青空の下で昼食会
今回はちょっと長めです
噴水広場は急拵えのパーティー会場と化していた。
急な訪問のため時間のかかる料理は出来なかったが、最近こんなことが頻繁にあるので村人達も慣れたものである。
大きなテーブルを3つ程並べて料理をのせビュッフェ形式にすることで、出来たものから食べていただきその間に次の料理に取り掛かるという技を編み出していた。
周囲には小さめのテーブルと椅子を程よい間隔で並べて、好きな場所で食事を楽しんでもらおうという趣向だ。
国王と同じテーブルに着くというプレッシャーから解放されるし、村人達の為にも良いプランだろう。
そして現在。
国王は天ぷらを揚げる美波の手元を熱心に見詰めていた。
「なるほど、面白い調理法だ。
食欲をそそる香りもするし、目の前で出来上がるのを見るのは楽しいものだな」
「レオン様、油が跳ねると危ないので、もう少し離れていただいた方が宜しいかと…」
無意識にジリジリと近付いていた国王に恐る恐る告げる。顔に火傷でもさせたら一大事である。
「いや、すまない。珍しくてつい」
美波の前には、氷魔法で低温を維持したボウルに入った衣と、浅めの鍋で熱せられた油がある。
食材はビニールハウスで採れたピーマンや茄子などの夏野菜、それに最近ようやく人工栽培に成功したキノコだ。
隣では別鍋でエルフ以外のために、ハナビラドリの胸肉をスライスして、白ワインと大量のレモン汁に塩とたっぷりの胡椒を混ぜたものに漬け込んで、天ぷらにしている。
「調理法もそうですが、春先に夏野菜ですからね。
ぜひ召し上がって下さい、お塩を少しつけてから、熱いので気を付けてどうぞ」
いい感じに揚がった天ぷらを網をのせた大皿に移し、待ちきれない様子の国王にすすめる。
「頂こう。席まで運ばずこのまま食べても構わんな?」
悪戯っぽい笑みを浮かべた国王は、ローザ様やコクガ様達を見やると揚げたての天ぷらを口に運んだ。
「んっ、熱いっっ!これは旨いな…」
「お口に合いましたか?良かったです
こちらも揚がりましたのでどうぞ、秋から取り掛かって漸く人工栽培に成功したんですよ」
近くの森で採れるマッシュルーム的なキノコと、エリンギの様な形で舞茸的な香りと味のキノコの二種類だ。
天ぷらにしたのは後者で、地域ごとに呼び名が違うようなので、美波は勝手にマッシュルームとエリンギと呼んでいる。
「まぁ、キノコを育てているの?聞いたことがないわ」
ローザ様も驚いているようだ。
「すごいだろ?俺が見つけたんだぞ!
ここの村ではあんまり食べてなかったから、森にどっさり採れるところがあったんだ。
で、美波も気に入ったから地道に研究してたって訳」
《 いや、頑張ったの私とルリさんだし》
美波は、いつもなら口に出す心の叫びを飲み込んだ。
国王の前で同じエルフであるユーリに対し、いつものような態度で接していいのか判断がつかないので、ぐっと我慢である。
「頑張ったのは美波でしょう?まったくあなたは、相変わらずねぇ」
流石に長い付き合いだけあって、ローザ様はお見通しのようだ。
「まぁまぁ、ユーリもキノコを見つけるという点では貢献したのだろう?有り難く頂くよ」
国王はそう言うと、待ちきれないとばかりにエリンギを口に運ぶ。
「おぅ…これは…旨い!!」
「ですよね、レオン様!!
このキノコは特に味も香りも最高なんです、私も頑張りましたよね?」
美波はこっそりと鳥肌のたった腕を擦った。
丁寧語で話すユーリ!
一人称が私のユーリ!
キモチワルイ…
あの自由すぎるユーリですら、国王には敬意を払うらしい。
地面に片膝を着き胸に手を当て、頭を下げて挨拶をするのを見て、村人一同言葉を失うほど驚いたのだ。
どうやら国王=エルフの族長であるらしく、特別な存在だそうな。
「さぁ、皆さんもどうぞ!
