フェラリーデ様の視察
本日も晴天である。溶けだ出した雪は日の光を浴びて、水滴が煌めいている。
昨日の今日ではあるが、早い方が良いだろうということで、フェラリーデ様が視察にいらっしゃることになっている為、朝から少しザワザワしている。
「 お昼ご飯の準備はほぼ完了しています。デザートにメープルシロップアイスも作っておきました 」
美波はミナトさんと共に、最終確認の真最中である。
「 ありがとう、冬籠もりの間に生まれた新しい味を試してもらいたいからな。
アップルパイとやらも焼くんだろう?楽しみだよ 」
二日連続で焼くはめになったのはハクとユキちゃんがギンとリンに話し、それをたまたま聞いていたユーリが、ずるい!食べたい!と、大騒ぎした結果である。子供か……
「 えぇ、美味しいですよ。近いうちに皆で食べようと思っていたんですけど、ユーリの勢いに負けました。
二日連続は、さすがに微妙なんですけどね… 」
ミナトさんは小さく笑って美波の頭を撫でる。
「 ユーリのおねだりにはなぜか皆、甘いんだよな。まぁ、今回は村の皆も楽しみにしているし、多目に見てやろう 」
確かに朝から何人もの村人に期待に満ちた眼差しを向けられているし、作り方を伝授した女性達もハイテンションである。
今頃はパイ生地の仕込みと、カスタードクリーム作りも終わっている頃だろう。
「 そうですね。ところでユーリは何処に行ったんでしょうか 」
「 ユーリなら待ちきれなくて、村の入口で待機中だよ 」
フェラリーデ様は単身、馬でいらっしゃるそうなので、そろそろ到着する頃である。
「 ユーリとフェラリーデ様って、どんな関係なんですか?だいぶ仲が良いみたいですけど 」
何せフェル兄である。ルックスとの違和感がハンパない。
「 ローザ様とフェラリーデ様が元々王都で親交があったらしいな。ユーリにとっては子供の頃から知っているお兄さんという感じらしい。
旅の途中でハクロウ村に滞在して、そのあとは必ずコザクラ町に寄っていたはずだよ 」
なるほど、そういう関係だったのか。
子供の頃のユーリと遊ぶフェラリーデ様……すごく絵になる。
ユーリが黙ってさえいればだが。
「 ん。いらしたようだな、行こうか美波 」
ピクリと耳を揺らしたミナトさんと共に村の入口へ向かうと、すでに何人か集まっていた。
ユーリはハクを肩車して皆の先頭にいるようだ、背中にはユキちゃんがへばりついている。
「 子供には好かれるんだよなぁ…精神年齢が近いからか? 」
思わず漏れた独り言に、ミナトさんが吹き出した。
「 ハハッ、ユーリには厳しいなぁ。まぁ、困った所もあるが、基本的にいい奴だからだろうな。
子供たちは本質を見分けるものさ 」
何だか素直に認めるのがちょっと悔しい。
何しろユーリは、残念8割いい奴2割位で構成されているのだ。
「 悔しいけど分かります、最終的には許しちゃうんですよね 」
「 フェル兄~!!久し振りっ!」
ハクとユキちゃんをくっつけたまま、ユーリが駆け出す。
フェラリーデ様はひらりと馬から降りて、勢いのままに抱きついてきたユーリを受け止めている。
「 久し振りだね、ユーリ。元気だったかい?」
「 もちろん!見せたいものが沢山あるんだ、早く行こう!」
フェラリーデ様はユーリの上のハクをなでなでして、背中にへばりついていたユキちゃんを抱っこすると、ゆっくりと此方へやってきた。
「ご無沙汰しております、フェラリーデ様。
足元が悪い中、ようこそおいでくださいました 」
「 久し振りですね、美波さん。噂は色々聞いていますよ、冬籠もりの間の成果を楽しみにしてきました 」
馬を村人に託し、さっそく村の中を案内することにする。
ユキちゃんはユーリに助けられたせいか、同じエルフのフェラリーデ様が気に入ったらしく、ぺったりくっついて離れようとしない。
何だ、この状況……
「 あの、フェラリーデ様、重くないですか?」
おそるおそるの美波の問いかけに、眩しい笑顔で返された。
「 とんでもない、羽みたいに軽いですよ。
ウンピョウの子は初めてですが、とても美しい毛並みですね。
ユキちゃん、後で獣化して抱っこさせてくれますか?」
うふふっ、とモジモジしつつキュッと抱きつくユキちゃんに、フェラリーデ様は蕩けるような笑みを浮かべている。
もしやお仲間か?モフモフ好きか?
