新しい人
ニコルは実刑判決になり刑務所に入ることになった。
「新入りか。」
「お前何したんだ?」
「どうせろくでもないことしてないんだろ?」
「そんなこと聞いて面白い?」
ニコルは他の女性囚人から目をつけられた。
「それなら当ててみれば。」
「人を殺したんだろ?」
「どうなんだ?」
「そうよ。だけど私なんていじめて面白いかしら?やるなら金持ちから転落した囚人の方がずっと面白いと思うけど。新入りをよく見てるのね。そんな暇があるならネタになるようなブルジョワ連中を探すべきね。残念ながらここにいないようね。」
「お前何調子に乗ってるんだ?」
「何を怒ってるのかしら?」
運悪く他の囚人から目をつけられたが彼女はどうでも良かった。
「あんた早速目をつけられたわね。」
「あんたも目をつけてる一人?」
「それもそうね。あんたをぶっ飛ばして快感を得る変態達とは違うけどあんたのその感じ好きよ。」
「私は好意も嫌悪も求めてなんてない。必要な人の好意だけ得られればそれで良い。」
「それならあんたの好意を得られれば良いわね。」
好意で近づいた人間がいても彼女は自分から突き放してしまった。
「ここでの生活はどうだ?変わりあるか?」
「飯が不味いわね。食べれたもんじゃないわ。」
「それは無理もないな。君は誰かから施しをいままで受けて来たから。」
「そうね。美味しいお菓子もなければ、美味しい本もないわね。」
「本は食べるもんじゃないけどな。」
「もうあんなもの食べないわ。人工甘味料中毒はまだ残ってる。結局あの本はあの女が開発した本よ。霊的なものとか全く信じないけど、特殊な発明でそんなことが出来てるのよ。」
「違法に遺伝子組み換えなどして甘い本の原料の木を育てている可能性はありそうだな。」
「ねえ。」
「何だ?」
「もう、あの二人とは関わらない方が良い。あんたまでろくなことに巻き込まれるのは私は望んでない。あの日記見る限り普通じゃない。私はまだ監禁や軟禁で済んだわ。だけどダミアンに対しては敵意しかない。きっと跡形もなくあんたを片付けるでしょうね。探偵するならもっと面白い探偵でもすれば?」
「もう、探偵なんてしない。君を愛してしまったから。」
「そんな理由で?」
「ちっぽけな理由かと思うかもしれないが、葛藤するなら君だけで良い。」
「新しいロマンスと非劇が起きて欲しくないのね。恋する男は大変ね。探偵以外にも才能がありそうね。」
「あれから君のような人を見かけてない。」
「それならあんたも刑務所に入る?」
「そんな面白くないことはしない。」
「冗談よ。全てはあんた以外には話せなかった。現実性のあるものしか話せなかった。本の能力で人を殺したなんて信じる人がいるなら悪魔払いか何かにお金をかけてる連中だと思うわ。」
「信じたとしても君に何のメリットがあるんだ?」
「利益はないわ。強いて言うなら告白したことによって救済されるってところかしら?私は罪と向き合うつもりよ。救済とかは考えてないわ。そう言うのは私の信念に合わないから。」
「変わったね。わがままな君だったけど。」
「あんたが私を変えたのよ。あんたがいなかったらずっと逃げ続ける人生ね。」
「10年の懲役が終わったらまた会おう。約束する。」
「その時はどこにいるのかしら?」
「あの時のあの公園で会おう。」
「私達が出会ったあの公園ね。良いわ。約束よ。」
「この約束は守る。面会がもう終わる。」
2人の面会時間はあっという間に終わった。
「母さん、刑務所にいる彼女と会ってた。最後に姿を見せようと思ったけど見せられなかった。母さんをこれ以上傷つけてられないから見せられなかった。」
彼は墓石に手を当てながら涙を流した。
「ダミアン、何してるの?」
「レア!」
「涙なんて流して。」
「母親の墓を見たら誰だって泣くもんだろ。」
「そう?私の母親私のことどうでも良いと思ってるからそんなふうにならないと思う。あんたから家族の話なんてはじめて聞くわね。」
彼は新しい女性と関係を持った。レアは弁護士の女性。彼女とは今まで縁もゆかりも無い関係だった。本屋ですれ違うことが多くなり深い関係になった。それは肉体的な関係だけではない。ロマンスのある関係だった。
「母親からは愛して貰ったことはない。だけどそんな母を責めることは出来ない。親も子供も選ぶことなんて出来ない。良い親とか良い子供なんて決めることなんて出来ない。出来るとするなら良さも悪さも持つ大人と子供か、極悪非道で人間味のない大人と子供くらいだろう。親子関係を全ての人間が望んで生まれたわけじゃない。」
