夜桜の下で
間が空いてしまいすみません…
見捨てずにお付き合い頂いて、ありがとうございます。
美波の運転する自動車を先導するように、狼達のひく荷車が走る。辺りは昼と夜のちょうど狭間、じきにヘッドライトが唯一の光源になるだろう。
村人達は2台の前後を狼の姿で駆けている。
「 なぁなぁ、夜桜ってどんな感じなんだ?わざわざ夜に花を見るなんて、美波のいた世界は面白いな 」
紫の染み付きシャツから、美波作の体にフィットした白いカットソーに同色のコートに着替えたユーリは、運転席の美波を見る。
「 んー、すごく綺麗だよ。昼の太陽の下で見るのとはまた違って幻想的なんだよね。もとの世界でもわざわざライトアップして夜に花を見るのは私の国ぐらいなんじゃないかな、桜限定だけどね。すごく思い入れのある花なんだ、こっちにも似た木があってすごく嬉しい 」
「 そっか、美波が最初に着いた場所のすぐ近くに群生地があるなんて、神様も粋な真似をするもんだな 」
「 えーっ、たまたまでしょ。あの神様そんな気の利くタイプじゃないって 」
神様に聞かれたらまずそうな会話だが大丈夫なのか。
「 美波!明かりが見えてきたわよ、予想以上に綺麗ね! 」
少しスピードを落として並走しながらミチルが言う。
街道の左手にライトアップされたコザクラとホテルが見えてきた。
「 わぁ、ほんとだ!完全に夜になったらきっともっと綺麗だね 」
自動車から身を乗り出したユーリも歓声を上げている。
「 おぉっ、すごいな。昼間はピンク色なのに何か青白く見えるぞ、違う花みたいだ… 」
「 ちょっとユーリ、危ないからちゃんと座って! 」
美波にコートを掴まれて座席に引き戻されたが、まだ興奮が収まらないらしい。ミチルにガルッと怒られて、ようやく大人しくなった。
「 悪かったってば、でも仕方ないだろ?俺は初めて見るんだからさ 」
「 それはそうだけど、もうすぐ近くで見られるんだし。子供たちも荷台で大人しくしてるんだから、大人のユーリが悪い見本になっちゃ駄目でしょうが… 」
子供たちの方がよっぽど大人である、多分尻尾はブンブン揺れているはずだが。
夜桜の下での宴会が始まった。
春とはいえ夜はまだ寒いので、厚手のシートには美波が
断熱処理を施している。地面からの冷気はこれで完全にシャットアウトである。
村人達はそのシートの上にほんのり暖かい座布団を敷いて、料理を堪能しつつ祝杯をあげている。
「 すみません、フェラリーデ様。こんな大人数で押しかけてしまって 」
「 いいんですよ、そもそもお花見は美波さんの発案ですし。それに町の皆も便乗して楽しんでいるようですしね 」
言われてみれば、ハクロウ村の村人達以外にも夜桜見物をしている人がいるようだ。
流石に前もって情報を得ていた訳ではないので、本格的にお弁当を広げている人はいないようだが、温かい飲み物やお酒を片手に思い思いにくつろいでいるようである。
「 そう言って頂けると気が楽です。どうでしょう、夜桜見物は気に入って貰えそうでしょうか 」
「 見ての通りですよ、美波さん。陽の光の下とは一味違って、幻想的で良いものです 」
そう言うフェラリーデ様は、月明かりとライトに照らされ背景の夜桜も相まって、いつにも増して美しい。
「 そうですね、私も大好きなんですよ 」
何とか真っ当な大人として会話を続けるが、眩しすぎて直視できない。
「 フェル兄、飲んでる? 」
村人達のグループを一回りして、おつまみをせしめてきたらしいユーリの乱入に心の中で感謝する。
「 えぇ、頂いていますよ。こちらにいらっしゃい、ユーリ 」
ポンポンと自身のとなりの席を勧めるフェラリーデ様に誘われるまま、ユーリが腰を下ろす。
「 夜桜っていいなぁ、夜にこんな風に外で宴会なんてしたこと無かったけど。これ他の花でもイケる気がする、そしたらどの地域でも楽しめるよな 」
勧められるままユーリにワインを注いでもらいながら、美波は確かにそうかもしれないと思う。
「 だねぇ。もとの世界の私の国が特に桜に思い入れがあっただけで、別に他の花でもいいと思うよ。桜は年に一回っていうのと花の時期が短いっていうのが、特別な感じを抱く理由なんだろうし 」
いくら美しいからといって、一年中咲いていたら風流でもなんでもない。
言い換えれば、どんな花だろうとその土地で愛されているならアリという事だろう。
「 その考え方は素敵ですね、王都なら何の花が良いでしょうねぇ 」
酔いのせいか、ほんのりと頬を染めたフェラリーデ様がコザクラを見つめる。
王都での思い出を辿っているのだろうか。
風流を楽しむはずで、始まりは確かにそうだった宴会は、いつの間にやらただの飲み会へと移行していたようだ…
「 どうしましょう、コレ… 」
酔い潰れて狼型になり、丸まったり仰向けになったりして転がっている村人達を前に、美波は呟いた。
「 そうだな、もう朝まで起きそうにないな。まぁ大人達は、人型じゃなければこのくらいの寒さは問題ないだろう…
子供たちとフェラリーデ様とユーリにだけ、何か防寒対策をしてもらえるか? 」
シロガネ様の言葉に力なく頷くと、即席の寝袋を作成して子供たちを詰め込む事にする。
人型できちんと起きているのは、美波とシロガネ様以外ではマリさんだけである。
ミナトさんもミチルも潰れたらしい、珍しい事もあるものだ…
「 分かりました、シロガネ様とマリさんはどうされますか?寝袋、作りましょうか? 」
美波の問いに、マリさんは不要とのこと。シロガネ様はお年の事もあるので、狼型になった上で特大の寝袋に入っていただく。
「 では、お休みなさい。私も子供たちとユーリ達を寝袋に入れたら休みますので 」
美波は一塊になって眠っていた子供たちを巨大な寝袋に詰め込むと、ユーリとフェラリーデ様のもとに戻る。
揺すっても起きないので隣に寝袋を作り、転がしてからしっかりファスナーを上げてやる。
重労働である。
なぜ今回に限って全員潰れるのか…
いくら久し振りの再会と初めての夜桜が重なったとはいえ、いい大人がこんなことで良いのだろうか…
「 ふぅ、疲れた。私も寝よう 」
自分用の寝袋を作ろうとして、ちょっと考えてからミチルの隣に特大サイズを作る。
ゴロゴロとミチルを転がして隣に潜り込むと、ファスナーを上げた。
「 ん、あったかい 」
酒臭い狼に抱きついて、美波も夢の中へ旅立った。
明日の朝起きたら、シロガネ様にお説教してもらわねば。薄れる意識の中、最後に浮かんだのはそんな考えだった。
翌朝、酷い二日酔いに顔をしかめつつ目覚めた村人達は、珍しく厳しい表情のシロガネ様に昨夜の醜態について説教を食らった。
ちなみにフェラリーデ様とユーリはザルなので、泥酔していたわけではない。
単に一度寝ると満足するまで起きない人なだけなのだが、フェラリーデ様は人前で爆睡したことが余程ショックだったらしく、青ざめた顔で何度も美波に詫びて肩を落として町へと戻っていった。
ユーリはただ一人のんきな顔で欠伸をして、お腹すいたから早く村へ帰ろうと空気を読まない発言をして、美波を呆れさせたのだった。




