ある意味想定内
美波の個人的なモフモフ祭りから、一週間が過ぎた。あれからイツキさん達の頑張りで櫛を大量生産したので、今では一家に一つの普及率である。
掃除機も行き渡っているので、今年は抜け毛の掃除がとても楽になったと感謝されている。
休日や仕事の合間など、仲良くブラッシングするリア充狼の姿がいたるところで目撃されている。
ちなみに独身の狼さん達も友人同士でブラッシングしたりして、それなりに楽しんでいるようである。
「 できたっ!可愛いんじゃないかな、初めてにしては良い感じ 」
満足気に呟く美波の手の上には、デフォルメされた狼の小さな人形がある。
ミチルの抜け毛で作った、羊毛フェルトならぬ狼フェルトの人形だ。
手のひらサイズで立体的な作りのそれは、ミチルの白い毛をメインにして目と鼻をクロの毛で作った、実に可愛らしい力作である。
大量の毛玉を再利用出来ないか尋ねたところ、大型肉食獣系の獣人さんの抜け毛は動物よけの効果があるらしく、今までは適当な袋に詰めて商人や草食系の獣人さん達に販売していたらしい。
ちなみに人気があるのは狼・虎・ヒョウ・熊あたりで、女性や子供より大人の男性の毛が効果があるらしい。
この村のハナビラドリが森の獣に襲われないのは、ここが人狼の村だからだ。
小さな肉食獣達にとって、狼が沢山いるここは恐ろしい場所なのだろう。
そんなわけで、森の近くに住む草食系の獣人さんや、荷物を運び街道を移動する商人達にとっては必需品なのだ。
「 どう?可愛いでしょ 」
「 あの毛玉からよくこんなのができるわね、針でチクチクしてるところを見ていてもびっくりよ 」
手のひらにコロンと丸い小さな狼を乗せて、ミチルが呟く。
そう。フェルトは根気のいる手芸品だ。
先端がちょっとギザギザになった針で、ひたすらチクチクするのである。
針は使えなくなった手芸用の針に、能力でコーティングした特別製だ。
「 時間はかかるけど、この独特のフォルムが可愛いんだよね。これに紐をつけて自動車につけるんだ! 」
美波が自動車に乗るときは、隣に必ず本物の人狼がいるので獣よけは必要ない。
単に可愛いからつけたいだけである。
「 ハクとユキちゃんの毛は、もう少しためてから二人の人形を作るつもりだよ。
もっと小さいときの二人を作って、リンとギンにプレゼントしようかと思ってるんだ 」
「 いいわね、きっと喜ぶわよ。でもユキちゃんの模様は難しそうね、腕の見せどころね!」
ウンピョウの複雑な柄を再現できるかは、美波の頑張り次第である。
「 うん、頑張るよ!今年は販売用の毛玉も可愛くするって皆も張り切ってるしね 」
村の男性の抜け毛は、ゴルフボール大の球体にして紐をつけて販売する予定だ。
女性達はそれを作りつつ、自分達の抜け毛を材料にして美波と同じように小さな人形を作ったりしているようだ。
毛色のバリエーションが豊富なので、色々な人形が出来そうで楽しみだ。
美波はミチルとクロの毛で、顔の部分だけを可愛らしくデフォルメしたブローチを作って、孤児院の子供達にプレゼントしようかと思っている。
可愛いくて、森に遊びに行く時はお守りにもなる優れものである。
「 美波、いるか?」
そんな話をしていると、玄関の向こうからミナトさんの声がした。
慌ててドアを開けると、ミナトさんと一緒になぜかフェラリーデ様の姿があった。
「 こんにちは、どうされたんですか?」
予告なしの訪問に驚いてそう尋ねると、フェラリーデ様は申し訳なさそうにこう切り出した。
「 突然すみません。実はちょっと問題が発生しまして……」
隣ではミナトさんも渋い顔だ。
「 とりあえず上がってください。中でお話しましょう 」
二人を招き入れて、テーブルの上を片付ける。
「 私は席をはずした方が良いですか?」
「 いや、かまわないよ。ミチルも聞いてくれ 」
「じゃあ、お茶をいれますね。プリンもありますから、よろしければ召し上がって下さい 」
しばらくして、プリンとハーブティーが並んだテーブルを囲み、話を聞くことになった。
「 実はですね、春祭りに王都のエルフやドラゴンが、かなりの人数でやって来るみたいなんです…
もしかすると我が君もお忍びでいらっしゃるかもしれなくて……」
フェラリーデ様の言葉に固まってしまう。
ミナトさんは事前に聞いていたらしく、驚いてはいないようだ。
「 えっ……それはその、どういった経緯でそんなことに?」
「 きっかけはユーリがカエン様に送った手紙でした。春祭りに出す予定の新しいお菓子に必要な砂糖を、ある村まで取りに行って欲しいとお願いしたそうなんです。
その時に近況報告ということで、トランポリンの話や他の食べ物のことも書いたらしいんですね 」
