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喪失

ニコルは涙を流した。土は彼女の涙で濡れる。きっとその涙一滴で新しい生物の人生がはじまるかもしれない。喪失感と罪悪感と保身の涙から出た涙によって。それは大人が自分の子供を失った涙でもない。彼女とセバスチャンは親子の関係でも親戚の大人と子供、学校の先生と生徒の関係でもない。子供と子供の立場のような関係だ。守る者と守られる者、導く者と導かれる者の関係ではない。導き合える可能性のある関係だ。責任と言うもの意識的に感じない存在。

「もうサッカーも出来ないね。」

彼女は彼にそう言うしかなかった。

「サッカーがしたいなら僕を土から掘り起こして。ここ狭くて嫌いなんだ。ニコルばかりズルいよ。そうやって僕の部屋を占領するんだろ?ニコルも僕みたいにお兄ちゃんの物取ったり、勝手に食べたりするだろ。きっと僕の部屋にある隠したお菓子食べるだろ?」

彼女は彼が言いそうなことを無表情で言った。もう彼から発する言葉何もないから自分が言うしかなかった。

「ニコル、何してるの?」

庭で一人でサッカーをしてるとヴィルジニーが声をかけた。

「サッカーよ。」

「クレマンとかとはしないの?それにセバスチャンはどこに行ったの?さっきから探してるのにいないの。」

「その割には冷静そうね。」

「本当に見てない?」

「見てないわ。出れる好きがないのに不思議ね。」

ニコルは知らないふりを突き通す。

「ジョルジュには連絡したの?」

「今探して貰ってるの。学校にも連絡したけどいないって。」

「ダミアンにも探してもらうわ。」

かなりの大事になった。

「バズ!」

「セバスチャン!」

「クレマン、見つかった?」

「ここにもいなかった。可笑しい。」

ジョルジュが警察に捜索願いを出した。

「捜索した結果、お宅の息子さんは何者かによって殺そられて遺棄された可能性が高いです。現場近くには息子さんの血痕が残っています。恐らく交通事故による過失で死体を遺棄した可能性があります。検死した結果、損傷部は刺されたようなものではなく、衝撃によって出来たものだと思います。」

「監視カメラでは何か分かったんですか?」

「確認しましたが不可解なぼやけがありまして現場の様子が検出できませんでした。」

おそらく本が招いたことかもしれない。

「調査の一環としてお宅の監視カメラを確認しても宜しいでしょうか?」

「お願いします。」

監視カメラでどこを映してるのか確認した。

「これは…」

「嘘、ニコル、勝手に車を運転してセバスチャンを乗せたの?」

ヴィルジニーはニコルの方を見た。全員の視線が彼女の方に向けられる。その眼差しは罪人を見るような眼差しのようだった。

「ニコル、これはどう言うことなんだ?」

ジョルジュが聞いた。

「確かに私がセバスチャンを車に乗せて、あんたの無許可で運転してたのは認める。だけど私は彼を殺したりなんかしてないし土に埋葬なんてしてない。」

彼女は1つの罪を認めてもう一つの罪を認めなかった。潔白じゃない人間の多くは全ての罪を認めない。だけど彼女は一部の罪を認めて部分的に潔白であるかのような振る舞いをする。そのような人間もこの世界にはいる。

「あの時、車の中でセバスチャンと口論になったの。私、実はかなりの糖分依存症で夜になって勝手にクレマンやセバスチャンの部屋に入ってはお菓子を食べてたし、夜勝手に戸棚を開けたり冷蔵庫を開けてお菓子を食べてたの。」

「ニコル、僕の部屋に入ってたのか!もしかしてルーペ持ち出したのも君か?泥棒に死体遺棄?」

「クレマン、静かに。糖分依存症が口論の原因?そんな筋の通らない話があるかしら?」

ヴィルジニーがクレマンを止めた。

「その時、お菓子のゴミがポケットから出て。それをたまたま彼が見たの。彼が小さい文字でNと印をつけてたから、彼はすぐに私が部屋に入ったと分かって、私を責めたの。それで私も子供相手にムキになったわ。私はセバスチャンを車から追い出して分かるまでじっとしてた。そしたら走って行っていなくなった。」

