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オレが母ってなんだそれ!?  作者: 嶌与一
二章:よし、生活しよう!
25/28

25話:秋過ぎて冬来にけらし白妙なんぞ作っとる場合じゃなかった

 当主(ウヴァル)様&奥方(アンバー)様によるボルシチ爆食い事件と、コリン君が貴重な所持品(手押し車)を得る事件が巻き起こった日から早いもので数週間。いや数ヶ月……?

 余りの事態にスッコロポーンと記憶が抜け落ちたかと思ったがそんな事はない。秋の訪れから即座に季節は冬である。

 早くない? えっ、秋終わるの早くない?

 などと駄々をこねても光陰矢の如く進む世界は止まってくれやしない。つれえ。


 農作物の収穫が終わり、農機具の手入れを済ませると、家畜は来年に向けた必要最低限の数を残して後は全部屠殺する。

 豚を飼っているのは村内にある小さな集落ごとに一家ずつだけなので、采配はそこの家長次第。

 オディロン様は依怙贔屓あんまりしない派らしい。軋轢回避バンザイ三唱である。


 肉を食ったり燻製にしたりと騒がしい時期を終えれば、男の仕事は村の周囲と畑の見回りになり、女の仕事は被服作りに変わる。


 見回りというと楽に思えるだろうが、香草(ハーブ)が枯れるとそこから魔獣が侵入して村が終わるため、彼らは真剣だ。あわよくば陣地が増えればいいと、冬だけは差配人(オディロンさま)以外も(こぞ)って手入れをする。


 被服作りなんて優雅に聞こえるだろうが、ここにミシンなんて代物はない。糸や布も自由に買えやしない。

 畑で育てた亜麻を刈り取って乾燥させて、茎を砕いてクソデカブラシで梳いて繊維にして、眠り姫で有名な紡ぎ車で糸を紡ぎ、全手動機織り機をギッタンバッコンやりまくって布を作ってようやっとスタート地点に辿り着く。

 読んでて良かったズボン作るもぐらの絵本。


 被服作りの説明の熱量が半端ないのは、いくら精神が健康優良児だったゴリゴリのおっさんパリラくん(アラサー)であろうとガワが嫋やかな女(コーラル)であるせいだ。女体で肉体労働マジつらい。

 されどもオレは寸暇を惜しんで延々とギッタンバッコンの繰り返し。村の女から糸をもらってはギッタンバッコン、村の女に布を渡してはギッタンバッコン。

 そうせねばならぬ理由がある。新婚の旦那様(仮)が初恋の愛妻とパッコンパッコンせんと待ち構えているために。

 ギッタンバッコンとパッコンパッコンの非道極まりない二択にオレは迷わずギッタンバッコンを取った。年若く血滾るオディロン様に申し訳ない思いはあるが中身が穢れなきパリラくん(彼女いない歴=年齢)のオレに内面ホモ祭りはノーセンキュー致したく存じます。

 ぼかァ同年代の面倒見がよろしい美人なおっとり系パイオツカイデーが好きなんだィ!


 亜麻がなくなればイラクサ的な植物も皮を剥ぎウホウホとバンバンぶっ叩いては繊維状になるまで潰し村の女に手渡し糸を紡いでもらってひたすら布を増産するのにも正当な理由がある。

 最近のフリージアちゃんは寝返りこそまだ打たないものの頻繁に手足を元気にウゴウゴだ。

 これはもうハイハイからの立っち、その後あんよが期待される。というか危惧される。


 中世ヨーロッパ風の一般家屋、床が土間。アーンド二階が朽ちた納屋の屋根裏的貧相な造り。

 可愛い可愛いフリージアちゃんを地面でハイハイさせられる? オレには無理。だって赤ん坊めっちゃ指しゃぶるじゃん。土と唾液で(きった)ねえドロまみれになった指をですよ?

 じゃあ二階に置いとく? それもゴメンだわ。だってストライプみたいに床下見えてる、バリ取りも(かんな)がけもしてない板じゃ絶対お手々イタイイタイなるもん。うっかりバランス崩して転んだ怪我が致命傷なるもん。


 ではどうしよう、と考えた時に、コントローラー握ってプレイしてたゲームの『終わりを告げるデリータの旅』と、実際に暮らしてみたこの世界との差異に思い至った。

 確かに、この世界にも『デリクエ』と同じくゴールド的な通貨がある。

 しかしここで生きる者にとって、金銭とは旅人が宿を借りたりする場合や、酒屋などの代表者が村外からくる行商人相手に使うものであり、村内で――つまり身内同士で――使うのは卑しい事とされている。

 では村人同士で物のやり取りを行う場合はどうするのか。実に簡単だ。物々交換や肉体労働。

 オレが狙っているのはそれだ。


 春先にどこかの家の息子と別の家の娘が結婚するとかで、村は式に合わせて総出で家を建ててやる事となった。そうなると、少しばかり遠出をして木を伐採してくる必要がある。この時ついでに大人がちょいと腰かけられる程度の切った丸太が各家に一つずつ配られる。

 オレはどうにか木一本分欲しい。なぜならしっかりと丈夫な板の床と柵が作りたいから。


 故に、凍えて流れた鼻水がカッピカピになりながら布を作っている。村全体へ恩を売るために。

 更には僅かでも生地を余らせて、他所の地方で飼っているらしい羊の毛を購入したい。

 贅沢を言うなら皮ごとがいいがそこまでは望まない。毛を編んだ絨毯を敷き詰めて、転んでも痛くない設計にするのだ。


 そう。

 これは、朔風が容赦なく吹き込む土間で両手と頬が霜焼けで痛痒くなりながらも地道に作業を続ける母としての。

 赤子に安心な家づくり大作戦である!