「そうね。私も生まれるなら性行為と言うものなしで生まれても良かったと思ってる。それなら誰も恨む必要なんてないし、親としての義務、子供としての義務なんて果たす必要がない。」
「親としての義務は養ったり、教育したり、社会性を育んだりするのが義務だ。それなら子供としての義務は何だ?子供はどんな義務を果たして権利を得るんだ?」
「抵抗したり、反抗することかしら。義務でもあり権利よ。親と言うのは大人しか持てない権力を握ってるのよ。知識と言う権力ってところかしら。」
「それなら子供としての義務は親を説得させることだな。」
「そんなこと言ったら子供の人権問題で物議を交わすわ。この話はここだけでするつもりよ。」
「説得がなければ親子関係は停滞するだけだ。知ることに興味を持つのも義務だ。権利でもあるけど義務だ。親子も人間だ。知ることも知らせることもなければその関係は無と言っても良い。」
2人はランニングを終えて街なかを歩く。そこはいつものように平和だった。特に大きなマルシェが行われるわけでもなかった。
「バゲット2つください。」
「ヴィルジニー!!」
「どちら様?」
「ダミアンだ。」
「私がいるから別の日にして。」
「これ以上私に関わらないで。あんたがいなかったら私の娘のこと最後まで守りきれてたのに。」
「他に隠してるんだろ!正直に話せ。」
「もう関わるなって言ってんだろ!このクソ野郎!とっととクタバレ!はやく!」
すごい剣幕で怒鳴り、彼女はその場を去った。
「今日は何を持って来たんだ?」
「本だ。」
「本なんてくれる人なんて君がはじめてだな。」
「本はどれくらい読んでないんだ?」
「半年は読んでない。」
「経済的な理由で?」
「心まで貧しくなかったからだ。金がなくなれば食べるものに恵まれていなかったら人は心まで貧しくなる。」
「金があっても心が貧しい人間はたくさんいる。」
「本を読むことは金持ちの特権なのか?路上生活者は本を読む特権はないのか?」
「そんな法律はないが、世の中はそうなってるな。本屋もお店に入ることを許可する人間ばかりではない。」
ダミアンはかつてニコルがやったことと同じことをするようになった。
新しい出会いも有れば大きな別れも来た。ニコルは刑務所で起きた事故に巻き込まれ、この世を去った。
「ニコル!ニコル!しっかりして!」
「そこ離れなさい!」
「ニコル!ニコルが倒れてるんです!」
その現場はまさに惨劇だった。悪い人間が集まる場所でも人の死から目を背けない。
「ニコル、どうして!」
刑務所の囚人も彼女の死を悲しんだ。
「ダミアン、どうして泣いてるの?」
「大切な友達が亡くなったんだ。」
「本が好きな友達?」
「本をよく食べる友達だ。読むのは好きじゃないが、食べるのは大好きな友達だ。」
「そんな冗談誰が信じるかしら?本当に言ってるの?それなら誰かセラピストを紹介したの?」
「おかしなことか?」
「身体に良くないことよ。紙はちゃんと消化出来ないわ。おかしいかおかしくないかの問題じゃない。」
「君が本を食べようとしても俺はとめるつもりはない。おかしいとは思わない。」
彼のパートナーもニコルの死と向き合った。
「ケーキ作ったけど食べないか?太らないケーキだ。」
「そんな気分じゃないわ。」
「いつもの君はどこに行ったんだ?ニコルが死んだのは俺だってまだ実感してない。でもこのまま下向きになる君は見てられない。」
「それはあなたの気持ちでしょ。ニコルは私の全てなのよ。」
「そんなこと言ってもどうしようもないことだろ。ニコルのぶんも一緒に行こう。君のことを愛してるから言ってる。」
「そうね。それならああするしかないわ。」
「何をするつもりなんだ?」
「こうするのよ。」
本を鍋の中に入れた。
「よくジョルジュはクレマンとかに言ってたわね。美味しい料理は人の心を満たすって。その通りよ。この素晴らしい材料で私達の人生を満たすの。」
「君について行くよ。」
本を原型がなくなるまで調理をした。
「誰だろう?」
「宅配業者か何かじゃないの?」
「いや、この時間に指定しないけど。」
「時間なんて人によって違うのよ。」
彼はモニターを確認して驚いた。
「これは…」
彼はドアを開けた。
「ニコル…どうして…」
「お父さん、お母さん。」
「お父さん、お母さん。」
もう一人ニコルが来た。
「これを食べて。」
「嘘だ。そんなことして許されるわけない。ニコルを侮辱してる。」
2人のニコルは無表情になりどこかに行った。
「私達、ニコル。」
2人のニコルはそれぞれ違うところで居候になった。
「宅配便か?」
また別の日ドアを開けると1つの本と2人の赤ん坊がいた。ダミアンはその2人の娘をレアと育てた。その娘達は本をこよなく愛する娘だった。




