村の中をご案内
「まずは親父に挨拶だな、一年ぶりだが元気にしてるか?」
クロガネさんとユリさんは村の至る所にある謎建築に目をやりながらも、父親であるシロガネ様の健康を気遣っている。入り口からお屋敷までの間にあるもの全てを説明していたら、会えるのは夕方になりそうなので自制しているようだ。
「あぁ、元気だよ。美波が来てから色々あったからね、退屈している暇なんてないよ」
「そうですよ、むしろ去年よりお元気かもしれません」
ギンとリンは、お二人の荷物を運びながら嬉しそうだ。ハクとユキちゃんはお二人と手を繋ぎ、スキップしている。
「それは有難いな、900歳を超えると退屈が何より怖いからな。美波、俺達からもお礼を言わねばな」
ありがとうと感謝されて、美波は恐縮してしまう。
確かに役に立つ技術もあるが、大半は暴走の末のシロモノである。
「とんでもないです、お世話になっているのは私の方ですよ。最初に出会ったのがハクで、本当に幸運でした」
心から感謝を伝えてギン達と別れ、中途半端になっていたレインコートの梱包を仕上げることにする。
一年ぶりの再会だ、積もる話もあるだろう。
「さぁ、頑張って仕上げちゃいましょうね。夜はコザクラ町に行くんでしょう?」
「うん、クロガネさん達も行けるかな。夜桜見てほしいよね、せっかくだし」
「行けるんじゃない?なんなら皆でお弁当持って夜桜見物にしましょうか。前なら村を空っぽにする訳にはいかなかったけど、美波のバリアのお陰で鍵いらずだものね」
そんなバリアもあった...究極のセキュリティシステムである。
「じゃあ頑張らないとね、終わったら村の皆を誘おう!」
こうしてお試しのはずの夜桜見物は大掛かりな宴会に変更されたようだ、当初の予定よりスケールが大きくなるのは最早お約束である。
一時間ほどでレインコートの梱包を終えさっそく村人たちに声をかけると、夕方には燻製も仕上がるそうなので、村人全員で出かけることになった。クロガネさんとユリさんには出発までの間、ミナトさんが仕切って村の中を案内してもらう。ミナトさんとクロガネさんは幼なじみで、今の姿からは想像できないが若いころはシロガネ様に首根っこを掴まれるようないたずらをしていたらしい。
夜桜見物のお誘いに行った美波にこっそり耳打ちしてくれたシロガネ様は、いたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「美波~双子ベリー採ってきたぞ!なんか作ってくれよ」
村の入り口から、手を振りながらユーリが駆けてくる。どうも姿が見えないと思っていたら、単独行動でベリー摘みにでかけていたらしい。
「ユーリ、すごい量だね」
大きなカゴ一杯の双子ベリーを受け取り、朝からマイペースに森で遊んでいたらしい残念エルフを見つめる。つまみ食いをしてこぼしたのか、シャツの胸元が紫色に染まっている。子供か...
「頑張ったんだぞ、デニッシュかロールケーキがいいな」
さりげなくリクエストしてくるが、これだけあれば村人全員で楽しめるだろう。
いい奴なのだ、残念だが。
「分かったよ、今日はコザクラ町で夜桜見物しながら宴会だから、デザートにしよう。
クロガネさんとユリさんが帰ってきてるから、挨拶してくれば?会いたかったんでしょ」
「帰ってきたのか?どこにいるんだ?」
「今ミナトさんが村の中を案内してるよ、たぶん学校にいるんじゃないかな。行ってきなよ」
見えないしっぽを振りながら駆け出すユーリを見送り、美波はずっしりと重いカゴを抱えなおす。
リン達と相談して宴会のメニューを決めなければいけない、忙しくなりそうだ。
お酒が入る前提でおつまみ系を充実させたメニューにして、子供たちのためにサンドイッチ類も作ることになった。美波はユーリのリクエストでロールケーキとデニッシュ担当だ、日没までには完成させたいので手早く作業せねばなるまい。双子ベリーのピューレや、パイ生地・スポンジ生地を作りそれぞれ仕上げていく。四段重ねの重箱に詰め終わるころには、窓の外は夕焼けだった。
「できた!なんとか間に合ったぁ。皆もできてるかな」
重箱を抱えて家を出ると、噴水広場に続々と村人たちが集まってきた。
人の輪の中心にはクロガネさんとユリさんがいて、友人たちと近況報告の真最中のようだ。
「美波!いらっしゃい」
ミチルの呼びかけで輪に加わるが、お二人とも村の中を見て回ったせいかテンションが高めである。
「美波、あのビーズってとっても素敵ね!それにあのデザイン、ミチルも腕を上げたけれどあなたのお陰で素晴らしいドレスに仕上がっていたわ。私たちも戻ってこようかしら、創作意欲が刺激されて刺繍がしたくてたまらないのよ」
至近距離で美波の手を握りユリさんが力説する、どうやらミチルのドレスを見たらしい。
「ありがとうございます、ほとんどミチルと村の女性達のお陰ですよ。私はアイデアとビーズの元を作っただけですし、ユリさんにならビーズをお譲りしても問題ないんじゃないかと思いますよ」
興奮が収まらないユリさんを、クロガネさんがやんわりと美波から引きはがす。
「すまないね美波、それより冷蔵庫と照明だよ。イツキにさんざん自慢されたが俺ならもっといいものが作れるぞ、是非とも協力してほしい」
ずいっと近づくクロガネさんの首根っこを、ミナトさんがつかまえる。
「落ち着けよ、もういっそ帰ってくればいいだろうが。あっちも弟子たちが独り立ちして一人前になってきてるんだろう?」
似たもの夫婦である、新しい技術を試したくて仕方ないらしい。
「いつでも協力しますよ、村に戻ってこられるならすぐにでもお手伝いさせて下さい」
若干逃げ腰になりつつ協力を約束するとがっちりと抱きしめられ、夫婦二人の全力のハグに美波の呼吸が一瞬止まった。
すかさずミナトさんに救出されたが、パワフルすぎる夫婦に息も絶え絶えである。
「二人とも少し落ち着きなさい、いい大人がみっともないぞ」
シロガネ様の一言でようやくクールダウンしたようで、そのあとはコザクラ町への移動の為に荷物を荷車に積んだりして手伝ってくれた。
美波の自動車と小型の荷車をひくためのハーネスを見て、またしても興奮状態になりシロガネ様に叱られていたが....
とりあえず、夜桜見物に出発だ。荷車に子供たちとシロガネ様、美波の自動車にはお弁当と冷蔵庫に入ったお酒とユーリをのせて。
大勢の狼たちと共に、沈む夕日の最後の光の中を、いざコザクラ町へ!




