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引き返せない道

「何もなかったのよ。あれは幻覚なのよ。」

ニコルは窓の前で土まみれになった。

「私もあのうさぎからしたらなかった存在。立場が変わろうと。」

窓を茶色のペンキで塗る。盗んだチョコレートを食べながらむらなく塗る。

そんな夜が過ぎた。気がついたら汚れた状態で寝ていた。誰に何を言われてようとどうでも良いような振る舞いをした。

「ニコル…どうしたのよ!!」

ヴィルジニーが大声で叫んだ。

「植木の土をひっくり返しちゃって。」

「その窓もどうしたの?」

窓はペンキが塗ってあって外が見えなかった。

「こっちのほうが今の私にぴったりでしょ?」

「こんなの私の知ってるニコルじゃないわ。何か隠してるんじゃないの?」

「隠し事なんてしてたらこんな堂々としてない。そうでしょ?」

ニコルはお菓子を食べながら言った。

「そう言えばあれから本は届いたりしてない?」

ニコルがヴィルジニーに聞いた。

「配送会社に何回かクレームを入れたら来なくなったわ。」

「それは良かったね。」


「茶色のペンキを窓に塗ったのはいつのことですか?」

「今日のことです。」

彼女は部屋でセラピストと話していた。

「その時どんな気持ちでしたか?」

「自分の邪悪な部分を隠したいそんな気持ちでした。」

ずっと窓を見ていた。

「その後はどんな気持ちでしたか?」

「同居人に見つかって隠していたものを掘り起こされるんじゃないかって不安でした。」

彼女は断片的に起きたことをセラピストに鮮明に話した。セラピストの顔がぼやけていた。部屋には霧が濃く出ていた。他にないセラピーだった。

「それとまだ見られてる感じがするんです。」

「処方した薬はしっかり飲んでますか?」

「飲んでます。こんな感じにね。」

薬の錠剤が減ってるのを見せた。


ある日の朝ジョルジュは焦っている感じたやつだ。

「あれ、本がないな。」

ジョルジュは本を探していた。

「何の本探してるの?」

「ヴィルジニーと出会うきっかけになった本が消えたんだ。」

「ロマンスのある話ね。」

「あれがなくなったらまずい。」

「物で関係が崩れるほどの関係なのかしら?それなら他の本の好きな女性と冒険したらどうかしら?」

「火遊びは俺の趣味じゃない。」

「それでどこにしまってたの?書斎?」

「そうだ。目立つ所に飾ってたからなくすはずはない。」

「それは不可解ね。泥棒が入った可能性は?」

「CCTVを確認したけどそのようなことはない。」

庭と玄関には監視カメラが設置されている。泥棒など誰も入っていない。

「はやく見つかると良いわね。」

ニコルはジョルジュを手伝うこともなく外出して適当に歩いた。そしていつの間にかランニングをした。ランニングをしてるとアミアンまでたどり着いた。TGVを使わなくても本の能力でたどり着けた。アミアン大聖堂の中を入った。中は観光客が数人いたり、休んでる現地の人達などもいた。この大聖堂の中ではニコルの存在はとてもちっぽけなものだった。大聖堂がニコルも虫も変わらないちっぽけな存在だと言ってるような感じだった。彼女は大聖堂のステンドグラスを眺めた。ステンドグラスは光があたって中を人達をよく照らした。この中は閉鎖的でもあり、身を潜められる場所でもあった。

「罪の救済ね。」

彼女はそんなことを知ってても自分の信念を貫いた。数分間も同じところに立ち続けた。彼女の周りにいるのはもの珍しさに写真を撮り続ける外国からの観光客、ゆっくり休む現地の人達、ステンドグラスに感動して長く立ち続ける人達ばかりだった。彼女はステンドグラスを見ながら車を運転するふりをした。ステンドグラスは当時起きた様子を映すことはないとても都合の良いものだった。外の悲惨な現場まで映し出す窓とは違った。彼女は何度も運転するふりをした。

「何やってるの?」

高齢女性が興味深そうに彼女に声をかけた。

「車の運転するふりをしてます。あの時の記憶を再現しようと思って。」

「面白いこと考えるのね。目の前には何が見えるんだ?」

「横断歩道を渡る人達です。渡りきるまで止まります。一緒に乗りますか?」

「私の好きな所に連れてってくれ。」

精神世界の車の中で違う人生を歩んだ2人が行きたい所にどんどん進んで行く。高齢女性は満足すると彼女と別れた。彼女はそこで果たすことは終わったと思いノートルダム大聖堂をあとにした。そしてもうスピードでパリ郊外まで戻って行く。彼女は本屋に寄った。

「私なんで本なんて手にしてるんだろう?」

理由もなく本を握っていた。その本を自分の目の前に持って行き数秒間見つめる。

「何だろうこの気持ちは…」

何故かその本が目が離せないくらい特別感を感じた。買いたい感情でもないし所有したい感情でもない。

「もしかして…」

彼女はその本を口にした。

「美味しい…」

彼女はただの本にまで味覚を感じるようになった。その事実に本人でさえも動揺を隠せなかった。かじった本を見て彼女は呆然とした。これをどうすれば良いのか数秒間考えた。もうこうなったら戻れなかった。彼女はこの本をもっと口にした。

