ドラコン襲来( 大量! )
あの夜から2日、村人達は別人の様にきびきびと働いている。
ふだん温厚なシロガネ様に怒られたのが、余程効いているらしい。まぁ、春祭りまで1週間なので準備に追われているというのもあるのだが。
自身も作業を行いつつ、フェラリーデ様も村人達と同じくらい切り替えの早い人でありますように!
と、美波は強く願っていた。
あの朝の気まずさは引きずりたくない、切実に。
「美波、アイスボックスクッキーはこれで完成かしら」
作業台に小山を形成しているのは、ピンクと白のクッキー種だ。
市松模様や渦巻きなど、様々な柄で作ったのをラップ的な物でぴっちり包んである。
「そうですね、後は冷凍しておいて直前に焼きましょう」
手伝ってくれた女性達と、公民館の大型冷凍庫にしまっていく。春祭りの前日に搬入するので、その前にスライスして焼いていく予定だ。
「これで全部ですね、お疲れ様です。私はボール作りに取りかかりますね」
この後は自宅に戻り、ジャンケンの景品となるボールをひたすら作成する予定だ。
今回はパステルカラーや花柄など、春っぽいデザインにするので気合いが入る。
どんなデザインにしようかと考えながら、噴水の横に差し掛かった時、ギャオーンという聞き覚えのある声が響いて美波はとっさに空を見上げた。
「カエン様かな?えっ…1,2,3…ドラゴンが5頭!」
空に黒く浮かぶ点は5つ、あっという間に近づいてくるようだ。
美波に聞こえたという事は当然村人達も気付いている訳で、家々のドアから皆が飛び出してくる。
「美波、今のはカエン様だろう?村に寄るなんて連絡はきてないよな?」
話し合いでもしていたのか、ミナトさんがシロガネ様のお屋敷から飛び出してきた。
「はい、小鳥も来ていませんし。でも、最近のパターンからすると目的地は絶対ここですよね。
国王様も一緒だっりして」
フフフ…と、笑えない冗談を言う美波に、ミナトさんもハハハ…と、乾いた笑いで応える。
「やめなさい美波、言葉にするものじゃない。
本当になったらどうするんだ、流石に国王様はないだろう」
視線を合わせた二人は、ハハハ…フフフ…と笑いながら広場へ向かうのだった。
数分後。
美波は言霊という言葉の意味を実感していた…
広場にはカエン様とコクガ様・ソウキ様ご夫妻、そしてやたらゴージャスで品のある美中年エルフとローザ様、更に若いドラゴンの男性が二人いる。
予想通り、美中年エルフは国王レオンハルト様である。
「ミナトさん…言霊って、発した言葉が現実になるって言うよりは、こうなるんじゃないかっていう予測のもとに発した言葉が、予想通り現実になるって意味に変えた方がいいですよね…」
「そうかもしれないな、美波。
どうしたものだろう、足が震えているんだが…」
緊張のあまり、いつもの落ち着きを失っているミナトさんの手を引いて、美波は人の輪の中心へと向かう。
「ミナト!美波!久し振りだな、レオンを連れてきたぞ。今日は一応お忍びだからな、特別扱いは不要だぞ」
コクガ様はいつも通りソウキ様の腰に手を回し、実にいい笑顔でそう言った。
しかしこの状況でお忍びとは、些か無理があるのではないだろうか。編隊を組んで飛ぶドラゴンなど、王都ならばまだしも、この辺りではまず目にすることはないものだ。
確実に噂になっているだろう。
「お久しぶりでございます、コクガ様。
おそらくコザクラ町からも見えていたはずなので、王都からの客人という事で通しましょう。
ただ今村長を呼んでまいりますので、暫くお待ちください」
ミナトさんはそう言うと、シロガネ様のお屋敷へと全速力で駆け出した。
「コクガ様、ソウキ様、ようこそハクロウ村へ。
レオンハルト様にご挨拶させていただいても、宜しいでしょうか」
「勿論だ、美波おいで」
コクガ様に招かれ、美波は国王レオンハルトの前へと進む。傍らのローザ様が、大丈夫よと目で合図をくれた。
「君が美波だね、突然の訪問ですまない。
お忍びだからね、是非レオンと呼んでおくれ」