砂糖とはザラメのことか、ユーリは旅の途中で似たようなものを見たことがあったのだろう。
ドラゴンにお使いをさせようとしたことに対するツッコミは、驚きすぎてスルーである。
「 それをカエン様がご両親やローザ様に話し、そこから我が君の耳にも入り……
そして王都のエルフやドラゴンの間にも広まったらしいんです。
元々この村の特異性は話題になっていましたし、春祭りなら参加は自由だろうから、自分も行ってみたいという人が続出しているそうなんです 」
なるほど……王都にはお土産として色々と送っているし、カエン様はご自分の部隊をもっている。
隊員達に世間話として話したことが広まることもあるだろう。
誰も悪気があってしたことではないのだが、結果的に大事になってしまったらしい。
「 なるほど…私に協力出来ることが何かありますか?」
フェラリーデ様が直接いらしたということは、何か依頼があるということだろう。
いつもお世話になっているし、困ったときはお互い様だ。元凶はユーリだし……
「 ありがとうございます、実は宿泊施設の建設をお願いしたいのです。
祭りの期間中コザクラ町の宿は常に満室になりますが、どうやら泊まりがけで来るつもりらしいのです……
美波さんの家のような感じで町の外に何軒か作っていただけると有り難いのですが、いかがでしょうか 」
おぅ……エルフとドラゴン向けのホテルの建設ですか。
物凄いプレッシャーであるが、やらねばなるまい。
「 分かりました、協力させていただきます。
敷地の広さや町からの距離はどのくらいですか?
同じ広さで部屋数を増やすなら、四角くして二階建てなんかも出来ますが。
ドームハウスの方が良いですか?」
「敷地は充分な広さがあります。本来は勝手に町を拡張することは禁止されているのですが、今回は特別なのです。
コザクラの群生地の外側、川に近い位置を使用して良いと許可が出ています。デザインも皆さんこのドームハウスに興味があるようなので、10軒ほど作っていただけますか?」
もはやリゾートホテルだ。日本にもあった気がするぞ、ドームハウスの沢山あるホテル。
「 分かりました。川があるならお風呂は各部屋にもつけますが、大きめの露天風呂も作りましょうか 」
「 是非お願いします!あそこにできれば私も毎日入れますね!」
「 どうにかなりそうだな。あとはルリに魔方陣を書いてもらえば、すぐにでも取りかかれるだろう 」
今まで黙っていたミナトさんが、ほっとしたように言った。
「食事はどうされますか?あらかじめ冷蔵庫に飲み物やアイスクリーム程度なら、入れておけると思いますが」
ミチルに言われて初めて気付いたが、確かに町まで少し距離がある。
「 食事は町でしていただくことになると思います、祭りの期間中は屋台も出ますし何とかなるでしょう。
ですが、冷蔵庫にあらかじめ入れておくのは良いアイデアですね。喜んでもらえそうです 」
「 歓迎の意味を込めて用意しましょう。
プリンやクッキーなんかも大丈夫だろう?美波 」
「 大丈夫だと思います。アイスクリームにプリン、クッキーと炭酸ジュースなどでしたら用意できます 」
ますますホテルっぽくなってきたようだ。
しかもちょっとお高い良いホテルだ。
「フェラリーデ様、一軒だけ特別室にしますか?
国王陛下がいらっしゃるなら、いくらお忍びでも他の方と同じというのはまずいですよね 」
貴賓室的なものを提案してみると、恐縮しつつも受け入れていただけた。
他より大きめで、豪華なものを作ることにしよう。
「 今日は突然のお願いを聞いていただいて、ありがとうございます。三日後にまたお会いしましょう 」
細部のデザインについては実際に作りながら決めることにして、フェラリーデ様は村を後にした。
遠ざかっていく馬の後ろ姿に手をふりつつ、ミナトさんと顔を見合わせる。
「 はぁ、何だか大変なことになりましたね 」
「 そうだな、ちょっとまだ現実味がないよ。三日後には作り始めるんだよな、美波にはまた面倒をかけるが村の皆も協力するから、頑張ってくれよ 」
「 手伝えることは何でもするから言ってね、もちろんユーリもこきつかって良いのよ。
元凶はアイツなんだから 」
二人の言葉に励まされる。びっくりしたしプレッシャーもあるけれど、できる限りのことをしよう。
想定外の仕事が舞い込んだが、ここ何日か思う存分モフッていたので、気力は充実している。
今なら実力以上の仕事ができそうだ。
とりあえずは設計図を描かなければ!何しろ国王陛下がいらっしゃるかもしれないのだ、どんな準備をしようと完璧ということはない気がする。
「 よろしくお願いします!せっかくですから喜んでもらいたいですしね 」
春祭りまであと少し、今の自分にできることを全力でやろう!