「何で追いかけなかったの?」

「だってすぐ戻ってくると思ったから。すぐ迷子になって戻ってくるはずだったけど戻ってこなかった。」

彼女は涙を流した。

「本当にこんな些細なことがこんな大事になると思わなかった。」

「今後車は勝手に運転しないで、それにあんたは無免許でしょ。あっ…」

ヴィルジニーが警察の前で言ってしまった。

「無免許だって?君、800ユーロの罰金だぞ!」

「たった1回だけよ!そんなことしなくて良いでしょ。」

「違法なものは違法なもの。」

法律は時として1回の過ちを許さない。その過ちの重さが小さかったとしても。ことが起きなかったとしても。

「私は1回だけしかしてないのよ。確かに免許証なんてないわ。」 

彼女はどんどん言い逃れ出来なくなる。

「無駄抵抗はやめなさい。」

「署まで同行をお願い致します。」

彼女は走った。

「逃げるな!」

「嘘、効果が弱まってる。」

走れるスピードがかなり弱まってしまった。

「待て!」

パトカーが彼女を追いかける。

「あの女性速いですね。」

「おい、関心してる場合か!追いかけるぞ!」

「しつこいわね。うわっ…」

彼女はつまずいてしまった。

「まずい!」

パトカーがギリギリまで近づく。絶体絶命の状況だった。

「こうなったら。」

バッグの中に入れたフルーツスプレッドの瓶を投げつけて逃げた。

「クソ!こんな物投げるなんて危ないだろ!」

「すみません、応援をお願い致します。無免許運転を犯した女性は今リュクサンブール公園付近にいます。」

しばらく走るともう1台パトカーが彼女の方に来る。

「行くぞ!」

「無駄な抵抗は辞めなさい。」

挟み撃ちになってしまった。

「最悪!クソ!」

ここで捕まって、拘置されて、検察によって起訴されてしまえば彼女は禁固1年になってしまう。さらに余罪で刑が重くなる可能性も否めない。

「これ以上裁判になって終わるなんて何てクソで価値のない人生よ。」

もう逃げ場は無かった。

「手を挙げろ!」

彼女の周りにいつの間にか煙が出て来た。彼女が食べた本の能力だ。

「どこだ。」

煙がなくなると彼女は見えなくなった。

「これ貸して!」

彼女はある男性から自転車を奪って逃走した。

「泥棒!」

「いつか返すから!」

そう言って彼女はダミアンの所に行った。

「ダミアン!はやく!はやく!」

「何だよ。」

「ストーカーに追われてるの!中に入れて!」

彼はそう言われてすぐに彼女を部屋の中に入れた。そして鍵を厳重に閉めた。

「そんなに焦ってどうしたんだ?ストーカーってどうしてそんなこと今まで話してくれなかったんだ…」

彼女は勢いよくダミアンの方に駆け寄る。

「ストーカーなんて嘘よ。無免許運転がバレて警察に追われてたの。ここで捕まったらどうなるか分からない。お願いだから私のことを匿って。」

「駄目とは言わないけど全ては保証出来ない。分かったな?」

「うん。分かってる。あとセバスチャンは見つからなかった。ここ最近本の世界にいるような感じがする。」 

「どうしてそう感じるんだ?毎日がスキャンダルだからか?」

「そうじゃないの。最近人が死んだり、いなくなったり、誰かが犯罪起こす環境と隣合わせよ。」

「人生と本は似てないようで近いものだ。本は現実の鏡のようなものだ。現実を風刺するようなものだ。現実を照らし合いたいと言う人の心と近いものだ。展開が読めないのが本だ。現実だって展開が読めるわけない。例えば明日一日快晴だって予報だとしても外れるし、地球が滅亡する予言だって当たるわけじゃない。宗教の教えだって必ずしもそうなるわけじゃない。世界を何とかできるのは著者のような経緯があって絶対にあえないような存在だな。」

「それならその権力握ってる著者のような人物と会ってみたいわね。神様と言うところかしら?会って、すぐにこんな追われる人生から解放されたいと言うわ。」

「著者と言うものは気まぐれで動いてる。ハッピーエンドを書きたければ良い方向に終わらせるし、バッドエンドを書いたければ絶望的な状況に登場人物を追い込む。文字と言う権威を残酷な使いしてるもんだな。神がいるなら気まぐれだな。」

「そう言えばダミアンは無神論者だったわね。」

「小さい時は教会はよく行ってたけど俺は見切りをつけた。人間は誰かに導いて貰うばかりの生き物じゃないって思ったからな。世間の一部はそんなわがままな生き物だと思うだろうな。」

「私を愛することはわがままなんかじゃないわ。現代人としての最高特権よ。」

「愛することは時には欲だ。」

「そうよ。欲よ。恋愛は誰もが持つ欲と欲の居酒屋みたいなもんね。本や映画を見ればそんなものよね。」

「ここは居酒屋か。何飲む?」

「ジントニックで。炭酸割りでお願い。」

2人はジントニックで乾杯をした。

「ずいぶん好待遇で匿ってくれるのね。これから私をどっかに閉じ込める?」

「出来ればそんなことはしたくない。だけどここで捕まって君との時間を失いたくない。俺は法より欲を選んだ人間だ。」

「法と欲ってそんなに遠いものかしら?誰もが持つ欲を均一化にするのにあると思ってる。」

「その結果が不平等と不遇を押し付けるものにもなってるな。だけど法律そのものがなくなったら社会崩壊する。」

「そんなこと分かってるわ。法律があっても人の欲を制限するわけじゃない。欲望と言うものを消すわけでは無い。法律を作る人間に欲望が消えない限りはね。」

「仮に俺が警察に追われてる身だとしたら君はどうする?」

唐突にダミアンが彼女に聞いた。

「犯した罪によるわ。強姦だとしたら迷わず警察に通報するけどそれ以外の罪だとしたらあなたを匿うわ。ヴィルジニーにバレないようにね。」

「君ならそう言うと思った。」

「何?私を試してたつもりなのかしら?」

「そうだよ。」

「変なこと言わないで。」

「そう言うふうに話を持って行ったのは君のほうだろ?」

電話が鳴る。

「ニコル!どこにいるの?」

「教えられない。ヴィルジニー、あんたの所にいたら私、捕まるかもしれない。今さら戻るなんて無理よ。警察に目をつけられてるだから。」

「そうじゃないの。」

「何?居場所を特定して私を通報して警察に差し出すつもり?そうなんでしょ?相当無許可で運転したのが許せなかったのかしら?セバスチャンのことは本当に私じゃない。」

「それが今度はクレマンがいなくなったの。」

彼女はかたまった。

「もしもし…ニコル…何してるの!?」

彼女は携帯をソファーに投げつけた。また一人喪失する日になった。

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