絶望
フランスのパリ郊外に一人の女性が住んでいた。
「ニコル、こっちに来い。」
「何?私をクビにでもする気?」
「ふん、言わなくても分かるようだな。今月で商品を20個も故意に壊してる。」
ニコルは少しでも不遇を感じると何かにすぐ当たる。彼女はストライキをしなくても工場に大打撃を与えるような反抗をする。
「こんな給料でこんな仕事やってられない。クビは不遇だからちゃんと給料は払って。」
彼女は家に帰ろうとした。帰り道はとても寒くダウンコートの中にも冷たい冷気が彼女のことを冷やしえ行く。外には路上生活者が犬を連れて休んでいた。屋根が無いと言うのは守るものが何も無いということ。彼女は工場と言う屋根を無くした。そしてまた新たに屋根を無くすことになる。
「こんにちは。」
「こんにちは。失業保険を申請しに来ました。」
彼女はフランス・トラヴァイユと言う機関に登録してる。窓口の係りの女性は彼女の履歴を調べた。
「無期労働契約の12カ月間で退職を2回もされてますね。」
「だから何なんですか?」
「失業保険保険を受給の対象外となります。」
「そんなの不平等ですね。」
「あなたが不満に思う気持ちは分からなくもないの。だけど私はそう言う嫌味に思うこと言うのも仕事なの。」
「そこを何とか受給させてよ。」
彼女は窓口で騒ぐ。
「落ち着いて。あなた騒ぎすぎると捕まるのよ。」
「いや、そんなのおかしい!駄目な理由を教えて。」
騒ぐ彼女を他の人達が見た。
「駄目なものは駄目なの。」
彼女は警察につまみ出された。彼女はまた途方に暮れる。みちいくホームレスの女性を見た。40代くらいの女性だ。
「あんたもクビになったの?」
「そうよ。解雇ってやつよ。給料は出ない。クソな工場に勤めたもんね。あんた誰だか知らないけど路上生活は長いの?」
「私はベテランね。自慢できる話じゃないけど。私のホームレスになったエピソード聞きたい?」
女性は笑った。
「別に。」
「これからお世話になるのに。そんな話も聞けないなんてこれから大変ね。」
「嫌味でも言うつもり?」
「そう言うつもりはないけど?」
「今なら20ユーロで聞かせてあげる。」
「お金を払ってまで聞く価値なんてないわ。」
「私の話が聞けないなんて可哀想ね。」
「その手に持ってる紙の束は何?」
「これは私のホームレス人生が書かれてる本よ。」
「そう。それならこれでも受け取って。」
彼女は女性にマドレーヌを投げた。
「グルテンフリーとかしてなければ食べれるわ。その代わりそれちょうだい。」
女性はニコルに本を渡す。
「こんな状況でそんなこと気にしてられないわ。屋根のない生活は生きるか死ぬかの戦い。グルテンフリーやビーガンなんて金持ちの特権。ダイエットだって金持ちの特権。あなたは私よりかは特権があるようね。小麦がたっぷり入ったマドレーヌを私にあげる特権をね。」
「私は物で人をコントロールするような人間じゃない。そう言う奴らと一緒にしないで。反吐が出るから。特権と言う言い方は好きじゃないわ。」
「世の中はそう言うものでしょ。金をたくさん持つほど比例して特権が得られる。特権がないのも言うほど悪くないわ。失うものなんてないから。」
「それならお金がない人間には特権がないのね。金持ちは特権で自分のない可哀想なクソばかりね。」
「あんただいぶひねくれてるけど一部当たってるわね。金持った瞬間人が変わる人間なんて山ほどいる。自分がどう言う死に方するのか死とはどう言うものかを知らないで。」
「死は人生の永遠のテーマね。ゴールの分からない死のことや分かりもしない死んだ後のことをことを考えて変な団体に献金するくらいなら現世を思うように楽しんだほうが良い。そこだけは金持ち連中も貧乏連中も同じね。」
「死はバトンのようなものよ。誰かが死ぬから新しいものが生まれる。この現代になって人間は人間と似たようなものをたくさん作ったわね。フィーチャーフォンが必要なくなればスマートフォン。古くて機能性がなくなれば人間は新しくアップデートされたものを作る。」
「それならこれから地球は機械人間の墓場工場になるわね。」
見知らぬ女性との会話を長く交わした。
「あなたニコルって言うのよね?私はアデルよ。」
「次会ったらまたあんたの話しを聞かせて。」
