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発見

ニコルはダミアンの前で彼が大事にしてる本を食べた。

「ニコル、何してるんだ?」

「見てたの?」

「普通の本まで食べるようになったのか?」

「そうよ。驚いたでしょ?でもダミアンにはもう隠す必要なんてないわ。」

何事もなかったかのように彼の目の前で食べ尽くす。

「本を盗んで食べたのも君なのか。」

「そうよ。どこで知ったか知らないけど、あなたはそんな私を匿ってるわけよ。」

「そう言えば何でうさぎがそんなに苦手なんだ?トラウマでもあるのか?」

「いきなり何でそんな話を?あの記憶が蘇るのよ。母親が私にしたことが。うさぎを飼ってた時は好きだったわ。」

彼女は小さい時にうさぎを飼っていた。とても可愛がっていて面倒を怠ることはなかった。愛玩動物との友情に関してはかなり忠実だった。常に友達だった。だけど彼らにも生と死は存在する。そんな彼にも生涯のパートナーと出会うこともなく死という着地点に到達した。もちろん彼女は悲しんだ。悲しみにふける彼女を無視して母親はうさぎの亡骸をゴミ箱に捨てた。土に埋めようと言っても彼女はゴミ箱に捨てて彼を処分した。母親は動物が家にいるのが嫌いだった。だけど父親はとても寛大だった。それがずっと前から気に入らなかった。その出来事は1羽のうさぎの死だけではなく、うさぎへの関心の死も引き起こした。うさぎを見るとあの出来事が反芻するので自分の中でそれに対する愛情や関心を殺した。

「好きじゃないことにしたのよ。殺せるものは人や生きてるものだけじゃない。都合が悪い記憶や関心だって消すことが出来る。」

「トラウマを克服することは考えたことあるのか?セラピストにはそれ話したか?」

「話したわ。だけど簡単にそんなものは消えるはずがない。」

「復讐による殺人も同じだな。自分の都合の良くない者を消す。嫉妬や憎悪などの感情を消す為にほとんどがそうする。」

「そうね。」

彼女の母親はそれ以外は憎むところのない存在だった。しっかりとニコルは母親の愛を受けていたし、虐待を受けることなども無かった。過保護の時もあるくらい彼女を愛していた。ニコルはそんな母親を糾弾し続けることは出来なかった。

「もう母親の所には戻れない。大人になって急に自立と言うものを求められたわ。子供の時はただ可愛くいれば良い、愚かでも可愛い娘でいれば良いって思ってたでしょうね。自立なんて求めていなかった。」

彼女は自立と言うものを知らずにそのまま大人になった。

「自立は全ての人間を幸せにするわけじゃない。自立しても結局新たな「保護者」のもとで人生を送ることになるのよ。その保護者が見当たらなければ路上生活よ。」

「君は誰かに縛られない可能性はある。」

「そう思う?私はそうは思わない。それが私にあった生き方だと思ってる。逆にその保護者を利用するだけ利用すれば良いのよ。都合が悪くなったら捨てるならこっちも都合良く使う。それがニコルの生き方よ。」

「君自身の信念は時として正しくて、時として正しくない。独立は責任もあるし、全て自分で何とかするしかない。だけど何も縛らない自由だ。」

「それが現代の多くの人間の生き方ね。だけど私はそれを望まない種族よ。責任は取りたい相手に取れば良いと思ってるし、縛りがあるなら何も無かったのように規則を破ったり抜け穴を見つければ良い。」

「君が責任取りたい相手はどれくらいいるんだ?」

「少なくとも1人はいる。ダミアンよ。条件によっては取れない責任もあるけど。」

ニコルは床に転がった。

「何してるんだ。」

「ここは路上の石畳よりましね。路上生活と警察に追いかけられて匿ってもらってるこの部屋を比較してる。ずっとこの方が良いわ。」

「どれくらいそんな生活をしてたんだ。」

「1年以上はしてた。仕事を辞めては失業が続いて条件によっては失業保険を貰えず屋根のない生活を強いられたわ。何人かには助けられた。哀れみでからお金をあげる男性、話し相手が欲しくてお菓子をあげる車椅子の女性、子連れで心配そうにお菓子をあげる母親色んな人に助けられた。中には暴力を振るうやつが男でも女でもいた。それに汚いものを見るかのように軽蔑する人間も。自分はそうならない、そうなったのは努力が足りないから助ける必要がない、そんなふうに思ってるでしょうね。」

「辛かったな。路上生活して良い人間なんて誰一人いない。それに路上生活と人生の放棄は結びつかない。」

ダミアンはニコルを抱きしめた。

「そうよ。世の中努力とかではどうにもならない限界がある。そんなきれいごと言う一部の人間は逆に利用すれば良い。今の気持ちは同情の気持ち?可哀想なものを見るような眼差し?」

「苦しんで欲しくない感情だ。愛だ。」

「愛ね。どんな愛?」

「光を放って花も虫も獣を照らすような愛だ。アイリスの花も照らすような愛だ。」

花瓶をテーブルに置いた。

「この世界が暗黒になってもそう言い切れる?」

「敵だらけになっても暗黒になっても光が1つあれば十分だ。孤独な人間がいるとしたら人を殺した人間だ。もし俺が人を殺したなら愛も光もない人生だ。そこは殺人を犯した記憶が残った逃げられない暗闇だ。」

