お子様ランチに夢中
今晩は腕によりを掛けたお子様ランチにしよう、少しでもユキちゃんが笑顔になってくれるように。
突然両親をなくして、一人ぼっちの小さな女の子にしてあげられる事は今はそれくらいしかないけれど、親以外にも気にかけてくれる大人がいる事を実感して欲しい。
夕飯の準備をあらかた終えた頃に、ミチルが戻ってきた。
「伝えてきたわ、とりあえず今晩はこのまま美波の所に泊めてあげてって。
ハクも一緒でもいいって。」
「分かった、今晩は子供が喜ぶメニューだよ。
笑ってくれると良いんだけど。」
「そうね、きっと大丈夫よ。」
その後一時間程で目を覚ました二人を動きやすい格好に着替えさせて、お腹をすかせてもらう為に学校へ連れ出した。
この時間ほかの子供達はお風呂タイムのはず、ゆっくり遊ばせてあげられるだろう。
「ハク、ユキちゃんに教えてあげてね、
一緒に遊んでおいで。」
二人をトランポリンで遊ばせて小窓から中を窺うと、ハクがユキちゃんの手を握り一緒に跳んでいる。
「ハクも男の子ね、ちゃんとエスコートして可愛いわ。」
「そうだね、ハクは本当に良い子だよ。」
しばらく眺めた後、子供達に誘われて四人で遊んだ。抱っこしてジャンプしたり、ミチルはジャンプしながらハクを投げて、回転しながら落ちてくるのをキャッチするという荒業を披露する。
ユキちゃんにねだられたが、美波の身体能力では絶対に無理なのでミチルにパスする。
さすが大型にゃんこだ、ユキちゃんはキャッキャ言いながらハクより上手に回転している。
「すご…さすがにゃんこだわ。ミチルと来て良かった~。」
はじっこで小さくジャンプしつつ子供達を眺める。
ハクもユキちゃんも、ダイナミックなミチルの遊び方に夢中になっている。
その後ボールプールでもひとしきり遊んでから、美波の家に戻った。
ミチルが遊んで汗をかいた子供達をもう一度お風呂に入れている間に、お子様ランチを仕上げていく。
本日のメニューはタコさんウインナーと、小さな丸パンで作るミニハンバーガー。ゆで卵を半分にして、黄身とニンジンのピクルスをマヨネーズで和えた物を詰めたもの。昨日の残りのトマトとハナビラドリの煮込みに、チーズをのせてミニグラタンに。
これをお皿に可愛らしく盛り付けていくのだが、それっぽくするために蓋付きのお子様ランチプレートを作ってみた。
モチーフは悩んだ結果、デフォルメしたモコにしてみた。羊毛部分が蓋になっていて、なかなか可愛いできだ。ミチルが子供達の髪を乾かし終える頃、ちょうど完成した。
「いいって言うまで目を瞑っててね。開けちゃ駄目だよ。」
小さな手で目を覆い、ギュッと閉じているハクとユキちゃんの前にお子様ランチプレートを並べ、大人用のお皿も並べていく。
中央にグリーンサラダを置いて席につく。
「じゃあ、3・2・1で目を開けてね。いくよ~。
3・2・1はい!」
「うわぁ~!モコだよね、これ。蓋になってるの?可愛いっ!」
「お姉ちゃん、開けていい?」
キラキラした目で見つめる子供達に、蓋のツマミを指差して開けてごらんと促す。
「わぁ~!可愛い!これ全部あたしの?」
「そうだよ、ユキちゃん。頑張って作ったから、残さず食べてくれると嬉しいな。」
「僕も全部食べるよ、お姉ちゃんありがとう!」
子供達は美味しいねと、笑いながら夢中で食べている。別のお皿にサラダも盛り付けて、野菜も食べるように言ってミチルと美波も料理に手をつける。
お子様ランチは大成功だったようで、ユキちゃんはご機嫌だ。
「このハンバーガーって美味しいわね、ハンバーグを間に挟んでるのね、そのまま食べるのとまた違って、これはもう別の料理ね。」
ミチルは大人サイズのハンバーガーが気に入ったようだ。思いつきで作ったわりには成功したらしい。
ハンバーグにピクルス・トマト・レタス・チーズ・ケチャップを合わせたシンプルながら完璧な組み合わせだ。
大人用にはマスタードがアクセントになっている。
ハクとユキちゃんは直径十センチ位の丸パンで、子供の手でも持ちやすく作られたそれを夢中で食べている。
「美味しい?良かった、他にも色んなバージョンがあるから今度作るね。
本当は醤油があれば照り焼きとか出来るんだけどなぁ。そろそろ恋しくなってきた、醤油と味噌。」
文化があまりに違うので諦めてはいるのだが、やっぱり日本人なので、禁断症状的に食べたいという欲求が募ってくる。
広い王国のどこかには、もしかしたらあるかもしれないし、希望は捨てずにおこう。
「お姉ちゃん、このウインナー面白い形だね。」
フォークに刺したタコさんウインナーを見つめて、ユキちゃんが言う。
思わぬところに落とし穴が…皆タコを見たことが無いらしい。他の飾り切りにすべきだったかも、ちょっと落ち込む美波だったが、いつもと違う形に子供達が嬉しそうなので、これはこれでありかもしれない。
他の料理も気に入ったようで、あれだけおやつを食べたのに、二人ともしっかり完食してくれた。
「「ごちそうさまでした。」」
「はい。偉かったね、全部食べて。
じゃあ、キッチンまで運んでくれるかな?」
お子様ランチプレートをそれぞれ運ばせて、ミチルに子供達の歯磨きを頼む。
片付けを終えて、日本の昔話をいくつか話して聞かせていると、二人とも目を擦りだした。
「そろそろ寝ようか。ユキちゃん、上のロフトで皆で寝ようね。」
ミチルがハクを抱いて、皆でロフトに上がる。
子供達の服を脱がせて獣型に戻るように促し、ミチルもクローゼットで服を脱いで大きな狼の姿で戻ってくる。
「じゃあ、寝ようか。お休み。」
「「「おやすみ。」」」
美波は一番左側、ハクの隣に横になり、その背中を撫でてやる。ユキちゃんはハクの隣、ミチルが一番右側だ。
寝る時は獣型のミチルの隣の方が、安心出来るはずだ。少し前までは両親の間で丸まって眠っていたはずだから。
ほどなくこちらを向いて丸くなったミチルのお腹の辺りで、毛皮に埋もれるようにしてユキちゃんが丸くなった。
子供達のスピーという可愛らしい寝息が、静かな部屋に響く。天窓から降り注ぐ月の光に、三人の毛皮がキラキラと輝いている。ユキちゃんの顔はミチルの毛皮に埋もれて見えないけれど、規則正しい寝息が深い眠りに入っていることを教えてくれる。
優しくて、少し哀しい目でユキちゃんを見つめるミチルと目で合わせ、美波もハクを抱き締めるようにして眠りについた。
今だけは楽しい夢をみてくれたらいい、喪失の悲しみは消えないけれど、この世界はきっと小さな子猫に優しいはずだから。




