完成しました、遊園地
あのあとコザクラ町に通うこと3日で、全てのドームハウスとミニ遊園地が完成した。
10軒のドームハウスは全てテイストを変えていて、特別室はかなりの力作である。
サイズは通常の物の約二倍で、ロフトを二つにしてみた。別々の階段から上がるようになっていて、少し高さを変えて入り口の正面と左手に配置してある。
半透明の素材で壁を作り、独立した二つのベッドルームとして使用可能だ。
室内にあかりを灯すと、壁越しに光が漏れて間接照明になったりもする。
他のドームハウスにはあえてバスルームを付けなかったのだが、こちらは念のためバスルーム完備である。リビングはかなり広くとってあるので、その気になれば小規模なパーティーもできそうだ。
室内のテーマカラーは青で、ランプは以前フェラリーデ様にプレゼントしたような、気泡をモチーフにしたモダンなデザインでまとめてある。
ベッドルームだけは淡い桜色と藤色をテーマに花の意匠のランプを取り付け、ウグイス色のベッドカバーをかけてみた。
更にリビングには二か所にハンモックが設置されていて、天井から吊り下げられたブランコ風ベンチが揺れている。
非日常を極めた空間ではあるが、多忙な日常を忘れてくつろいでもらうにはこの位やった方がいいのかもしれない。
「最高です、このハンモック....自宅に欲しいくらいです」
水色のハンモックに揺られているのは、フェラリーデ様だ。
我が君が利用する前に使い心地を確かめねば!と言っていたけれど、やってみたかっただけなのではないか....
「このベンチもいいぞ、美波!包み込まれるこのカーブがたまらない~」
ユーリはベンチというより流線型のソファといった感じのブランコに収まり、ユラユラしている。
そして美波は特大サイズのビーズクッションの上で、そんな2人を眺めている。
いいのか、こんなにくつろいで。
「いい感じに仕上がりましたよね、のんびりしていただけそうです。国王陛下がいらっしゃらないようなら、コクガ様達に使っていただいてもいいですね」
「あの2人は普通のドームハウスの方がいいんじゃないか?」
ユーリの指摘に、そうかも知れないと思ってしまう。
ラブラブですからね、お互いしか見えてない感じですし....
「そうかもね。ちよっと広くしすぎたかなぁ、陛下ってお一人でしょう?」
「大丈夫ですよ、我が君は友人に恵まれておいでです。お供したいという方は沢山いらっしゃるはずですよ」
フェラリーデ様のフォローにホッとする、一人きりでないなら楽しんでもらえるだろう。
「さて、では遊園地に行きましょうか。フェラリーデ様は完成形を見ていないですよね」
「えぇ、昨日は役所の用事がありましたから。建物の輪郭は見えていますが、とても楽しみです」
「早く行こうぜ、フェル兄!すごいんだぞ、びっくりするよ」
確かにびっくりするだろう....ユーリの勢いに乗せられて大暴走の末に完成したシロモノである。
想定外の仕上がりになってしまっている。
「先に謝っておきたいです、すみません。もうミニ遊園地って感じじゃないです、遊園地ですらないというか....アレは何なんでしょう」
現実逃避を始めた美波を引っ張って、ユーリが歩き出す。
フェラリーデ様は美波の様子に心配そうなそぶりを見せつつも後に続く。
ホテルを後にしてコザクラ町に向かい、メインストリートを通り抜けて反対側の門へと向かう。
こちら側もホテルの敷地と同じように、川のそばは割と広めの土地が手つかずになっていた。今はそこに王都の許可を得て、巨大な建造物が五つ建っている。
ひときわ大きいのが室内滑り台である。高さは10メートルくらいだろうか、透明の外壁の中を白いチューブがクネクネと這っている。建物の外階段を上り、ドアを開けてチューブ型滑り台に入る構造だ。
ちなみにこのチューブの中は、ドアの外のボタンを押すと色が変わる仕組みになっていて、空・海・星空から好きなものを選ぶことができる。
ボタンを押して人が入ったら、滑り終えるまでドアが開かない仕組みになっているので安全面も完璧だ。子供用は高さ5メートルほどで、大人と一緒に滑ることもできる穏やかな傾斜にしてある。
そして残りの三つはトランポリンだ。
無茶をする大人用・大人用・子供用に分かれていてサイズも大中小という感じで、スケルトンにしてみた。中の様子がばっちり見えるので、外で待っている人や見物人も楽しめるだろう。
もちろん例のバリアを張ってあるので、どんな無茶をしてもケガをすることはない。
なぜだろうか、最初は可愛らしい移動遊園地くらいの気持ちで始まったはずなのに、5メートルから10メートルの未知の建造物が乱立している....