それから彼女は仕事を探そうとしたがどんな仕事も続かなかったり、仕事を飛んだりすることも多くなった。ついには仕事が見つからないような状況にも至った。
「どうせなら働かなくてもちゃんと楽しく生きれる人生になれば良いのにな。」
ニコルはついにはお金がなくなり住む所をなくしたり、人からお金を借りるようになった。
「ニコル。どうした?」
「母さん、お金がなくなった。だからここに住まわせて。」
「あなた何歳か分かってるの?もう34歳なのよ。」
「ふん、昔は34歳なんて子供とか言ってたのにこう言う時には都合よく言い方を変えるのね。」
ニコルの母、ジョセフィーヌは60才だ。
「それとこれは別なの。どんなことが起きようがあんたの戻ってくる場所はないの。」
「それならこのように私を育てたのは誰?ちゃんと顔を合わせろとか言うわりにはこう言う時には突き放したような態度を取る。私はあんたのような中途半端な態度が嫌いなの。」
「私を嫌おうが勝手にどうぞ。何を言われようと私は家庭方針を変えるつもりはないの。それに現実はそう言うものよ。」
「分かった。それなら二度とあんたに顔を見せない。それに介護されたければ老人ホームとかでも行って新しい男と骨を埋めたら良いわ。母さんは昔から死を呼ぶ女なんだから。」
ジョセフィーヌはニコルをビンタした。
「良い加減にしなさい。良い?冗談でもそう言うネタは面白くないの。」
ニコルの母親は昔からそう言う性格ではなかった。昔はいたって普通の性格だった。彼の亡き実父も義父もどこにでもいるような父親だったし、彼女は不遇を受けることもなく特別な恩恵を受けることもなく大人になった。
「だから何?本当のことを言ったまでよ。」
何が彼女をここまでにしたのか彼女は分からなかったし、変わり果てた娘を受け入れることなど出来なかった。
「私、帰る。」
「ちゃんと仕事見つけて生きるのよ。」
彼女はそれから家を探そうとしたが中々見つからず色んな人の家を転々とするようになった。もちろんそれは短期間だ。エンゲル係数に問題が出れば彼女は追い出されて行く。まるでミツバチの働かないオスのように。だけどそんな彼女にも良い同居人が見つかった。
「ニコル、いつもありがとう。」
彼女の名前はヴィルジニーだ。
「贅沢な暮らしは出来ないけどここならマシね。」
最初は彼女との反発が多く喧嘩ばかりだったが、だんだん彼女に慣れていった。
「もっと贅沢な暮らし?無理よ。ここにずっといるならね。」
「しばらくはヴィルジニーの所にいる。そんなに働かなくて良いならね。花壇の水やりなければ完璧だけど。」
「馬鹿言わないで。」
ヴィルジニーには家族がいる。息子2人と小金持ちの旦那だ。
「おばさん、サッカーやろうぜ。」
彼女はヴィルジニーの息子、クレマンとセバスチャンの遊び相手だ。彼女はスポーツも観戦も好きなので好都合だった。彼女の仕事はヴィルジニーの家の庭の水やりと子供達の遊び相手だ。
「あんた、ゴール決められるようになったわね。」
「セバスチャン頑張ったな。今度の試合上手く行きそうだな。」
セバスチャンは地域のサッカークラブに入っていた。
「今さらだけど何でずっと私をここに住まわせてるの?」
「自分でも分からないけどあなたが特別だからよ。人間は違うと思った方を選ぶのよ。」
「あんた面白い人ね。」
テレビがついていた。
「あの極右政党だけは入れちゃ駄目ね。やつの愛国心なんて空っぽ。国をどうするなんてどうでも良い。勘違いしないで私は右翼とか左翼とかどちらかの考えに左右される人間じゃないの。極端なことが嫌いなだけ。」
「フランス人がそう言う連中に入れるほど馬鹿だと思う?そもそも私、そんな政党に入れるメリットなんてないし。」
彼女の祖父はインド人だ。移民のルーツが彼女にも少し残っている。
「ニコル、勝手にヒーターをつけないで。環境に悪いでしょ。」
「外のティータイムは流石に寒いでしょ。」
ヴィルジニーは少しこだわりが強いがニコルはそんな彼女が嫌いになれなかった。
「最近は旦那とはどうなの?」
「性生活も順調よ。だけど何か物足りない感じがするのよ。」
「ジョルジュってそんなにテクニックないの?」
「人並みよ。満足してるはずだけど何か物足りない気がするのよ。」