コクガ様、こちらはレモンの酸味がきいていてワインのおつまみにぴったりですよ。
あと、こちらのマッシュルームのアヒージョはレオン様にも召し上がって頂けます」
気をとり直して料理を勧めていると、ピザも焼けたようだ。
「マッシュルームのピザとベーコンのピザ、焼けました~」
「スティック野菜とマヨネーズの追加です!」
続々と料理が出てくる。
「よし!お前たちも好きなものを食べるといい。
ピザは熱いうちに限る、行くぞ!」
カエン様が、スイさんとガイさんと肩を組んでテーブルに向かう。
「レオン様、私達も行きましょう。席についてワインと共に頂きましょう」
ローザ様に勧められてピザコーナーに向かう国王とユーリを見送ると、美波はほうっと息をついた。
「はぁ、緊張したぁ…」
「大丈夫?」
「ミチルぅ、何処にいたのよ。フォローしてほしかったよぅ」
「スティック野菜を切ってたのよ、それより見た?
ユーリの態度」
キモチワルイねぇ。
目で会話する二人である。
「フフッ。貴重なものを見たよね、鳥肌たっちゃった」
「私もよ、ゾワッとしたもの」
失礼な二人だが、普段が普段なだけに責められないのがユーリの残念な所だ。
「お姉ちゃん、天ぷらちょうだい!!」
ハクとユキちゃんが、腕を伸ばしてお皿を差し出してくる。
「はいはい。どれにする?お肉かな野菜かな?」
全部~!!と、嬉しいことを言ってくれる二人のお皿に天ぷらをのせていると、スイさんとガイさんがやって来た。
「美波さん、ピザもとても美味しかったです。
昼食に誘って頂いて有り難うございます」
「お口に合って良かったです。でも普通に話してくれませんか?私、一般人なので」
「そうですか?美波さんは一般人ではないと思うが…そういう事なら」
スイさんとガイさんは目配せをして、口調を改めることにしてくれたようだ。
「では遠慮なく。美波、僕も天ぷらが食べたい。
特にそっちのハナビラドリの方」
「承知いたしましたスイさん。揚げたてをお出ししますね」
「あっ、俺はキノコも食べてみたい」
ハクとユキちゃんをなでなでしていたガイさんは、エリンギに興味があるようだ。
「はい!ミチル、お願いしていい?」
「もちろんよ」
「ん~、美味しい。ワインに合うなぁ、ガイも食べてごらんよ」
ワイングラス片手にハナビラドリの天ぷらを食べていたスイさんは、ガイさんにフォークに刺した天ぷらを勧めている。
あ~んですか?
あ~んしましたね!
「んっ、これも旨いな!こっちのキノコもいけるぞ、ほら」
あ~ん。
お二人は友人ですよね?
「うん、美味しい。美波とミチルも後でワインと一緒に食べるのをオススメするよ。
陛下からの差し入れだからね、いいワインだよ」
スイさんがエメラルドの瞳でパチンとウインクする。
普通の男がやったら鳥肌ものだが、美しいのでアリである。
「そうそう、これは滅多に飲めない上物だ。
あとあの荷物、一個は陛下達の荷物とワインだけど、もう一個はハクロウ村、というか美波へのお土産らしいぞ。
何でも国中の調味料、スパイス、食材なんかで珍しいものばかりを集めたらしい。
あれを使って何か新しいレシピを開発して欲しいってさ」
ガイさんがニカッと笑って、とんでもない事を言う。
「えっ、あの箱全部ですか?
私は何を期待されているんですか?
ねぇっ、ガイさんっっ」
「ま、詳しい事はカエン様に聞いてくれよ
おいスイ、もう一回ピザ食べようぜ」
「そうだね。美波、ミチル美味しかったよ、ごちそうさま」
…ぽん。ミチルが肩に手を乗せた。
「頑張れ、美波!」
「ヤダ…頑張れない。
何が入ってるのよ、あの中に!!」
和やかな昼食会、村人達の笑い声とエルフとドラコンの何回目か分からない乾杯の声。
平和な昼下がりに、美波の声にならない叫びだけが虚しく響いていた。
ムリー!
私、プロの料理人じゃないしー!