かろうじてミニSLだけがほのぼの感を演出しているが....
「これは....近くで見るとまた、すごいですね」
「すみません、サイズ感がとんでもないことになってしまって。さらに滑り台はもはやジェットコースターです....」
上を見上げて固まるフェラリーデ様に、美波の声はどんどん小さくなっていく。
「フェル兄!滑り台行こうよ、おすすめは星空バージョンだ!真っ暗だから次どっちに曲がるか分からなくて、すっごい楽しいんだ」
そう、星空バージョンは激コワなのだ。バリアのおかげでケガをすることはないと分かっていても、猛スピードで滑り最後は空を飛んでエアクッションに着地するというシロモノを、真っ暗闇に星明りのみでやったらどうなるか、想像していただきたい。
美波は製作者の責任として全バージョンを滑り、星空バージョンだけは二度と滑らないと心に誓ったのである。
アレはだめだ、気の小さい人なら気絶しかねない....
ユーリに引っ張られて外階段を上るフェラリーデ様を見送り、そばに設置してある休憩用のベンチに腰掛ける。
最低三回は滑るはずなので、しばらく戻ってこないだろう。
「う~ん、ここのスタッフはどうしようかな。一回いくらでチケット制にするとして、町の人が臨時スタッフになってくれるといいんだけど」
ユーリとフェラリーデ様のテンションを見ていると、かなり混雑しそうな気がする。
まぁ、スタッフについてはフェラリーデ様に相談しよう。
美波がほぼ一人で作ってしまったが、基本的にはコザクラ町の春祭りである。
なんなら春祭りより早めにオープンして花見を普及させてもいいかもれない。町のレストランなどでお花見弁当を作ってもらって、お花見を楽しみつつトランポリンや滑り台を体験してもらうのも楽しそうだ。
すでに美波はハクロウ村の村人総出でお花見を決行するつもりである。
遊園地は子供たちも村人も絶対に気に入るだろう、右手に見えるコザクラの群生地はほんのりピンク色が見え隠れしていてじきに満開となるはずだ。
この世界に来た時からの小さな野望は村のみんなでお花見だったが、予想外の規模プラス遊園地付きという事態になってしまった。
まぁ、楽しければかまわないだろう。
「美波さん!すごかったです!」
チューブの先端から勢いよく飛び出し、エアクッションに着地したフェラリーデ様が、すごくいい笑顔で手を振っている。
「よかったですぅ~、ハハハ」
雪の滑り台を体験できなかったと知った時の落胆ぶりから予想はしていたが、絶叫系が本当にお好きらしい。
続いてユーリが飛び出してきた。
「ウォー!さいこー。次いこう、次!」
いや、ユーリ。昨日さんざん滑ったよね、体験するのはフェラリーデ様だけでいいんだけど。
キャッキャウフフと階段に向かう二人を見送りつつ、空を見上げる。
青空には所々に白い雲、気温もだいぶ春めいてきた。
春祭りまであと3週間ほど、ハクロウ村の商品はほぼ準備完了である。あとは美波がボールを作って、ルリさんが頑張ったらしい綿あめ製造機に、畏れおおくもカエン様にお使いを頼んだザラメを使って綿あめを試作するだけだ。
アメリカンドッグから名前を変えて、フワフワウインナー揚げとフワフワチーズ揚げになった新商品の中身は、1週間前くらいにまとめて作る予定である。
「カエン様っていついらっしゃるんだろう、まさかそのままお祭りまで滞在するなんてことないよね」
何のフラグだ、現実になる気しかしない。
「万が一そんなことになっても、今回はホテルがあるもんね」
このホテルの建造目的はそんなことだったろうか....
そして遊園地の視察はいつ終わるのだろうか。
「帰っていいかな、もう遊んでるだけな気がする」
3パターン体験したはずなのに、さらに滑り続ける2人を見ながら呟いた独り言は秘密にしておこう。




