持ちで見てるのよ。夢に燃えたり出来るのはフィクションだけの話。喜劇の後の話に悲劇を書くのは罪なことかしら?」
「批判殺到するだろうな。創造主はなんて卑劣で残酷な暗黒世界に帰るのかって思うだろうな。だけどこんな逆転するのも人生だと考えるだろうな。」
「そう言う小説の創作はどうかしら?登場人物に対しての個人的な嫉妬や憎悪とかは無視して。」
「幸せと言うのに満足して転落する話なら結構目が離せないな。」
「ここを開けろ。」
「もう来たころね。最後にお願い。」
2人は強く抱きしめ合った。2人は温度を感じ合って会話をした。その暖かさは2人の愛の熱。愛の熱だけは2人の利害が一致して交わる。誰かが交わることを望んでいなくても2人は交わることをやめることはない。警察官の声が聞こえても自分達の中ではそれを遮断して2人の時間に浸った。
「開けろ!」
「開けなさい!そこにいるのはわかってるんですよ!」
ドアを無理矢理警察官が開けた。
「署まで…え!?」
2人は情事を行ってる2人を見て驚いた。まるで連続殺人犯の女性とこれからそれを法律的に裁く裁判官が密会をして愛し合ってる様子を見たような感じだった。到底理解が難しいものだった。
「驚いてるの?大人しくあんた達の調書を受けるわ。もう逃げるなんてしないわ。あんた達がこうやって来るまでに最後にやるべきことはやったんだから。だけど1つお願いがあるわ。私達が愛し合ったことを犯罪だと思わないで。あんた達警察の男だって女性囚人と恋愛することだってあるでしょ?それを犯罪だと思って問い詰める真似はしないで。」
愛を遮る法律があるとしたらそれはラブストーリーの減少だ。言論でもそれが行われるなら現実世界も空想世界もあってないようなものだ。人類は愛と言う哲学を深く考えることもなく一生過ごすことになる。
「ついて行きなさい。」
大人しくニコルは警察達に連行されて行った。警察に連行されても彼女は笑っていた。
「ダミアンの言った通り、提示された証拠の通り過失でセバスチャンを殺してしまいました。バレたくなかったので彼を土に埋めてしまいました。ものすごい後悔してます。弟のような存在でした。親と子供よりもっと近いような存在でした。」
続けて話す。
「それと本を盗んで食べていたのも事実です。甘い物をスーパーや小売店から盗んで食べていたのも事実です。」
彼女は警察官が理解できる範囲で自分のやった罪を全て告白した。しかし本のことは話さなかった。彼女が数多く起こした罪を証拠がある状態で自白したので警察官が思ったよりも捜査ははやく進んだ。そして彼女は起訴されることになった。裁判が数回行われることになった。
「主文、被告を懲役10年に処す。」
彼女は刑が言い渡された。まず彼女の無免許運転は軽罪と扱い、懲役だけのはずだが、発覚以降も同じように罪を犯していた為罰金刑も同時に課された。さらに死体遺棄罪と窃盗罪の罪も問われた。死体遺棄罪に関しては過失や正当防衛とはいえ、罪の隠蔽という観点から執行猶予がつかず実刑判決になってしまった。
「ニコル…どうしてこうなっちゃったの…こんなに愛情注いで育てたつもりなのに…何で…何でなのよ…」
ニコルの母親は娘の犯行を知りかなりショックを受けていた。母親は彼女が何故このような状態に至ったのか考えたくない様子だった。自分の家族が犯罪者だと言うことを認められなかった為自身の娘を他人として見ようとした。
「どうして…」
悲しみにくれて娘の顔を見たくなかった。刑務所にいる間彼女の面会に行くことは一度も無かった。彼女もそのことは予想ができていたので母親に期待することはなかった。
「ニコルが捕まってしまったな。」
「そうね。私達ならニコルを最後まで守ることが出来たのに。ダミアンなんかがちょっかいを出さなければこんなことにならなかったのにね。」
「俺達にもう残されたものはないな。」
「今それを考えてるのよ。もしかしたらニコルを連れ戻せるかもしれないの。」
「脱獄させるのか?」
「そんなもんかしら。」
ヴィルジニーとジョルジュの家は冷え切っていた。前のように暖かい夫婦関係ではなかった。娘を失ったかのように放心状態でいた。かつての幸せな家庭のような光景はこのシャンボン家にはなかった。
「何してるの?」
「本を燃やしてるんだ。」
「何してるの。食べれる本だけはやめて。」
「食べれない本を燃やしてるんだ。そんな大事な成果物を燃やすわけないだろ。」
「あとこの写真も燃やして。ニコルの部分だけ切り抜いといたから。」
あの名前のない木はニコルが捕まった後もしっかりと残っていた。誰も水をやらなくてもしっかりと育っていた。
ニコルにもあれから想像もしない変化が訪れることになる。