 ……



 …………



 はい、という訳でね。

 秋過ぎて冬来にけらしの作戦開始時点から早一か月。物資(繊維)尽きました。そして今は雪が降っています。積もり始めています。タイムオーバーです。

 小さな村の畑の三分の一から野菜の場所除いた分で育てた亜麻とほぼ野生の謎イラクサからじゃ各家に一着の肌着程度にしかならんわ。

 クッソォオ! オレの華麗なる恩売りマウントターンが終わった!!!


 大体なんだよリネン! この!! 亜麻からできたリネンこのやろう!!!

 目地詰めるとどこのコースターですか? 状態の硬くてゴワゴワだし、感触を良くするために詰めないと通気性抜群なんだよ!!!!

 わあ、新品寒ぅ~いってバカか! 冬だよ今!!! 大体カミさんは亭主の下着を優先して作るもんだからヤロウのオマタが凍っちゃうわ!


 しかし何より冷やか感あるのはちょっと奥様方から引き気味に感謝されるこの距離感である。クソックソッ。

 若妻コーラルときゃわたんフリージアちゃんwith旦那様(仮)の不慣れながら温かい家庭を受け入れて頂く貴重な機会が喪われた気がする。気のせい? ねえ気のせいって思っていい?

 いつか分からないが処刑される身としては田舎に友好関係の地盤を築き上げていざという時に逃走の足掛かりとする味方を得ておきたいのに……!

 逃亡ができなかったとしても、最悪もう偽装死でもいい。デリクエ本編が始まったとしても我が初恋にして気づいた瞬間に産んでた娘を陰から守りたい。カーチャン実は生きてたんだよって抱きしめたい。


 でも物資が足らんとです!

 風が吹かんから桶屋は儲からんとです(?)


 一手に引き受けた布地作りにより得た腰かけサイズの丸太は大負けに負けて三本!

 椅子かな!!? それとも薪かな!?!!???!!?!?? せめて切らずに欲しかったッ!!!

 良い仕事したわ~的なおっさんが室内の端に積んでくれたよありがたいけど詰んでるネッ!

 板に短し薪にしたって足りないよ!


 っていうかさあ! 植物の繊維じゃ体温の保存に向いてないから! 毛皮が! 欲しいのよ!

 あとできれば新鮮な肉ゥ!!!


 ……思考が飛躍したとお思いだろうか? いや違う。(反語)

 何といっても地方の寒村における冬場の食料危機は毎年恒例らしいのである。半年かけて実らせた麦の過半量が納税分だ。畑の狭い範囲で育てた野菜や豆類は春まで持たない。肉も塩で締めようが燻製にしようが春を待たずに腐る。腹が減るのに加えて、植物繊維による被服は体温の温存に不向きだ。

 ここから導き出される単純な解として、乳幼児と老人の死に繋がる。


 オレはフリージアちゃんが健やかに育つ様を見届けたい。

 故に、やるべき事リストが増えていく。優先順位をつけるとこうだ。

 1:保存食の他に、冬場の食糧を確保する(餓死防止)

 2:保温性に優れた服を作る。(凍死防止)

 3:床に木の板を張る。(ハイハイ、あんよ時などの衛生面)


 床はもう後回し。いいもん。もう。

 ついでに残念ながらエンドレスがレスしたギッタンバッコンの返礼にと他家から根菜類をいくらかゲットしたお陰で、漬物には困らない。後は肉が欲しい。

 豚は来年以降を考えるとこれ以上屠殺できない。何故なら、炉にくべる木材も不足しているため春夏秋と小屋にいた豚は冬場に母屋までトゥギャザーするのだ。豚イズ暖房。むしろ暖房イズ豚。アーンド子孫繁栄オウイエー。アンダスターン? アーハーン?


 やばい、徒労感がピークに達した。自分の思考がよく分からなくなってきている。

 板は駄目だった。床がないから底冷えは防げない。暖房は囲炉裏と豚だから限度がある。こうなると、最も必要なのは体力。体力と体温の保持に必要なのは何といっても炭水化物と脂質だ。パンはある。保存用に加工した野菜もある。ペース配分上不足しているのは肉。圧倒的に肉。

 背負った赤子の温もりを感じながら、切り株めいた三つの丸太をぼんやりと眺めて、オレは深まりつつある冬が未だ序盤である事実に怯えていた。

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