メープルシロップの味は…
広場の中央の大鍋の中、グツグツと樹液が煮えている。だいぶ濃度が上がり、トロリとした質感になってきた。
そしてこの甘い匂い……
みんなのしっぽは、揺れまくりである。
「 お姉ちゃん、抱っこ!お鍋見せて!」
甘い匂いの正体が気になって仕方ないハクを抱き上げて、グツグツ煮える鍋の中を見せてあげる。
「 わぁ、茶色くなってきたね。いい匂い~ 」
ユキちゃんもギンに抱かれて、覗き込んでいる。
「 もう少しかかるかな、楽しみだね 」
大鍋は交替で大きな木べらでかき混ぜている、焦げ付いたらアウトなのでみんな真剣な表情だ。
その後、コトコト煮詰めることしばし。
いい感じの濃さになってきたシロップを見て、美波は少しだけ味見してみる。
「 んー。美味しいっ!メープルシロップだぁ 」
もとの量の1/3くらいになってしまったが、とても濃厚で香り高いメープルシロップが完成した。
「 皆も味見を。あっそうだ!いいのがあった!」
汚れのついていない雪の表面を少し窪ませて、あら熱をとったメープルシロップを流し込む。
木の枝を持ち手にする感じでのせて、待つことしばし。
完成したのは、棒つきキャンディー( メープルシロップ100% )だ。
大人しく待っていた村人達のしっぽは、千切れんばかりに振られている。
「 はい、どうぞ、シロガネ様。味見して下さい 」
長老と言えど例外ではない。ダンディーなお爺ちゃんである、シロガネ様の銀色のしっぽも揺れている。
「 ん、いいのか?一番で。では、頂こう 」
鼻を近づけ香りを確め、キャンディーを口に運ぶ。
「 これは旨い。何とも言えない風味だ……」
「 良かったです、美味しいですよね。
じゃあ、皆さんも味見して下さい!」
暫く誰も口を開かなかった、みんな目を閉じてうっとりと味わっている。
「 美波~、美味しいわ、コレ!香りもいいし、コクもあってたまらないわ!」
「 ミチル、そこまで?良かったよ、気に入ってもらえて 」
ドキュメント番組で、現地の生産者が森の中で作っていた光景を覚えていて、本当によかった。
素材の味が、ダイレクトに伝わってくる。
「 よし!じゃあ瓶詰めするぞ!今夜はパンケーキにフレンチトーストだな。
これはあと何回か作るべきだろ、サトウカエデってまだ沢山あるんだろ?」
ユーリの言葉にミナトさんが頷く。
一本の木から採り続けていいものか分からないので、一回だけのつもりだったがのだが、この味なら少しくらい遠征しても作るべきだと見なしたようだ。
「 明日は遠出してみよう。これは作っておくべきだろう 」
ミナトさんが乗り気なので、決定事項である。
暫くの間は、村中に甘い匂いが漂うだろう。
「 うま~い!メープルシロップ最高…」
叫ぶユーリのお皿には、パンケーキにフレンチトースト。本日の夕食は甘々である。何しろ初メープルシロップなので……
「 うるさいよ、ユーリ。はい、お代わり分ね。
クロ、ミチル 」
美波はひたすらパンケーキを焼いている。
フレンチトーストは、リンとマリさんが交替で焼いてくれている。
呆れる勢いで食べ続ける村人達のせいで、休む暇もない。
しかし、今日の為に作ったホットプレート( 蓋つき )で、子供達の為にクマの形のパンケーキを焼く時間は確保する。
先に目と鼻を焼き、色づいてきたら顔と耳をまとめて焼いていく。
ひっくり返せばクマさんの完成である。
「 いくよー。はいっ、クマさんだよ!」
キャーッと歓声を上げる子供達、ナギも恥ずかしそうにしつつ受け取ってくれた。
しっぽをフリフリ、夢中で食べる姿は超絶ラブリーだ。
「 美波、替わるわ。食べてないでしょ 」
ミチルに交替してもらい、美波もパンケーキを口に運ぶ。こちらのメープルシロップはとても濃厚で、新鮮なミルクとバターて作るパンケーキと合わさると激ウマである。
「 おいしー。コレは危険だなぁ、絶対食べすぎちゃう。ここに生クリームとかアイスクリームとかをトッピングしたら、おしゃれカフェのデザートメニューだよ」
思わずもれた美波の言葉に、ユーリがすかさず反応する。
「 生クリーム!アイスクリーム!
美波ー。食べたい……」
地獄耳め、食べ物関連の情報は聞き逃さないエルフさんだ。
「 生クリームは多分あるけど、アイスクリームはあったっけ?どっちにしても全員分はないから、平等にジャンケンしてね、ユーリ 」
公民館の冷蔵庫には、幸い作りおきのミルモンアイスが十人分くらいはあった。
生クリームも皆の了解を得て、明日の分配分を使うことにする。
美波が砂糖抜きの生クリームを泡立てている間に、ジャンケン大会がはじまった。
えっ、シロガネ様が参戦?
意外に甘いものがお好きなのね。
というか、譲ろうよ!長老だし、村長だよ!
変なところで公平な村人達は、大人も子供も真剣な表情である。
「 よし!勝ったー!」
こういうとき決して外さない男、ライさんが一抜けしたようだ。
その後も勝者は雄叫びをあげて、あっという間に定員になったようだ。
「 はい、並んで下さいね。アイスクリームと生クリームですよ。一緒に食べると美味しいですよ 」
権利を勝ち取った村人達は、温かいパンケーキやフレンチトーストに冷たいアイスクリームの組み合わせに悶えている。
敗者達にも生クリームが与えられた。
更に高カロリーなデザートになったが、美味しすぎて止まらない。
「 うまいっ、熱くて冷たくて甘いっ!」
ユーリは闘いに勝利したようだ。
ちなみにシロガネ様も勝ったらしい。
初めての試みは大成功であった、もうすぐ春がやって来る。 雪解けは、近い。