「警察からは逃げる手段があるなら暗闇ではないわ。」

「ずっと追われて、恨まれる人生だ。そこに光はない。」

ダミアンは少し彼女から目を反らしていた。

「目が合ってないわ。私のしたことに動揺してるの?」

「動揺してる。だけど君を警察に突き出すことは出来ない。」

「それならあなたも同じね。」

ニコルはダミアンの顔を向けた。


「あの女性の証言怪しさがある。」

「死体遺棄をしたのもあの女性の可能性が高い。だけど証拠が不十分だ。監視カメラに記録は残ってない。」

「あそこで逃げたのは無免許だけではないはずです。無免許で起訴されればまだ懲役1年で済む。だけどあの焦りようは死体遺棄を問い詰められたら不味いと思ってる可能性があります。」

「問題はどこで降ろしたかだ。シャンボン家宅の監視カメラには明白に男児と女性が一緒に車に乗る様子が記録されている。事件現場から500m離れた監視カメラにもしっかり映ってる。問題は事件がいつ起きたのか、どこで降ろしたのか?」

「そもそも降ろしたことも嘘の可能性があります。誤って男児を轢いてしまって死体遺棄可能性が高いです。」

令状は出てないが彼女の言動に不信感を抱く警察官が何人もいた。

「調べた車には血痕が残っていません。」

事件は本人しか知らない状況だった。


「ジョルジュ、ニコルがしばらくいないから庭の植物に水をあげて。」

「ニコル、戻ってこないな。」

「何があってもここに戻って来るわ。ここに不平不満があっても戻れる場所はここしかないの。ダミアンは同居するのに向いてない男よ。彼じゃあの子のことを導けないわ。」

この夫婦の間ではセバスチャンとクレマンのことも話されることはなかった。何故か家族関係にないニコルの話ばかりをしていた。

「警察に捕まってなければ戻って来れる。」

ヴィルジニーはニコルの部屋で寝た。再び目が覚めると彼女が保管してた本を一つ見つけた。それを書斎に持って行った。ダミアンは名前も分からない木の葉っぱを何枚か取った。そして枝も何本か折ってカゴにたくさん入れた。それを書斎に持って行く。 所定の場所に置くと鍵を閉めた。

「何してるんだ?」

「ニコルの部屋の家具を移動させてくれないかしら?」

「分かった。」

二人がかりでニコルが使ってたものをどこかにしまおうとした。


「誰と電話してたの?」

「久しぶりに母親から連絡が来た。どうやって番号知ったのか分からない。」

「何話してたの?」

「遺産相続のことで連絡が来てた。母親がいなくなったら家を売り払うことになる。他に相続するものは特にない。」

「元気だった?」

「元気じゃない。俺がトラウマを誘発する存在だから。」

「ダミアンは悪くない。あんたは悪くない。」

「分かってる。自分の存在は罪なんかじゃない。」

しばらく彼は無言になった。

「ダミアンのことを完全にいらない存在だと思ってない。もちろん愛したくない気持ちが強いのは分かる。だけど本当に罪な存在だとしたら今頃お母さんはあんたのことを殺してる。」

「やめろ。」

「私じゃあんたのお母さんをどうにかするのは出来ない。だけど最後に顔合わせることは出来る。」

「そんなことをしたら母親がどんどん立場がなくなる。」

「だけど最後を見届けられるのはダミアンだけなのよ。」

「それは出来ない。それにこれ以上この話はやめてくれ。」

彼は涙を流した。

「もう話さないわ。」

ニコルはダミアンを後ろから抱きしめた。優しく包み込む。彼女の温度が彼の涙を乾かす。

「インターホンだ。」

彼が出ようとすると警察が出て来た。

「ニコルはいません。」

「調べさせて頂きます。」

彼女はベランダに出てロープをつないだ。

「来るな!」

彼女は下を見ずに降りて行く。

「下に降りぞ。」

「今向かいます。」

「まずい、気がつかれた。」

彼女は1階まで降りて行く。無事に着いたが目の前には警察官がいた。

「無駄な抵抗はやめなさい。」

「嫌よ!」

彼女は分厚い本を警察官に投げつけた。急いで走って行く。

「待て!」

「待ちなさい。」

「ついて来ないで!」

ダミアンはその様子を外から見てるだけだった。これ以上彼女を助けることが出来なかった。

「ニコル…愛してる。」

ありふれた言葉を聞こえない距離で言うことしか出来なかった。 

「ついて来ないで。私は潔白なのよ。」

しばらくパトカーで追いかけ回されることになった。しばらくすると警察もニコルのことを見失ってしまった。

「やっと解放されたわ…しつこい警察官だった。」

彼女は安心した。久しぶりの外は彼女の気分を開放的にする。そして彼女はお店でヌガーを盗んでそれを食べた。食べながら歩くと辺りは昼なのに暗い感じの所だった。だんだん彼女は自然と事件現場の所に進んで行く。歩道のない危険な道だった。少し霧が出て前が見えにくかった。行く当てもなく進んで行く。どうやって進んでも正解が見えない。逃げても逃げても追われる地獄からは逃れることは出来なかった。すべて彼女が起こした罪の宿命だ。

「誰かいますか?誰か!」

助けを求めても求めてはいけない。後ろを振り向くと人影が見えた。

「待って!」

その人影は走って彼女のことを追いかけて行く。

「こ、来ないで!」

彼女が言ってもずっと追いかけて行く。

「来るなって言ってるでしょ!うわ…」

彼女は気絶した。

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