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「あのこちら頼んでないのにうちに届いたんですが。」

「そんなの知りません。そちらで処分してください。」

「捨てるなんてもったいない。紙を作るのにどれだけの木を使ってると思ってるの!」

「それならリサイクル業者に引き取ってもらってください。」

「いや、本当のこと言ってください。白紙のページばかりで悪質な嫌がらせなんじゃないんですか?」

「だから知りません。」

「そちらの業者が送ったので知らないなんて変です。」

ヴィルジニーと配送業者は電話越しで口論になっていた。

「もう、何て対応の配達業者なのよ!」

「ヴィルジニー、そんなにヒステリーになってどうしたわけ?あなたらしくないね。」

「配送業者に聞いてもこの変な本のこと知らないのよ。これはリサイクル業者に引き取ってもらうわ。」

彼女は本を見つめる。

「見た目はただの絵本ね。だけど出版社がどこにも書かれてないわ。」

「こんなもの誰が作ったのかしら?」

「ただの印刷ミスかなんかじゃない。」

1ページだけ男性が走ってるイラストが描かれているだけだった。

「何か意味があって白紙にしてるんじゃないの?あんたとジョルジュがたまにヴィーガン料理作るみたいに。」

「こんなこと話し合う必要はないのよ。気味が悪いから忘れた方が良いわ。」

ニコルは気になっていた。その本のことが中々頭から離れられなくなっていた。

「ニコル、どうしたんだ?ずっと考え事してて。」

ジョルジュが聞いた。

「あの本、本当に知らない?」

「知るわけないだろ。俺もヴィルジニーもそんなもの頼まないんだ。それよりテレビのリモコンはちゃんともとに戻してくれ。棚の上に置いてくれないと落ち着かないんだ。」

「ジョルジュはもっとこだわりが強いのね。」

ジョルジュは少し潔癖な所がある。こだわりはヴィルジニーより強い。

「ここで住まわせてもらってるなら最低限のハウスルールは守らないと。」

「それなら更新すべきルールもたくさんあるわ。」

全員食事を終えるとニコルは部屋で寝転がっていた。

「誰かいるの?セバスチャン?」

誰かに覗かれているように感じた。

「誰もいないようね。」

夜は過ぎていった。

「ニコル、例の本知らない?」

「さあね。セバスチャンかクレマンが学校の友達に見せびらかしたりしてるんじゃないの?」

「そんなことするはずないわ。変ね。」

「いらない本ならどうでも良いじゃん。何をそんなに気にする必要があるの?」

「私の直感よ。配達業者も分からないようなものが届くなんて気がかりなの。」

「これからこの家で火事がなんかでも起きるわけ?火遊びしたり、恨みでも買ってない限りないわ。もしかして色恋沙汰で誰かから恨み買ってるわけ?」

「そんなわけないわ。」

「それなら狙いはジョルジュとか?」

「分からないわ。」

「普段は探究心はあるのに。私のことを全く警戒しないあんたがね。こう言うことには保守的なのね。ジョルジュもだけど。」

「あんたの言うとおりね。あんたに何言われようとこれはうちの外に出すつもりよ。敷地にあって欲しくないから。」

突然ヴィルジニーが顔を近づける。

「何?」

「この香水勝手に使ったわけ?」

「駄目なの?」

「他のは良いけどこれはジョルジュが大好きな匂いの香水なのよ。」

「分からないものは分からないわ。それならジョルジュは私の方に目がいくかも。」

彼女は笑った。

「他人事みたい言わないで。」

「ジョルジュの女王でいたいようなのね。」

「当たり前よ。それでどこにつけたの?」

「首もとよ。」

「よりによって私のつけたい所にするなんて。」

「ヴィルジニー、一緒に住んでるのにはじめて知ったわ。隠す必要なんてないのに。」

「話す機会がなかっただけよ。私は何でもオープンに話すのよ。」

「それなら二人同時にかけたら良いじゃん。同じところに。」 

「それだと特別感を演出できなくなってしまうわ。」

「そんなこと言わないでほら!」

ニコルはヴィルジニーに香水をかけた。

「これで解決ね。」

「何も解決してないわ。」

ニコルは部屋で一人になった。鍵を閉めた。絵本のページをつまらなそうにめぐり続ける。特に特別なことが起こるわけでもなかった。

「これは何?」

男性が走ってる絵にかすかに印刷の汚れのような小さなシミがついていた。

「何これ?」

彼女は家の中を漁り始めた。

「何やってるの?」

セバスチャンが聞いた。

「あんたには関係ないのよ。」

「隠し事してるな!ママに言ってやろうか。」

「ただの探し物してるだけよ。やましいことしてるならこんな堂々としてないわ。」

「それなら一緒に探してあげる。何探してるの?」 

「ルーペよ。小さい虫を見たくなってね。」

「それならお兄ちゃんが持ってるかも。」

クレマンを呼んだ。

「どうしたの?」

「ルーペ貸して。明日返すから。」

彼女はルーペを受け取った。

「二人とももうすぐ寝る時間になるわ。」

「もうちょっと良いでしょ。」

クレマンは動物や虫、植物にかなり興味があり、ルーペで観察するこもあった。

「おやすみ。」

「おやすみ。」

しばらくすると騒がしい家は静かになった。暗闇の中かすかにランプをともしていた。そしてルーペで印刷の汚れのようなものを確認する。

「食べて…どう言うこと?」

