悲劇
「アデル!!」
アデルは階段から落ちた。
「アデル、大丈夫か?目を覚ませ!」
ミシェルが彼女の倒れた姿を見て悲しみの表情を見せた。その後救急車に運ばれた。病院で手術が行われたが彼女は後頭部を強く損傷して帰らぬ人となった。パーティーは悲しみに暮れるかたちで終わることになった。
「アデルがまさか階段から落ちるなんて思わなかった。人の人生って何が起きるか分からないものね。久しぶりにあったあの日は輝いててとても元気だったのに。」
ニコルは言った。
「同級生であんなふうに亡くなるなんて苦しいのは分かる。だからこそニコルは今をちゃんと生きるべきだ。」
ダミアンがニコルに言った。
「私は死ぬ為に生きてるの。いつでも死んでも良いように好きなことだけして嫌なことを全て避けて、贅沢に生きるつもりなのよ。死の先にニコルとしての人生をやり直せる保証なんてどこにもないのよ。行ったこともないのに。」
「そうだな。俺は生きる為に生きるけど。」
「死は1つの終わり。不死が存在するならそれが希望の損失よ。私は死という最終地点があるから希望ないし欲望があるの。不死は生物としての本能を消失させるようなものね。そうなったら生き物の顔した人工知能と変わりはないわね。」
「死が怖いと思ったことあるか?目の前でセリーヌやアデルの死に直面しただろ。」
「少しは恐怖を抱くことがあるわね。その恐怖の気持ちに左右されるならまだましね。誰か救済してくれる人の言葉ばかり聞いてたら生にも死にも向き合えてないわ。」
「俺は死ぬまでに良いことの1つはしたいな。生き物として生まれるならクソだと思うことを1回はするなら良いことをする回数も増やさなければならない。」
「死後へのポイント稼ぎ?その善い行いって利益を求めた善い行いね。社会性のないクソな動物でもしないわ。」
「汚い言葉をあまり使うな。」
「先に使ったのはダミアンの方よ。」
彼女はしばらくワイングラスを見つめた。ワイングラスを見て思い出した。
「サフィーヤ、1つお願いがあるわ。これうちにあるワインなの。アデルが飲みたいって言ってたから入れてくれないかしら?アデルにだけよ。」
実はスパークリングワインのコルクにたくさん息を吹きかけた。コルクを通り越して彼女の息はワインの内部に触れた。それほど彼女の息は強力なものだった。ほとんどの人が転落が原因で死亡だと思ったが実際は医学では証明できない彼女の息のせいでアデルは命を落とした。嫉妬によるニコルの犯行だ。
「先生が殺された…」
「そんなの信じたくない。」
クレマンの学校の教師が凶変したオリビエによって刺されて命を落とした。その為葬儀が行われることになった。とても悲しみにくれる葬式だった。
「オリビエがまさかあんなことするなんて信じられない。あれは本当に彼なの?」
「きっと二重人格よ。だって普段はあんな感じじゃないし。」
オリビエの話題はおさまることはなかったが、生徒達は彼を糾弾まではしなかった。
「オリビエがあんなことするなんて何か変じゃないか?」
ギヨームがクレマンに言った。
「だって誰に対しても優しくて、博識でスポーツ万能で頭の回転がはやい奴がそんなことするなんて俺は信じられないんだ。」
「それが本当の彼なのかもしれない。僕も信じたくないけど。」
クレマンはこれ以上彼の話はしたくなかった。ライバルがいなくはなったが彼の心がちゃんと満たされるわけではない。衝撃を隠せないとはいえ注目は常にオリビエだからだ。友人ですら彼の話ばかりする。彼が思いを寄せてるソフィーも同じだ。
「良いことしようが悪いことしようが目立つやつなんだよ。それが彼の宿命なんだよ。これからずっと誰かに見られる運命だろうね。羨ましいとは思ってたけどこうやって殺人まですると何だか複雑な気持ちだ。」
彼の中でシャーデンフロイデと罪悪感が戦っている。2つの思想の戦争だ。その戦争は一度火がついたら簡単に消えることはない。傷つくのはその概念ではない。概念そのものには何も影響しない。人間が作ったロボットのように。その代わり概念の戦争でクレマンの心を蝕んでいく。
「クレマン、どうしたの?」
ニコルがヴィルジニーに聞く。
「慕ってた先生の死にショック受けてるのよ。それに仲良くしてた同級生によって殺されたからそうなるのも無理がないわ。追い打ちかけるようなことは言っちゃ駄目よ。」
「私をサイコパスか何かだと思ってるのね。それなら私が殺人犯したならどう思う?」
「ショックよ。だけどあんたを嫌いになりきれない。」
「それなら通報か何かする?」
「通報以上のことをするかもね。」
彼女は少し笑みを浮かべながらニコルに言った。
「殺したりとか?」
「そんなことはしないわ。この話はやめましょ。」
ニコルは本屋に行った。ダミアンも知らないパリ17区の本屋。彼女はそこまで自転車で行った。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
