逃走
ヴィルジニーは逃げるニコルの手を掴んだ。
「私の母親もあんたも変わらない。」
「それで良いのかな?これから警察呼ぶことも出来るのよ。良いのかしら?」
「脅し?そもそも私のことを娘だと思ってるのが変よ。頭おかしいでしょ。私は30半ばの女性よ。あんたとさほど年が変わらないのよ。」
「年齢なんて気にしないの。」
「その頑固さは大したものね。」
「どうしてママをがっかりさせるようなことをするの?」
「あんたも私の母親も母親じゃないの。」
「ママから逃げることは出来ないわ。」
ニコルは部屋に閉じ込められた。縛られなくはなったがここがどこなのもかも分からなかった。この空間にいても危険だし、仮にここを出て逃げ出しても警察の目もあるから思うようには動けなかった。
「クソ、ここはどこなのよ!」
もがいても出ることは出来なかった。ニコルはどんな選択が最善か考えた。この地下の綺麗な監獄にいるのはとても落ち着かなかった。少女趣味の壁に可愛い雑貨や甘いお菓子、まさに天国のような綺麗な空間だった。だけど気持ちは地獄だ。天国と地獄が混ざった複雑な監獄だった。何も思いつかず時間だけが過ぎていくだけだった。そんな時に母親との思い出を思い出す。何でも母親にやってもらってはいたが自分一人で何かさせてくれることはあまりなかった。何かする度に限界と言うものを決められてしまった。新しいことに挑戦しようとしても過剰に心配するだけで具体な解決策を出さないまま母親が何でもやっていた。もちろん父親も同じような考えだった。心配するだけで彼女の可能性と言うものをよく信じていなかった。挑戦しようとしても邪魔されることも多かった。もちろんかなり恵まれた環境に一見見えるがそのさりげない可能性の阻害が彼女の心を蝕んて言った。可能性の阻害が何回も行われるならそんな両親を利用するしか彼女には選択肢はなかった。過保護に対応するならそれに対して利用するだけたくさん利用して恩恵をどんどん受けるような生き方をするようになった。両親に自立を求められるまでずっとその生き方を彼女は貫くつもりだった。だけど突然自立を言い渡された。それから彼女なりに一人で頑張って生きた最終的には職も見つからなくなりホームレスになり、今やヴィルジニーの支配下の状態だった。今になってこんな人生はまともではないと思うようになった。彼女は少しばかり涙を流した。こんな状態が2週間も続いた。
「クソみたいな人生だ。」
しばらくするとジョルジュがお茶を運ぼうとしたとっさに持っていたペンを目に刺そうとした。驚いてすきに熱いお湯をかけて彼を押しのけた。
「ヴィルジニー、ニコルが逃げたぞ。」
どこか分からずひたすら走って逃げる。
「ニコル、待ちなさい。」
「ニコル、落ち着くんだ。」
「あんた達とはおさらばだ。よくこんな施設作れたな。」
彼女は落ちてる本をどんどん投げながら逃げて行く。そしてドアを開けて逃げた。彼女はクレマンが使ってた自転車を盗んで向かっていった。後ろからジョルジュとヴィルジニーが追って来る。
「しつこい。」
パトカーまで来た。
「クソ!何なんだよ!」
二人のうち誰かが通報して呼んだ。しばらく走ってると木にぶつかり倒れた。
「ニコル!」
焦った表情でヴィルジニーが走って向かって行く。すると草陰から誰かが手を引っ張った。彼女はあっという間に引きずり込まれた。
「大丈夫か?」
「ダミアン!どうして?」
「君を放って置くことが出来なくて。それよりはやくここから逃げるぞ。敵だらけだ。」
森の中を走って行く。彼が連れてきたのは誰も住んでいないツリーハウスだった。
「こんな所で大丈夫なの?」
「保障はないけどこうするしかない。」
「それよりヴィルジニーとジョルジュがとんでもない奴らだったの。」
彼女はダミアンに起きたことを詳細に話した。
「君はその娘の変わりだったんだな。」
「今になってこんな生き方から私は抜け出せないのかって思うの。誰かに縛られながら一生生きていかなきゃならないのかって。今は警察に追われてて監獄に入られる可能性だってあるし、ヴィルジニーに軟禁されてた時もこれが一生続くんじゃないかって思った。」
「君は報われない。残念だけどこれが世の中さ。一度でも大きな罪を犯さばその事実から逃げるなんて出来ない。」
「だから逃げてるのよ。そんなこと知らない馬鹿な間抜けなら今頃捕まって監獄で生活してるわ。」
「だからこうやって君を導いた。もちろん監禁とか軟禁とかそう言うやり方はしない。俺の助けがいらないなら君の意見を一人の人間として尊重する。」
「そうね。あんたと一緒にいるのが何だか私らしくいられるのかも。これが贅沢な時間ってものなのかしら。贅沢ってお金だけだと思ってた。だけど贅沢の概念って意外と広義的なものかもしれない。あんたと過ごして見て思った。」
「もちろん、俺は君のパトロンなんかじゃない。高級な物を毎回プレゼントするわけじゃない。だけど君を助けたいことばかりは変わらない。君といるのは贅沢だ。贅沢は物やお金や時間だけじゃない。人や時間も関連する。誰でも贅沢な人生を送れる可能性はある。気持ちが贅沢なら。」
「贅沢な気持ちでいることね。面白いこと言うわね。」
