嬉しい再会
「ミナトさん、ただいま戻りました。照明の設置は無事に終わりましたよ」
「ご苦労様、三人とも。疲れただろうから午前中はゆっくりしてくれていいぞ。イノシシ狩りに出た連中が昼には戻るはずだから、子供たちの相手だけは頼むけどな」
「そうか!祭りのソーセージ作り今日だったんだ。行きたかったなぁ、狩り」
クロはちょっと残念そうだ。お祭り用の仕込みを始めるので、男たちは朝から狩りに出ているらしい。
午後からは村人総出でソーセージ作りになるので、子守は美波の役目になるだろう。
何度かチャレンジしたものの、生き物を殺す事に慣れることが出来ないでいる。このままでは駄目だと思ってはいるのだが、今までの人生で自らの手で食材を確保した経験がないので、心がついていかない。
村の皆は、『気にするな仕事は他にもあるさ』と言ってくれるが、いつかは克服せねばなるまい。
まぁ、無理をして貧血で倒れるのはかえって迷惑なので、今日のところは大人しく子守に徹するべきだろう。
「任せてください、ミナトさん。子供向けのレインコートと長靴のモデルをしてもらうつもりです。
子供たちの意見も取り入れて、可愛いのを作りますよ」
美波のセンスに任せると確実に着ぐるみ祭りになるので、ミチルからのアドバイスで子供たちの協力を仰ぐことになっていたのだ。春祭りまで一週間なので、そろそろ作っておくべきだろう。
「私も一緒にやりますから、安心して下さい。暴走しないように見張っておきます」
ミチルの言葉にミナトさんは苦笑いだ。試作品の段階で個人的な趣味に走ったラブリーすぎるレインコートを作成して、またしてもナギを半泣きにさせたのは記憶に新しい。微妙なお年頃の男の子にウサギだの小鳥だのはキツかったに違いない。
「大丈夫だよ、ミチル。ちゃんと大きい子向けのカッコイイやつも作るし、信用してよね」
「子供服関連については一切信用できないんだよ。自覚あるだろ?」
クロも半笑いである。冬場の着ぐるみパジャマといい、暴走するのは間違いないと思われているようだ。
「ひどいなぁ、可愛すぎる子供たちが悪いんだよ!」
「ははは、美波は可愛いものに弱いからな。まぁ、しっかり頼むよ」
呆れ顔のミナトさんと別れて、昼食まではのんびり過ごすことにした。
午後になって昼食を済ませた美波とミチルは、学校で子供たちに囲まれていた。
「動物シリーズ以外はどんなデザインが良いかな、希望はある?」
「美波さん、出来たら幾何学模様っていうのがいいな。この前もらったパンツの柄みたいなやつはカッコいいと思う」
ナギは率先して意見を出してくれる。放っておくと後で痛い目に合うと、子供ながらに学習したらしい。
「美波お姉ちゃん、水玉とか花柄も可愛いと思うの」
「私はストライプも好き」
ナナとマナは背伸びしたい年頃の女の子らしく、意見を出してくれる。
「俺たちはドラゴン!カエン様とコクガ様みたいなカッコいいの作ってよ」
カケルとハヤテは強いものや大きいものに憧れる少年らしいリクエストだ。
「ドラゴンかぁ、怒られない?ミチル」
「大丈夫でしょ。ドラゴンは最強の種族だから子供たちの憧れだし、あのお2人が怒ると思う?」
意外にも子供好きらしいお2人は、そんなことでは怒らないだろう。むしろお土産に購入してくれそうだ。
ドラゴンのデザインはあまりデフォルメしないで、リアルに仕上げてカッコよさを追求することになった。
そうしていつものごとく一つ仕上げてはサイズや色を変えて量産し、子供たちに試着をさせてどんどん作っていく。ハクやユキちゃんのラブリーな姿にしばしば遠くに旅立つ美波を、ミチルが慣れた様子で現実に引き戻す。もはやお約束の展開である。
見本品を残し、たたんで透明の袋に入れてサイズを書いて段ボール箱に詰めていると外が騒がしくなってきた。
「あら、帰ってきたみたいね」
「帰ってきたって、誰が?」
「ギンの両親よ、お出迎えしましょう。ハク、おじいさまとおばあさまが帰ってきたわよ」
「ほんとだ!行こうよユキちゃん、お姉ちゃんも早く!」
ピルピルと耳を揺らしたハクは、しっぽを全開で振りながら美波の手を引く。
美波には分からないが、狼の耳には聞こえているらしい。学校を出るとソーセージ作りに一区切りついたらしい村人たちが、村の入り口に集まっていた。
「ハク、ユキちゃんこっちだよ。おいで」
子供たちを呼ぶギンとリンの隣に行くと、街道の分岐からこちらへ向かう人影が見える。
「父様、お迎えに行っていい?」
待ちきれない様子でハクが言えば、行っておいでとギンが笑う。
ユキちゃんと手をつないで駆け出すハクは、全身で喜びを表している。
「嬉しそうだね、ハク。久しぶりなの?」
「そうだな、一年ぶりか。そこまで遠いわけじゃないんだけど、なかなか行く機会がなくてな」
視線の先で大柄な男性に抱き上げられるハクが見える、笑い声がここまで聞こえそうだ。
ユキちゃんも抱き上げられてぐるぐる回されているようだ。ひとしきり再会の挨拶をしてから、ハクはクロガネさんと、ユキちゃんはユリさんと手を繋ぎ村へと歩き出した。
「久しぶりだな、みんな元気だったか?」
村の入り口まで来た二人は、村人たちと挨拶を交わしている。クロガネさんは漆黒の耳に金色の瞳の渋すぎる男前だ、ユリさんは純白の耳に黒い瞳の上品なご婦人である。ミチルの刺繍の師匠だけあって、凝ったデザインの刺繍の施されたチュニックを着ていて、年齢不詳の美しさだ。
「あなたが美波ね、話はギン達から聞いているわ。会えてうれしいわ、よろしくね」
「初めまして、こちらこそよろしくお願いします。息子さん達には本当にお世話になっています」
美波はユリさんと握手を交わし、クロガネさんとも自己紹介と挨拶をすませた。
「村の様子は随分と変わったんだろう?楽しみにしてきたんだよ、美波の話も聞きたいし新しい孫娘のことも聞かなくちゃな」
「父さん、とりあえず中に入ろう。今日はソーセージ作りをしているけど、そろそろ燻製作業だから手も空くし村中を案内するよ」
ギンは両親の荷物を受け取り様変わりした村へ招き入れた。