エルフの代表のような麗人の、新たな一面を発見してしまったかもしれない。
「 では、まずは学校へ行きましょうか。
ユーリの提案したトランポリンがありますから 」
一人冷静なミナトさんの先導で、美波たちは学校へと向かった。
「ほぅ、これはまた随分大きな建物ですねぇ 」
巨大なドームを見上げているフェラリーデ様に、ユーリが得意気に言う。
「 凄いだろ、フェル兄。でも中に入ったらもっと驚くぞ!」
中に入ったフェラリーデ様はしばし固まり、ほおっと息を吐いた。
「 予想以上のものですね、見たことない物が沢山ある。というか、始めて見るものばかりです…」
「 えぇ、その、何というか…
ちょっと暴走してしまいまして 」
ハクロウ村の住人達はだいぶ感覚がおかしくなってきているので忘れがちだが、ここにあるものほぼ全てがこの世界に無かったものである。
これが正しい反応だろう。
「 まぁ、とりあえず実際に体験して見てください。
ユーリ、実演して見せてくれるか?」
ミナトさんに促され、ユーリがトランポリンルームの中に入っていく。
「 見ててくれよ、フェル兄!それっ!」
冬籠もりの間に相当遊んだのだろう、回転したり捻ったりと様々な技を繰り出していくユーリに、フェラリーデ様はくぎ付けである。
「 フェル様、あたし達もできるのよ、みててね!」
舌が上手く回らないのか、フェル様と呼ぶことに決めたらしいユキちゃんはハクと共に中に入ると、ユーリとの合わせ技で物凄い回転数を記録している。
暫く見ない間に、凄いことになっているのだが……
「 宜しければ、体験してみませんか?」
ミナトさんの言葉に、フェラリーデ様も中に入っていく。最初はユーリと手を繋いで跳んでいたが、あっという間に前転後転、捻り等をマスターしたようだ。
今はユキちゃんを宙に投げ、回転しつつ落ちてきたところを抱っこするという新技に挑んでいる。
「 ミナトさん…こっちの人って皆こんな運動能力なんですか?まだ15分くらいしか経ってないと思うんですけど 」
「 フェラリーデ様はエルフだからな、人間だとさすがにこうはいかないだろう。
祭りでやるなら分けた方が良いかもしれない。
無茶をする大人用と普通の大人用、小さい子用と大きい子用だな 」
いや、ミナトさん。無茶する大人用って…
事実ですけども。
「 怪我をしないようにしないといけませんね。
何ならこのトランポリンルームに入った時だけ、例のバリアが発動する様にしましょうか。
それならぶつかっても、怪我をすることはないはずですから 」
「 美波…君は時々当然のようにとんでもないことを言うね。そんなことが出来るのか?」
「 えっと、多分できると思います…
とんでもないですね、よく考えたら 」
そんなことが可能なら、町や村全体を対象にすれば事故や怪我がゼロになる。
戦争で片方だけに作用するようにしたら、無敵の軍隊である。
この世界が平和で、本当に良かった。
「 まぁ、それなら安全だろうな。理屈については異世界の不思議遊具だから、で押し通せばいい 」
「 なんかすみません……」
二人で深い溜め息をついていると、四人が戻ってきた。
「 凄いですね、美波さん。大人でも充分楽しめます、是非春祭りで設置してみましょう 」
やったー!と雄叫びをあげて、ハクとユキちゃんを両腕に抱いてぐるぐる廻るユーリを尻目に、ミナトさんは先程の安全対策について説明しているようだ。
フェラリーデ様から生温かい眼差しを向けられたが、気が付かなかった事にしておこう。
「 次は子供用の自動で動く遊具です、どうぞこちらへ 」
イツキさん達は、短時間でミニSLもどきを仕上げていた。
先頭車両にはデフォルメした煙突もついている、もちろん形だけだが。後ろに連結した車両は4つ、子供がまたがって乗れるようになっていて、線路の代わりに順番を記憶させた魔方陣に添って進むようになっている。
「 さぁ、乗ってごらん。ハク、ユキ 」
ミナトさんに促されて、既にスタンバイ済みの子供たちの空きスペースに二人が収まると、ルリさんが先頭車両のボタンを押した。
「 わぁっ、動いたよ!すごいね!」