「笑わせたつもりはない。真剣だ。」
「今の私は贅沢な気持ちで入れてるかしら?」
「ニコル、君は十分贅沢だ。警察やヴィルジニー達に追われながらもこの時間を大切にしてる。君は最高な贅沢者だ。」
「その考えがずっと続けば良いわ。一歩間違えれば私は警察にとらわれてしまう身よ。」
「監獄では贅沢は出来ないな。」
「ロマンスのある監獄なら贅沢な監獄ね。行くならそんな監獄に行っても良いわね。」
「俺のことを忘れてか?」
ダミアンは冗談を言って笑った。
「ねえ、私の身体にGPSとかついてないかしら?」
彼は彼女の身体を確認した。
「見てみたけど手の届かない所にも何もないな。」
「それなら良いけど。」
「いつの間にか体内に入ってるかもしないな。」
「変なこと言わないで。そうなればあんたまでも危険に晒されるわ。」
「別に良い。そうしたかったから。」
辺りは静かだった。ことが起きた後の静けさでもあり、何が起きるか分からない静けさだった。この無のような静けさの時間が15分くらい続いた。
「そう言えば、最近本の能力の話聞かないね。いつもなら楽しそうに話すけど。」
「この状況でこんなこと言えないわ。」
「前と違って走るのが遅くなったね。」
「どうやら効果がきれてくる能力はあるの。」
「最近はどんな本を食べたんだ?」
「植物をよく育てられる能力ってことかしら。」
「嘘をついてるね。」
「嘘じゃないわ。」
「最近の君は俺の前で何か隠してる。ずっと君と一緒にいれば分かる。車運転しない君がいきなり車を運転するなんて不自然だ。」
「私のことを疑ってるの?まるで警察のように疑うのね。」
「正直に話して欲しい。セリーヌの死も君が関わってるんじゃないか?」
「いきなり人が変わったようね。演技が上手いこと。」
「君のことをよく知りたい。」
「あんたの不安感や焦燥感に付き合うつもりはないわ。」
「原因が分からない死が不自然だ。まるで超能力みたいなもので操ったかのようだ。」
「このことはどんな調べても結果は同じ…」
「この辺でこんなことが出来そうなのは君しかいない。」
何回も問い詰められてようやく口を開いた。
「あんただけには話すわ。こんなに尋問されればね。セリーヌの死因は私の息よ。」
「どんな能力なんだ?」
「飲み物に息を吹きかけると腹痛を起こす能力よ。最初は腹痛で苦しめば良いと思ったのよ。別にあそこまでやるつもりはなかった。だけど大量の息でセリーヌは死んだのよ。殺すつもりなんてなかった。あれは事故だったのよ。」
「話してくれてありがとう。それならアデルは?」
「また女の話ね。どのアデルなのかしら?」
「君の同級生のアデルだ。」
「彼女も事故よ。殺すつもりなんて無かったのよ。これで満足?」
「セバスチャンも事故だったのはよく分かる。それとクレマンの友達のオリビエの共変も変だな。」
急に押し問答になった。
「それが人気学級委員の本心よ。今まで我慢してた期待のエリートから解放されたからかえって良かったのよ。クレマンはその見栄から抜け出せてないから自分の人生を過ごせないようね。クレマンもあの女が消したのよ。男の子はいらないと言う狂気的な理由で。本当に可哀想ね。」
「君がいない所で実はクレマンと話してた。罪悪感を感じてニコルに話したけどスッキリしなくて俺に起きたことを話したんだ。君が小細工をしたお菓子のせいで凶変したって言ってた。どうしてそんな無茶苦茶なことをしたんだ?」
「深い理由なんてないわ。この世の中と言うものをよく観察して見たかったの。嫉妬を向けられて人生を阻害させられた人がどのようになるか。」
「何か学びになったことは?」
「何だか私自身をみてるみたいだったわ。嫉妬によって復讐しても得られるものがないと思った。」
自然と彼女の口が動いて行く。
「人工甘味料は食べたら中毒性になる。人の癖と似たようなもの…盗みも復讐の計画もどんどん当たり前になっていった。気がついたら取り返しのつかないことになった。」
ダミアンは黙って聞いた。
「最初はうさぎを轢き殺したのよ。バレないように埋めた。それに私がセバスチャンを轢いて罪を隠すために土に埋めたのよ。それからもうさぎの格好した裸出狂を轢き殺して埋めた。何でこんなことあんたに話してるんだろう。私、話すつもりなんて全くなかったのに。セバスチャンには死んで欲しく無かった。事故で死んで良い相手だなんて思わない。だけど自首なんてしたくない。刑務所なんて路上生活より自由がないわ。路上生活が広大なサバンナなら、刑務所は手入れのされてない鳥かごよ。」
「もしかしてだけどその時の映像ってこれかな?」
ニコルが露出狂を轢き殺して埋めた映像が流れた。さらにセバスチャンを轢き殺す映像も。
「どうしてそれを…」
「こうするしかなかった。建築デザイナーは表の顔。裏の顔は探偵だから君を利用するしかなかった。依頼されてる仕事はこなすしかない。知り合ってしばらくしてからマークしてた。」
「探偵?何かの冗談でしょ?何で私の素行調査を?もしかして私のことを愛してなんて無かったのね。だから他の女と…」
「警察があと少しで来る。」
ニコルは顔が真っ青になって座り込んだ。




