ブラッシングでメロメロに!
「フフフ、いい出来!早く帰ってブラッシングー!」
午後になり、差し入れのクレープ(カスタードクリームと生クリームのWクリーム)を抱えてルリさんとイツキさんを訪ねた美波は、両手に掃除機と櫛を大切に抱いて自宅へと急いでいた。
櫛は急いで作ったとは思えない出来で、二点とも目の細かい逸品である。帰ったら能力でコーティングして仕上げるつもりだ。
そして掃除機は既にルリさんが試運転をしてくれていて、どこかのメーカーのCMのように素晴らしい吸引力を発揮していた。
因みに、モーターではなく魔方陣で空気を動かしているので、本家より格段に静かな優れものである。
これは確実に皆が欲しがるだろうということで、その場で20個ほど本体を作ってルリさんに託してきた。
最初の一つを作った後は同じものをコピーするだけなので、20個くらいならすぐである。
魔方陣も同じく二つ目以降は簡単だ、人工魔石もストックが充分あるので今日中には全ての家庭に行き渡るだろう。
「 ただいま!すごく良いのができたよ 」
自宅のドアを開けて両手に抱えた品を持ち上げると、おやつのクレープを食べていたハクとユキちゃんがこちらを見上げてくる。
「 おかえりー、お姉ちゃん。その大きいの、なあに?」
「 コレはね、掃除機っていうんだよ。このボタンを押すとここからごみを吸い込んで、ここに溜めてくれるの。フワフワの抜け毛も綺麗に吸いとれるんだよ 」
クレープの最後の一口をゴクンと飲み込んだ二人は、目をキラキラさせて掃除機を見つめている。
「 使ってみる?その間に私は櫛の仕上げをしちゃおうかな 」
やってみたい!と、大はしゃぎの二人に使い方の見本を見せてから、二階の掃除をお願いする。
仲良く階段を上がっていった二人の楽しそうな声を聞きながら、櫛を仕上げていく。
「 まずはこっちから。歯の部分は特に念入りに肌触りが良いようにコーティングして……よし、OK。
次はしゃもじ型の方をコーティングして、先端は丸くして、と。うん、いい感じ 」
あっという間に櫛の仕上げは終了した。
試しに自分の髪をとかしてみるが、地肌への当たりも柔らかいし髪が引っ掛かる事もない。
「 我ながら完璧な仕上がり!」
自画自賛しつつ、二階にいる二人に声をかける。
「 ハクー、ユキちゃん、降りてきてー!準備できたよ 」
階段を降りてきた 二人は、掃除の成果を誇らしげに見せてくれる。ハンディータイプの掃除機の中には、フワフワの毛玉がしっかりおさまっていて、性能は一目瞭然である。
「 きれいになったよ!すごいね、これ。
どんどん吸い込んでくのが、面白かった!」
「 お掃除してくれてありがとうね、二人とも。
櫛もいい感じだよ、期待してね。
さぁ、どっちが先にやる?」
はいっ!と手をあげたのはハクだった。
小さなナイトとしては、痛いかもしれないブラッシングをユキちゃんにさせるわけにはいかないらしい。
耳はヘニョンとなってるし、目はウルウルで勇気を振り絞っているのが丸分かりだ。
「 じゃあハクからね。大丈夫だよ痛くないから、狼になってここに寝てくれる?」
まだちょっとプルプルしている子狼を落ち着かせるために、櫛の表面をよく見せてあげる。
「 ほらね、ツルツルでしょ?痛くないから、触ってごらん 」
小さな肉球でちょんちょんと櫛をつついて、漸く緊張が解れたらしい。同じく獣化しているユキちゃんにも触ってもらう。
「 うん、痛くない。お姉ちゃんが嘘ついたことないもんね!」
さぁ、どうぞと言わんばかりに体を預けてくるハクを、床に座った自分の足の上に乗せてまずは真っ直ぐな櫛でとかしていく。
狼の毛はよく見ると二層構造になっていて、地肌に近い所にはフワフワの短い毛が密生して生えている。
外から見える毛皮の下に更にモフモフが隠れている訳だ。
その部分まで届くように、そして痛くないように、適度な力で優しくとかしていく。
少しずつとかしていくと、面白いように櫛の根元にフワフワの毛が溜まってくる。
「 どう?痛くないでしょ?」
櫛を手に取り溜まった毛を取りつつ尋ねると、ハクはこくりと頷いた。
「 うん、痛くない。なんか気持ちいいかも 」
「フフフー。でしょ?まだまだこれからだよ!」
その後は、少しずつとかしては毛玉を生産しつつ、ブラッシングを続けた。
首筋から始めて背中と脇腹をとかし、しゃもじ型に持ち替えて更にマッサージするようにとかしていく。
この頃にはもう、うっとりメロメロな感じになっている。
続けてしっぽをとかして、ひっくり返してお腹回りもとかしていく。全てを終えると、ハクの横にはチワワ程の毛玉が出現していた。
本人は心なしかちょっぴりスリムになったようだ。
「 はい、終わりー。どうだった?ハク 」
「 お姉ちゃん、ハク、ちょっと前から寝てるよ 」
ユキちゃんに言われ顔をのぞきこむと、スピースピーと規則正しい寝息をたてて熟睡している。
「 ほんとだ、寝ちゃったね 」
グニャグニャに脱力したハクを抱き上げて、ビーズクッションの上に降ろす。
「 お待たせ、ユキちゃん 」
ニャンコのブラッシングは初めてである、どちらの櫛を使うべきか暫し悩む。
「 こっちかなぁ、どう?」
しゃもじ型の方でツルツルの毛並みをとかしてみると、ハク程ではないがしっかりしたアンダーコートがあるのがわかる。
「うん、気持ちいいよ 」
OKが出たようなので、この櫛でいくことにする。
少しずつマッサージをするように櫛を滑らせていくと、ゴロゴロとのどが鳴った。
ハクと同じ手順でブラッシングして、ユキちゃんの横にも毛玉が出現する頃にはのどを鳴らしながら夢の中だった。
「 寝ちゃった…可愛い 」
いつもより艶々なユキちゃんを抱っこして、ハクの隣のクッションにのせてあげる。
「 大成功だね、さすが私のブラッシングテク!」
小さくガッツポーズをして喜びを噛み締めていると、玄関がノックされた。
「 美波、いる?」
「 ミチル、しーっ 」
寝ている二人を起こさないように小声で告げると、ミチルは静かに部屋に入り、熟睡する子供たちと毛玉を見比べた。
「 どうしたの、コレ 」
「フフフ!これだよ、この櫛!それと私のブラッシングテクで、二人をメロメロにしちゃったの!」
櫛を手渡すと、珍しいのかじっくりと観察して、思いがけない事を口にした。
「ねぇ、私もやってほしいんだけど 」
「え?ミチルをブラッシングして良いの?」
でっかい狼をブラッシングするなんて、モフモフ好きには夢のような話である。
「是非おねがい。換毛期ってムズムズするっていうか、すっきりしないのよ。二人ともすごく気持ち良さそうに寝てるし、毛並みも艶々だもの 」
「わかった!まかせてよ!」
因みに、毛繕いは親子や家族、恋人や友人などごく親しい間柄で行うスキンシップである。
ものすごく嬉しそうな美波だが、間違っても村人達を片っ端からブラッシングしてはいけない。
美波の理性はモフモフに打ち勝つ事が出来るだろうか…