「 キャーッ!動いてる!」
子供たちのリアクションは荷車よりもだいぶ良い。
大人がいなくて、子供だけで乗っているというのが楽しいらしい。
手をふりつつ、おおはしゃぎである。ミニSLは学校の中をゆっくりと進んでいく。
「 これが自動荷車の副産物ですか、本当に馬無しで動くんですねぇ 」
自動荷車や自動車椅子、美波専用の自動車について説明だけは受けていたものの、実物を見て驚いているようだ。
「 結構丈夫なので、大人が子供を抱っこして乗ることも可能です。町の外にコースを作ってみてはどうかと思っています 」
「大人も乗れるんですか?是非乗ってみたいのですが」
じゃあ行こうぜー!と、ユーリに手を引かれたフェラリーデ様は、ユキちゃんを抱っこしてミニSLに乗り込んだ。
ものすごく良い笑顔で手を振る二人のエルフに、半笑いで手を振り返す。
「 ミナトさん、ユーリとフェラリーデ様が仲良しな理由が分かった気がします。
エルフのイメージが、どんどん崩れていきます…」
「 長く生きていると新しいものが珍しいんだろう、私達には想像もつかない年月を生きてきたんだから無理もないさ 」
その後、ボールプールで遊ぶ子供たちを視察して、ついでにビニールハウスと、溶けかけのすべり台とかまくらにも案内した。
何で溶ける前に呼んでくれなかったのかと、ユーリに詰め寄るフェラリーデ様の姿は、記憶から抹消しておこう。
「 さぁ、そろそろ昼食にしましょうか。珍しい味を用意してありますから 」
ミナトさんの先導で公民館に向かうと、既に準備は整っていた。
本日のメニューは、ナスとトマトのグラタンにチーズドック、新鮮な野菜を使ったサラダとサンドイッチである。サンドイッチの具材にハムを使ったものがあるので、お肉大好きな村人達も満足できるメニューになっている。
「 フェラリーデ様、どうぞ召し上がって下さい。
葉物野菜とナスはビニールハウスでとれたものです。
今日はデザートもあるので、少しお腹を空けておいて下さいね 」
「 生野菜ですね、なんて贅沢な…」
ベジタリアンのエルフさんたちにとって、冬は本当に辛い季節なのだろう。
ごく普通のサラダやサンドイッチのレタスに感激しているフェラリーデ様を見て、ビニールハウスの普及を急ごうと心に誓った。
大量の料理が皆のお腹に消えたところで、テーブルを片付けてデザートの準備をする。
そろそろアップルパイが焼き上がる頃だ。
「 さぁ、焼き上がりましたよ!」
女性たちの手で運ばれてきたアップルパイに、皆の目はくぎ付けである。
熱々のパイをナイフで切り分けていくと、甘い香りが漂う。今日はメープルシロップアイスがあるので、ミルモンアイス乗せは封印である。
全員に行き渡ったところで、デザートタイムだ。
「 これは、すごく美味しいです!」
うっとりと呟くフェラリーデ様は、いたくお気に召したらしい。
村人達は言うまでもない、シロガネ様もしっぽをふりつつ召し上がっているようだ。
「 良かったです、お口に合って。パイ生地が出来たら絶対に作りたかったお菓子なんです 」
サクサクのパイを口に運びつつ、二日連続のアップルパイという事実には目をつむる事にする。
「 とても美味しいです、それにこのメープルシロップ。サトウカエデからできるなんて、信じられません」
「 フェル兄、そのアイスは俺のアイデアなんだ!」
ユーリは得意満面である。物凄いドヤ顔だが、これに関してはお手柄なのでなにも言えない。
フェラリーデ様はその後、ミチル達のドレスを視察してウェディングドレスの試作品も見てくれた。
雪がとけたら、町の洋服屋さん達との話し合いの場を設けてくれるそうだ。
日があるうちに戻るため早めの出立となったフェラリーデ様に、近いうちに再会する事を約束して皆で見送る。
姿が見えなくなるまで手をふりつつ、派手になりそうな春祭りに思いを馳せる。
「 忙しくなりそうだね、頑張らないと!」
今年もよろしくお願いいたします(*^-^*)
年始はのんびりしてから投稿しようと思っていたら、風邪をひきました(>_<)
皆さんも風邪やインフルには気を付けて下さいませ