「それくらいがちょうど良いんじゃない。これ以上何を求めるって言うの?それならセラピストでも呼べば。セラピストに今まで体験したことないこと教えてもらうのもありよ。」
ニコルはからかった。
「馬鹿言わないで。私は新しいアバンチュールをしたい気分ではないの。旦那との夜の革命を起こしたいのよ。」
「冒険も悪くないでしょ。」
「私達はあんたの見世物じゃないのよ。刺激的な映画を見たいなら。DVDのある部屋からたくさんの映画見たら良いわ。ドイツ映画とかもたくさんあるし。」
「この前見たドイツ映画もそう言うテーマだったわね。仕事も恋愛も順風満帆な女性が夜の仕事もはじめる話ね。中々見応えあっわね。」
「あの映画ね。」
「ヴィルジニーの未来なんじゃないかなって。満足した人間は破滅の方向を選ぶ。」
「そうだとしたらこのカメラで映画でも撮る?」
「冗談よ。」
2人は冗談を言い合いながら笑い合った。
「ママ、ナスが採れた!!」
「ちゃんと収穫出来てるわね。」
「クレマンのぶんの水は私がやったのよ。あなただけの実力じゃないのよ。」
「ニコルは大人げないな。」
「だってそうでしょ。」
「今日の夜は全部ヴィーガン料理よ。」
「ヴィーガン?肉食べたいよ。」
息子のセバスチャンが言った。
「たまに向き合うことも悪くないのよ。人間は一生食と向き合うのよ。」
ニコルは彼女を特権のある人間かの眼差しで見た。
「母ちゃんは何でたまにヴィーガン料理にしたがるの?」
「私の中の気分よ。ヴィーガン料理とにらめっこをしたい気分ね。悪くないでしょ。食べてる間に何故この料理を食べてるのか考えるの。まるで対話をしてるかのようにね。」
「僕はヴィーガン料理も好きだけど、セバスチャン子供だな。」
「兄ちゃんだって前はヴィーガン料理嫌いだったのに。」
「お前が子供すぎるの。」
「それならこのナスでいかに美味しいヴィーガン料理を食べれるか考えてみよう。」
「ナスと言えばラタトゥイユとかね。焼いても美味しいわね。」
「そもそも何で人間はナスを食べようとしたの?僕はこんなのあんまり好きじゃないけど。僕が昔の人ならこんな変なもの食べようとしないけど。」
「さあ知らないわ。木の実かなんかだと思ったからじゃない。食べて見て先人が美味しい食べた方を開発して料理まで定着したのよ。きっとね。」
「ニコル、良いこと言うわね。それなら私達にも美味しい食べ方があるわ。それに冷蔵庫にも他の野菜や植物性の食品がたくあるのよ。豆腐とかアーモンドドリンクとか。」
「それならナスと他の野菜をミキサーでかけてポタージュなんてどう?」
ナスについての話し合いは数分にも続いた。
「ニコル、豆乳とってくれない?」
「こっちで良い?」
「空いてないのは駄目。先に空いてるのにして。」
「分かったよ。あまり好き勝手すると誰かに追い出されるからね。」
「誰のことかしらね?」
料理を食べてはまた話し合いをしてデザートを食べた。それがこの家での日常だ。ニコルもよそ者ではなく家の一員となっている。都合の良い家政婦とは違う。
「ヴィルジニー!」
「ジョルジュ!」
夜は2人が暗闇で愛の言葉を交わす。彼女はその二人の様子を考えながら聞く。これから何が起きて欲しいかまで。
「お父さんと母さんもこんな感じだったかしら?」
自分の両親とも重ね合わせる。縁をきったつもりだけど忘れるようなことは出来なかった。彼女はお茶を飲みながら二人の声を聞いた。
「1点お届け物です。サインをお願いします。」
「分かりました。」
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
彼女は荷物を受け取った。
「クレマン、この絵本あなたが頼んだの?」
「絵本なんて僕読まないよ。もう12歳だし。」
「それならセバスチャンかしら。」
セバスチャンが喜んで受け取るが絵本はある1ページを除いては白紙の状態だった。
「誰も頼んでない本が何で来るのかしら?」
「ジョルジュ、私の名前勝手に使って間違えた頼んだんじゃないの?」
「俺は知らん。配送業者の間違えだろ。」
「それなら誰がこんなもの。」
ニコルは本を見つめた。この本が彼女の人生に影響するなどこの時は知らなかった。




