春祭りの打ち合わせ ①
朝の冷たい空気のなか見上げる空は、どこまでも青い。
吐く息は白いが、真冬の朝とは明らかに違う。
レンガの結界の外にある雪は、日の光を浴びてキラキラと輝きながらその姿を変えていく。あちこちからポタポタと雪解け水の流れる音がして、冬の間中村人達を楽しませたすべり台とかまくらも、いつ崩れるか分からなくなってきた。
「 お姉ちゃん、すべり台無くなっちゃう…」
美波の手を握り左右に並んだハクとユキちゃんは、危険な為立ち入り禁止となったすべり台の前で半泣きである。
「 そうだね、雪で出来ているからね。冬の間だけのお楽しみなんだよ。来年の冬にはもっとすごいのが出来るかもしれないし、春がきたら春にしか出来ない楽しい事もあるでしょう?また来年皆で作ろうね 」
もっと凄いすべり台、いやジェットコースター?に反応したらしく、二人はすぐに笑顔になった。
「 春になったら何するの?」
キラキラの瞳で見上げてくる二人に、暫し考える美波。
「 うーん、そうだなぁ。春祭りがあるし、コザクラ町の外には桜が咲くでしょ?お花見は外せないよね 」
そう、初めてのお出掛けで思い付いて以来、異世界でのお花見は美波の小さな野望となっていたのだ。
「 お花見って何?」
「 桜を見に行くの?」
こちらにはお花見の習慣は無いらしく、子供達には当然未知のイベントである。
「 ふふっ。お花見はね、満開の桜の木の下でお弁当を食べたり、お酒を飲んだりして楽しむ春の行事なんだよ。いつもよりちょっと頑張ったお弁当を作って、外でご飯を食べたらとっても美味しいよ」
美波の説明に二人はしっぽをフリフリしたり、ピンと立ててみたりして嬉しそうだ。
「お花見っ!楽しみだねぇ、ユキちゃん 」
「 うん。何が食べたい?ハク 」
去り行く冬への悲しみよりも、春への期待が勝ったようだ。
皆にも教えてあげなくちゃと、手を繋いで走り出す二人を見送り、美波はかまくらとジェットコースターのバリアを解除した。
長かった冬がようやく終わり、この世界で迎える初めての春がやって来る。
「んー!さて、行きますか!」
大きく伸びをして、学校へ向けて歩き出す。今日は春祭りに向けて企画会議が開かれるのだ。
「 おはよう、美波 」
「おはようございます 」
中に入ると村人達と朝の挨拶を交わす。
ここには一番大きなホワイトボードがあるし、大人達が話し合っている間、子供達も遊具で遊んでいられる。
ホワイトボードの前の子供用の机と椅子を移動して、大人用スペースのビーズクッションを配置してあり、準備万端である。
ミナトさんに呼ばれてボードの前に向かうと、既にユーリとクロが何やら書き込んでいる。
「 おはようございます、そろそろ始めますか?」
「 そうだな、皆揃ったようだな 」
ミナトさんの号令で、第一回春祭り企画会議が始まった。
「 まずは既に決定している物だが、女性向けのドレスだ。これは冬の間にデザイン・サイズを取り揃えて作ったものを販売する予定だ。想定以上の量を作ってくれたから、一つのブースをそのままドレス用にしてもいいかも知れないな 」
女性達の頑張りで結構な量を生産できたので、試着スペースを設けて自分達で売るべきだろうという事になった。
「 さて、次はメインのブースで販売する物だな。食品とそれ例外で分けて考えていこうか 」
はいっ!ユーリとクロが勢いよく手をあげる。
発言する前から嫌な予感しかしないのは、美波だけだろうか。
「 俺達が提案するのはコレだ!」
バシッとホワイトボードを叩き、ユーリが示したのは何やら人の形が書き込まれた図だ。
「 これは、ボールでやる雪合戦だ!美波の作るボールを雪玉に見立てて戦うんだ!」
「 却下だな。他にあるか?」
ミナトさん、瞬殺である。
「 何でだよっ、面白いだろ!」
「はぁ、ユーリ。決められた広さで販売するんだよ、それじゃあ楽しいだろうが商品にならんだろうが…」
クロとユーリは不満そうだが、無視して次へ進む。
むしろイケると思ったのが不思議である。
「木工品で新作を用意してある、冬の魔法瓶の夏版だな。冷たいまま持ち運べる水筒だ、外側は冬の間に若手が作ったものを使用して内側は美波に頼む予定だ 」
イツキさんはそう言ってサンプルを皆に見せる。水筒の表面には幾何学模様や花などのモチーフが彫り込まれている。彫刻の練習をかねて若手の職人さん達が作ったものだ。
サイズは冬用よりスリムで、縦に長くなっている。
「 良い出来だな、売れそうだ。皆どう思う?」
木製の水筒は、満場一致で販売が決定した。
「 美波のボール販売はどうするんですか?」
ミチルの問いに、ミナトさんが村人の意見を求めたところ、前回かなりの盛り上がりだったので美波さえよければ今回もやってみてはという意見が多かった。
「 私は大丈夫ですよ。今回は春祭りですから、パステルカラーや花柄なんかも良いですね。前回は無地のカラーバリエーションだけだったので、柄物を作ってみます!」
ボールでジャンケンは恒例になりそうである。
他には女性達がリボンにビーズを縫い付けた髪飾りが提案された。このリボンはメープルシロップのお礼にと王都から送られてきた品物の一部で、お祭り用のドレスの材料として使ってほしいと言われた物だ。
半端な長さになってしまったものと、余ったリボンを使ってこつこつ作った髪飾りは、若い女の子のお小遣いでも手が出せる値段なので、客寄せの役割を果たしてくれるだろう。
美波もミチルにプレゼントしてもらい髪と一緒に編み込んだり、結った髪の飾りとして使用している。
因みにこちらはミチルが頂いた高級リボンに、手ずからビーズ刺繍を施した一点物である。
「 きっと売れるよ、すごく素敵だもんね 」
「 そうね、皆すごく練習して刺繍の腕を上げたものね」
ミチルは自信ありげだ、一冬で村の女性達の裁縫スキルは飛躍的に向上したのだ。
販売予定のドレスも素晴らしい出来で、町の女性達の目を釘付けにするだろう。
「 よし、じゃあ次は食べ物関係の提案をしてくれ 」
ミナトさんの呼び掛けに、次々に手が上がった。
投稿遅くなりました。
いつも読んでくれてありがとうございます(*^-^*)




