ユキちゃんハクロウ村の子になる
翌朝、美波はハクのキックで目が覚めた。
この子狼はとにかく寝相が悪いのだ。キックは美波の顎に命中していて蹴ったのは後ろ足、夜の間に一回転したらしい。
ついでに仰向けでお腹は丸出しだ。
横を見ればミチルも同じポーズで熟睡している、ユキちゃんはそんなミチルにぴったりくっついて、長くなっている。
朝から何とも和む光景だ、三人を起こさないようにゆっくりとベッドを出て、朝食の準備のため一階へ降りる。
フレンチトーストの焼ける匂いにつられて、まずはハクが降りてきた。
「おはよう、お姉ちゃん。いい匂いだね、朝ごはん何?」
「おはよう、ハク。今日はフレンチトーストとハナビラドリのごちそうサラダだよ。
ミチルとユキちゃんも起こして、顔を洗っておいで。」
ハクはしっぽをフリフリしながら、二人を起こすために階段を上がっていく。
今日のメニューはハクの大好物だ、ハチミツをかけたフレンチトーストはもちろん、茹でたハナビラドリの肉をマヨネーズで和えて、色々な野菜の上に豪快に盛り付けたサラダもお気に入りなのだ。
四人揃ったところで朝ごはんだ、今日も子供達は食欲旺盛でユキちゃんもしっかり食べている。
「朝ごはん食べたら、着替えてシロガネ様の所へ行きましょうね。ユーリにはあんまり会いたくないけど、仕方ないわよね。」
ユーリはだいぶミチルに嫌われているらしい。
昨日ほんの少し話しただけだけれど、かなり個性的な人物だし、エルフのイメージをことごとくぶち壊す男の子だ。
とは言え、ユキちゃんをここまで一人で面倒を見つつ連れてきてくれた訳だし、根本的な部分は良い人なのだろう。
ただ、その言動が全てを台無しにしているだけで。
ユキちゃんに、自作の黒のレギンスとグレーに水色のドットのチュニックを着せて、四人でシロガネ様のお屋敷へ向かう。
昨晩ミチルが報告に行った時に約束していたので、シロガネ様はユーリと共にリビングですでに待ち構えていた。
「おはようございます、シロガネ様、ユーリさん。」
「おはよう美波、ユーリでいいよ。」
「おはよう。ユキ、昨夜は良く眠れたかな?」
シロガネ様はユキちゃんを手招き、優しく問いかける。
「はい。お姉ちゃんとお兄ちゃんとハクと、皆で寝たの。お風呂に入れてくれて、トランポリンで遊んだし、ご飯もすごくおいしかったの。」
一生懸命に話すユキちゃんの頭を優しく撫でて、シロガネ様は続けて問う。
「そうか、それは良かった。
なぁ、ユキ。もしよければハクロウ村の子になるかい?ここなら年の近いハクもいるし、他にも五人子供がいる。君が大人になるか自分の意思でどうしたいか決められるようになるまで、私達が君を守ろう。」
ユキちゃんは、じっとシロガネ様の目を見詰めている。
「あたし、ここにいても良いの?」
「あぁ、この村の皆が君の家族になるよ。」
「うん。うん、あたし、ここにいたい。」
ユキちゃんはシロガネ様の膝に上がり、首にしっかりと手をまわして抱きついた。
その背中を優しく撫でて、シロガネ様は「もう大丈夫、一人じゃないよ」と囁きかけている。
「ハクの両親に紹介しよう、私の孫なんだよ。
ギンの所でもここでも良いし、一緒に暮らそう。」
シロガネ様はハクに、ユキちゃんを連れて両親の所へ行くように告げた。
ハクはユキちゃんの手を引いて、小さな紳士のようにエスコートしながら家へ向かった。
二人の姿が完全に見えなくなってから、シロガネ様は美波とミチルに向き直った。
「ありがとう、二人とも。ユキが人型に戻ってくれたようで安心したよ。」
「いいえ、ほとんどハクのお陰なんです。私達は何も。」
シロガネ様は、全部分かっているという風な笑みを浮かべて続けた。
「いや、二人のお陰だよ。
ギンやリンとも相談したんだが、ユキをこの村で引き取ることにした。
獣人の子がいる孤児院はほとんどないし、年の近い子供達がいるのも何かの縁だろう。
今年の冬は蓄えも充分で、二人くらい増えても問題ないしな。」
二人、という言葉にミチルが反応する。
「シロガネ様、ユキちゃんの分で一人なら分かるんですが、二人って、もしかして…」
「おっ、察しが良いなミチル。俺だよ、俺。
この冬はここに留まることにしたんだ、よろしくなっ!」
能天気なユーリの声に、ミチルの額にピキッと青筋が見える。
「何であんたが留まるのよっ、ユキちゃんは預かるからあんたはとっとと他の所へ行ったらいいでしょう!」
「えー、冷たいなぁ。良いじゃんか、何かハクロウ村おもしろい事になってるんだろ?
美波、仲良くしようぜ、色々はなし聞かせてくれよ。」
やっぱり軽い、セリフと見た目のギャップがありすぎて、処理しきれない。
「それくらいにしてやりなさい、ミチル。
ユーリも、もう大人なのだからその話し方もいい加減直したらどうだ。」
シロガネ様も呆れぎみだ。確かに、いくら長命種とはいえ、五百年も生きてきてこの感じはどうなんだろうか。
話している所だけなら、チャラい大学生という感じ。
色々と台無しだ……
「シロガネ殿、私も大人になりました。
王都に戻れば礼儀をわきまえ、立派な紳士として振る舞えますよ。」
胸に手を当てて膝を曲げ、優雅に一礼する。
「なっ!じいちゃん、俺もやれば出来るだろ?」
ニヤリと笑うユーリ。
何だろう…やれば出来るのが余計に残念……
ミチルはもう言葉も出ないようだ、片手を目に当ててうつむいている。
「えーと、ユーリ。
よろしくね、この世界の話も聞かせてくれるかな。」
美波は空気をよんだ。
単に、自分が耐えられなかったからとも言うが。