拍子抜けするほどフレンドリーに、国王は握手を求めてきた。
「お初にお目にかかります、美波と申します。
村人一同歓迎いたします、今後とも宜しくお願い致します、レオン様」
肉体労働とは無縁であろうが、思いの外大きくてがっしりとした手をした国王と握手を交わす。
間近で見るその人は、腰までの金の髪を後ろで一つに結び、深い藍色のパンツに袖口と襟元に白い毛皮のついた同色のコートを纏った、渋いおじ様である。
人間ならば50代前半位か、実にダンディーな美中年だ。
「こちらこそよろしく、美波。
噂だけは色々と聞いているから楽しみにして来たんだよ。今日から例のホテルとやらに滞在させてもらって、春祭りもしっかり楽しんでいくつもりだから、後でゆっくり話をしよう」
瑠璃色の瞳は柔らかな光を宿し、真っ直ぐに美波にむけられていて、先程までの緊張がほどけていくのを感じた。
1週間以上の滞在になることは、ひとまず忘れておく事にしたらしい。
色々とやらかしてくれる王都からの客人のお陰で、スルーする技を獲得した美波である。
その後慌てて駆けつけたシロガネ様の案内で、とりあえず村長のお屋敷でお茶を飲みつつ休んでもらうことになった。
ぞろぞろと歩き出す一行を見送って、美波はカエン様に向き合う。
「それで、私に頼みというのは?」
その場に残ったのは、二人の他にはドラゴンの青年だけだ。
いや、厳密にはその二人が掴んで運んできた特大の箱も2つある。
前に王都へのお土産などの運搬に使用した、美波作のドラゴン用取っ手付きの箱だ。
「あぁ、そんなに難しい事じゃないんだ。
まずは紹介しておこうか、こっちがスイでこっちがガイだ。俺の部下で、今回は荷物を運んでもらったんだよ」
自己紹介をしつつ握手を交わすが、二人は見事に正反対の容姿だった。
スイさんは白い肌に若草色の髪とエメラルドの瞳をした中性的な美形で、ガイさんは焦げ茶色の髪と瞳にミルクティー色の肌をしたムッキムキの男前である。
ちなみに二人ともデカい。もはやお約束の二メートル超えである。
「頼みっていうのは、あの箱と同じようなので人を運べるのを2つ程作ってもらえないかって事なんだ。
春祭りに大勢来るだろう?子供もいるし、ああいう箱ならいっぺんに安全に運べるからな」
どうやらこの二人の青年は今回の滞在の為の荷物を運び、帰りには新しく作ったその箱を持ち帰る為の要員らしい。
「なるほど、分かりました。大きさは同じ位でいいですか?中はどうしましょうか、椅子にするか床にビーズクッションを置いて人数の調整をしやすくするか…」
四人で話し合いつつ作り上げたのは、大型のバス位のサイズで両サイドと前後に大きな窓、上部に取っ手のついた真っ白な箱だ。
内部は水色のカーペット敷で土足禁止、大小様々なビーズクッションを配置して、小型の冷蔵庫もついている。
ゆったり使っても20人は余裕で運べるだろう。
「うん、いい出来だ。では二人とも、これを王都まで運んでくれ」
「はい!将軍!」
キリッとした表情で返事をして今にもドラゴンに変化しそうな二人を見て、美波は慌てて声をかけた。
「えっ、ちょっと待ってください、今すぐですか?
来たばかりでお疲れでしょう?
もうすぐお昼ですし、大したものは出来ませんがせめてお昼ご飯は食べていって下さい!」
三人ともびっくりして美波を見つめている。
こんな大荷物を抱えてのとんぼ返りも、ドラゴンにとっては何でもない事なのだろうか…
「いや、別に疲れてはいないと思うが…
どうするお前たち、折角のお誘いだしご馳走になるか?」
「いいんですか?疲れてはいませんが、ここの食事には興味があります。ご迷惑でなければ是非」
スイさんが食いぎみに返せば、ガイさんもコクコク頷いている。
王都でも噂になっているのか、ハクロウ村の料理…
「もちろんです、食べていって下さい!」
三人を村長のお屋敷に案内して、美波は今頃必死で昼食の準備をしているであろう女性たちのもとへと、過去にない位のスピードでダッシュしたのだった。