「美味しい。本は美味しいのよ。」

周りで本を選んでる人は見てはいけないものを見るかのように彼女を見た。

「大丈夫ですか?」

数人の客が彼女のことを見て心配した。

「病院行った方が良いですよ。一緒に行きましょうか?」

「何あの人、関わりたくない。」

心配で助けようとする人や彼女のことを気味悪く感じる人など人によって反応は違ったが本を食べると言う行為を見て良い反応をする人は1人もいなかった。止めようとしても彼女は止まらなかった。本をちぎっては食べた。

「私の邪魔をしないで。」

「ちょっと売り物の本に何をするんだ。弁償しろ‼︎」

「そう。弁償すれば全て解決よね?」

彼女は本屋の店主にお金を払って出て行った。本屋に中には本のゴミすらなかった。

「最近は本食べてるのか?」

そんな彼女を見ても対等に接することが出来るのはダミアンだけだった。

「そんなに食べてないわ。」

「それは残念だな。」

「そのうち本の食べ方なんて本を出版するのはどうかしら?私にすごいぴったりな活動だと思うわ。」

「出版はやろうと思えば誰でも出来る。だけど出版する前に全部なくなってしまうな。」

「私の書く本ならなくなってもおかしくもないわね。」

ダミアンは料理を作り終わった。

「美味しそうな匂いね。」

料理がテーブルに並ぶ。

「美味しそうな煮込み料理ね。この肉は何?何だか普通の鶏肉らしくないわ。鴨か何かの肉?」

「これはウサギのマスタード煮込みだ。」

「最低‼︎」

彼女は発狂しながらテーブルを倒した。

「何すんだよ‼︎せっかく作った料理が…」

彼はいつもになく怒った。

「ウサギを食べるなんて信じられない。」

「動物愛護主義者か?ヴィーガンなのか?何だか知らないが人が作った料理をこんな無下な扱いする方が最低だ。」

「私は動物愛護団体なんて興味ないし、菜食主義でもない。ウサギが大嫌いなの。今視界にも入れたくないのよ。」

「落ち着けよ。」

「この状況で落ち着いてられる?嫌いなものを目の前にして正常でいろと言うつもり?」

「それなら最初から言えば良いだろ。」

「私が悪いと言いたいの?最低。」

ダミアンは床に落ちた料理を片付ける。

「ウサギだけは駄目なの。」

彼女はだんだん涙を流して泣いた。

「ハンカチ使って。」

彼女はハンカチで涙を拭った。

「泣くほど苦手なんて知らなかった。もう作らないからテーブルを倒すような真似はしないでくれ。」

「毎回こんなことしない。今回が特別なケースだったのよ。」

「それなら好きなものを一緒に作ろう。」

2人は好きな料理を一緒に作った。

「やっと出来たな。」

「これこそ食卓に並ぶべき料理よ。」

料理が出来ると2人は抱きしめ合った。料理の熱と2人の熱が伝わる。熱と熱の対話が2人の愛に炎を灯火する。そして腰に手を当てて触りながらキスをした。

「食べようか。」

赤ワインと一緒に料理を食べる。

「ニコル、何でそこまでウサギが苦手なんだ?」

「私の父が好きな生き物だったからよ。私の父はビル火災に巻き込まれて亡くなったのよ。それからウサギを見ると父が亡くなった日のことを思い出すの。」

ニコルの父がウサギが好きと言うのは嘘だ。彼が好きなのは馬とラクダのように長い距離を移動できる生き物だ。

「それほど好きだったんだな。自分の父親だもんな。」

彼女は父親のことも好きでも嫌いでもなかった。

「ダミアンの父親はどんな人?母親は?」

「俺はレイプで生まれた子供だ。当然母親から愛されることはない罪な子供だ。「罪が産んだ存在」だ。」

「変なこと聞いてごめん。」

「傷つきもしない。悪いのは顔も見たことないあの男だ。いつかこの手で裁くのが夢だったが気がついたら30代だ。」

ダミアンは母親から最終的には捨てられて施設で生活することになった。9歳の時にある家庭の養子になった。その家庭では養父母がしっかり愛を受けて来たため道を踏み外すことなく人生を歩むことが出来た。

「よくランニングしたのが養父母との思い出だ。」

2人は食事が終わると少し腹を休めてベッドに移動した。部屋はイランイランのアロマの香りで包まれていた。とても幸福感を刺激するような強い香りだった。

「お茶持って来たから飲まない?」

「良いね。」

お茶には生姜、朝鮮人参、ハマビシが入っていた。

「美味しいわね。」

飲んでるうちに身体が暖かくなる。2人は日頃のストレスをこの時は忘れられた。2人でいるから意味のある情事だ。そこには主従関係はない。

「ニコル。」

「ダミアン。」

ニコルはダミアンの首元を触った。彼は少し声を出した。

「良いよ。」

終わっても気持ちだけは冷めなかった。

「カカオ90%のチョコでも食べる?」

「君は満足してないのか?」

「そんなつもりではないわ。70%以上のカカオが入ったものはストレスの緩和に良いってセラピストが言ってたわ。」

「セラピストに口説かれたか?」

「そうかもね。」

ニコルはダミアンとのこの時間がいつまで続くかどうかは考えていなかった。道を踏み外しても彼との時間を楽しむことは変わらない。

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