他のページもどんどんめくっていく。するとまた印刷の汚れのようなものが見つかった。そしてそれもルーペで確認する。

「この本を…」

彼女はランプの一点を見て考えた。

「単純に「この本を食べて」と言いたいわけか。」

彼女はゆっくりと本を破って口に持ってく。

「やるのよ。」

思いきり本の切れ端を口に入れた。

「美味しい。こんな美味しい紙人生ではじめて食べたわ。」

彼女は本を食べ続けた。

「美味しいわ。」

「何してるの?」

「ちょっと、勝手に部屋に入んないで!!つまらないもんだから。」

「ここは私達の家でもあるのよ。ちょっと渡したいものがあったのよ。あんたの両親からの手紙よ。」

彼女は不機嫌そうに手紙を受け取った。

「何だか不機嫌ね。あんた両親が嫌いなの?」

「別に良いでしょ。今は関わりたいと思わないの。昔は好きだったけど。」

「そのうち両親に会いたくなるでしょ。何かやってたけど邪魔したようね。」

ヴィルジニーは部屋を出た。

「何でこんな時に入ってくるのよ。」

彼女は部屋を見回した。しばらくしてまた絵本を食べた。

「こんな所、見せるわけ行かないでしょ。」

彼女は全部完食した。

「美味しかったわ。」

本は跡形もない状態になった。

「今さら手紙?「ニコル、今度パーティーをやるから来て。絶対よ。」」

彼女は手紙をくしゃくしゃにした。

「ふざけんな!中途半端な母親を持ったんもんだわ。」

「ニコル、うるさい。静かにしろ。子供達が起きるだろ。」

「知るか!」

ビリビリにして破った。

「食べた紙の方がずっと価値があるわね。」

彼女は他の本もページをめくった。本を電子ですら読まない彼女にしては本をめくることすら珍しいことだった。そしてまた日が過ぎる。

それから1週間が経った。

「ニコル、サッカーしようぜ。」

「サッカー、しばらく出来てなかったわね。」

セバスチャンとクレマンと一緒にサッカーをした。

「こっちにパス!」

「ニコルからボールを奪え!」

「分かってる!だけど今日は速すぎるんだ!」

またポジションを交代した。

「またニコルにボール奪われた。」

「今日のニコルは何か変だぞ。」

「ゴール!」

サッカーは終わった。

「もう疲れた。」

「洋梨ジュースでも飲む?昨日作ったの。」

「うん。」

「今日のニコルはどうしたんだよ!こんな疲れたのはじめてだ。」

「何が?」

「こんなに足速くなかっただろ。」

「いつも通り走っただけよ。今日のあんた達が遅すぎただけよ。」

「ニコル、子供相手に本気出しすぎよ。」

ヴィルジニーが言った。

「いや、私はいつも通り…あ、まさか!」

「どうしたの?」

「いや、何でもない。」

「今日のニコルは変だな。」

「いつもあんな感じよ。」

「いや、あんな足速かったか?」

「知らないわ。」

全員ニコルの突然の変化に不審に思った。

「そう言えば、本はどこに行ったか知ってる?」

「え?俺は知らないぞ。」

「僕も知らない。」

「僕も。」

「もう気にすんなよ。」

その頃、ニコルは1人で公園を走った。

「君、ランニングしてるのはじめて見たよ。速いね。」

「ちょっとしたダイエットよ。」

「俺も減量してる。こんなだらしない腹になったからな。」  

「その腹も触り心地良さそうだけど。」

「俺変わると決意したんだ。」

「自分磨きね。これも金持ちの特権ね。」

「そうか?別にそんなにお金持ってるわけじゃない。」

「私ってそんなに速い?」

「結構速いな。俺とこんな距離になってるだろ。何か特別な練習してるのか?」

「生まれつきのものよ。昔からスポーツは得意な方なの。」

ニコルは特に球技が得意だが特別陸上が得意と言うわけではなかった。

「ランニングの後予定あるか?」

「あいにく用事があるの。ストライキしても良いけど、帰る場所がなくなるから。」

「俺との用事の方をストライキするんだな。」 

「何それ?あんたとそれほど深い関係でもないわ。だけど嫌いじゃないわね。」

「それならこれを受け取ってくれ。」

電話番号の書いてある紙だった。

「良いわ。登録してあげるわ。」

スピードを上げて走った。車にも追いつきそうな勢いだった。

「危ない、止まれ!」

彼女は木にぶつかってしまった。

「やっぱりそうだわ。」

彼女は気がついた。あの絵本はただの白紙の絵本ではないことを。一つは本なのに美味しいこと。もう一つは本を食べると特別な能力が身につくことだった。彼女は確実に速くなった。どんな人にも追いつくくらいの速さだ。まるでどこまでも走れる獣のように。

「これは使えるわ。」

彼女はショート動画を撮った。

「これで私も一発逆転ね。」

何個も動画を撮った。

「あんたの動画見たわ。」

「もう有名人ね。」

「皆、フェイクだと思ってるし、ただ走ってる動画に興味を持つ人なんてそんなにいないわ。この現代で足が速くて得することはあまりないのよ。強いて言うなら危機的状況の時ね。」

もちろん人生は彼女が思ってるほど単純なものではなかった。

「地域の陸上大会か何かにでも出てみたら?」

「ヴィルジニー、届け物が来た。」

「テーブルクロスかしら。」

「それが差出人不明なんだ。」

箱を開けると本があった。

「これって…」

今度は見た目は小説なのにほとんど白紙の本だった。

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