彼女は店主に挨拶をした。彼女は80代くらいの女性だ。本屋は本をこよなく愛する人がたくさんいた。そして本を食べたい者を一人。彼女は手に取った中国史の本を眺めた。それを眺めると目の前には中国の屋台が広がっていた。屋台にはたくさんの本が焼かれていた。焼かれていた本をたくさんの読書愛好家が食べようとした。しかし食べようとしても食べれない様子だった。燃えているはずなのに彼が手に持ってると本が焦げる様子はなかった。私はそんな中本を眺めた。すると北京ダックの匂いや水餃子の匂いが漂っていた。全員着てる服がいつの間にか漢服になっていた。本を食べようとすると彼らはそれを奪おうとした。しかし誰一人私から奪うことは出来ない。口の中で中華風の味が広がって行く。とても美しい匂いと味だ。彼女はそれを食べて幸福感に満たされる。
「泥棒!」
その一言とともに景色は本屋に変わった。数人の客が私のことを見た。店主はその言葉で駆けつけた。
「泥棒?追いかけて!」
数人に追いかけられて急いで本屋を出た。自転車に乗ってどこまでも行った。
「ずいぶん慌ててどうしたんだ?」
ある女性が彼女に言った。
「本泥棒だと思われて追われていました。」
「本泥棒?盗みたくなるくらい本の虫なのか。本は触るのが好きか読むのが好きか?それともどっちもか?」
「どっちも好きじゃありません。読書など興味がないので。」
「私は触るほうが好きだ。触ることによって本が生きたような感じがするんだ。電子書籍など私は嫌い。」
「面白いこと言うのね。特定の人しか触れない禁書とかも触ってみたいと思う。」
「うん。どんな物語をたどったのか、どんな歴史を歩んだのか知りたい。この手で知りたい。」
「手だけで何が分かるの?」
「何か分かるわけではない。」
「本は読んでこそはじめて価値があるって言うでしょうね。本が本当に好きな人間は。」
その女性をあとにして適当に自転車で走った。景色はどんどん変わる。高級住宅街もあれば軽犯罪が起きる地域などもあった。
「ありがとう。」
「受け取って。」
「ありがとう。」
ある公園では子供達が集まるイベントが行われていた。うさぎの帽子を被ってる男性が子供達にお菓子を配っていた。
「何か用ですか?」
「こっち向いてください。」
ニコルはそう言って男性の頬をビンタした。するとお菓子は落ちた。子供達の悲鳴を気にすることもなく数個のキャンディーを取った。それを口に含みながら自転車を走行した。そして家についていく。
「ただいま。」
「ねえ、クレマン見なかった?」
「ギヨームとかと遊んでんじゃないの?時には一人になりたいのよ。」
「ずっと1人で閉じこもっても駄目なの。あの子時々落ち込むと1人で抱え込む癖があるの。」
「それなら私が探そうか?そんなことしなくてもこう言うのは本人が自分で解決すると思うけど友達には恵まれている方だと思うし。」
彼女は思った。ヴィルジニーはきっとクレマンの綺麗な一面しか知らないと。
「ねえ、セバスチャン一緒にドライブしない?」
「うん。」
嫌がることもなく彼は彼女の提案を引き受けた。
「クレマンとは仲良くやってる?」
「お兄ちゃんはどこかせかせかしてて怒りっぽい感じするけど何だかんだ好きだよ。」
「それなら良かったわ。あんな完璧主義な子も欠点もたくさんあるのよ。」
「完璧な人っているの?」
「完璧なんて童話の中の主人公やアクション映画のスーパーヒーローだけよ。現実にそんなことできる人はいないわ。私は周りの大人と違ってあんたに夢を見させるようなことはほぼ言わないわ。」
道は少し薄暗い所に出た。
「テストでも完璧は求めないのが現実よ。20点完璧に取る子なんていないでしょ?完璧求めたら期待値から外れてしまった時存在価値がなくなるの。それならある程度手を抜いて生きた方がよっぽど良い人生よ。力いれる所には力いれて手を抜くところは誰かに任せる。クレマンは何でも1人でやりたがって1人だけで成果を出したがるだろうね。」
「それならやんちゃ坊主で馬鹿なことばかりする僕がいて怠け者のニコルがいてこの家のバランスが取れてるかもね。」
「そうね。」
車でどんどん進んでも特に何も変わりがなかった。進んでも進んでも一通りがなかった。きっと彼女が食べたのは無免許運転をバレずに済む本だったに違いない。どんなに走っても、どんなに真っ昼間の時間帯に走っても人と出会う確率はかなり低かった。
「ちょっとそこで停めてくれる?あの花綺麗だから。」
セバスチャンは車から突然降りた。
「セバスチャン、勝手に花を摘むのは駄目よ。」
「何で?」
「生態系が崩れるのは不味いわ。それと野生生物に餌とかもあげちゃ駄目よ。」
彼女が目の前を見るとうさぎのマスクが落ちていた。彼女は震えていた。思わず車を動かして走らせようとした。うさぎのマスクをめがけようとした。すると花を摘んだセバスチャンが目の前に飛び出した。そして望まないかたちで彼を車でひいてしまった。彼は茂みの方に倒れ込んだ。
「そんな…嘘よ…」
彼をひいたのはウサギの変装男とうさぎをひいた所だった。
「セバスチャン…嘘でしょ!!目を覚まして!!」
涙を流した。携帯を取り出して救急車を呼ぼうとしたが彼女の手は止まった。
「私は…悪くないのよ…全てはアイツが悪いの。」
そんなことを言ってセバスチャンの死体を運んだ。そして彼の為に穴を掘った。
「ちゃんと埋めてあげるからね。」
彼女は冷や汗をかきながら彼に向かって言った。そして彼を土の中に埋めて行った。彼女は土の中に新たな「訪問者」を産み出してしまった。




