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幽霊は悪役令嬢  作者: Yeppie
第四章
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これはまるで

これはまるで尋問室じゃないか?刑事ドラマでよく見るヤツ。俺は部屋を見回し何となくそう思い、実際にこれから取り調べがあるんじゃ無いかと身を固くした。サンドリーニ先生は穏やかな表情で俺の前に座ってる。


「そうだな。先ず、私の立場から説明した方が良いかな。」とサンドリーニ先生は身を乗り出し「それに、ベニーモ。君の創作は、もう君だけのものじゃ無い。理解してるかな?」とため息を漏らした。

「え?あ…まあ、何となく…。それでも、あれは俺の…私の作り話ですよ、先生。私が書く内容を判断し、紙に書き留めているものなんです。それは…まあ、先生も含めて色々意見を…伺いましたが。でも、それをどう反映するかは私の…その…勝手です。」俺は目を伏せたままだった。

「ベニーモ。普段通りの話し方で良い。確かにあれは君の創作だし、それは尊重されるべきだ。でもね、ベニーモ。ここまで注目されたら、やっぱりそれは意識されるべきだ。私はまだその続きは目にしてないが、まあ私もその続きがどう書かれたかは気になるね。」

「おかしいですよ、先生。あんなの素人の与太話です。まあ、その…友人に読まれるから…それは意識しましたよ。でも、まさか神父様まで関心を示すなんて、どうかしてます。どれだけ娯楽がないんですか?」俺は顔を上げサンドリーニ先生の表情を見た。笑いを噛み殺している。

「娯楽がない。そんなワケない。私にとって、歴史研究は最高の娯楽です。多分、レゼガー様も神学が最高の娯楽ですよ。そうそう、私はレゼガー様がベニーモの部屋を直接訪ねたというのは、ここに来る直前に知りました。いやはや、ベニーモ。これは事件ですよ。」サンドリーニ先生は遂に大笑いし始めた。


笑いが落ち着くと、サンドリーニ先生は俺の目を見て話し始めた。


「話を戻しましょう。私の立場です。この特別授業は正式なヴェリセンタル公爵家からの依頼です。グレイシア様から直接ではありません。流石に特別授業という依頼をグレイシア様から直接となると、これは立場的に無理がありますからね。で、まあ、これは…正直言うと、私の小遣い稼ぎです。言っておきますが、特別授業は私の発案じゃあ、ありませんよ、もちろん。もっと本音を言いましょう。面倒臭いです。すごーく面倒臭い。でも、ちょっとは家計の足しが欲しいんですよ。お付き合いください、ベニーモ。」そのサンドリーニ先生の言葉に俺は眉を顰めた。


「さあて、その面倒臭い授業を始めましょう。先ず、君の創作がフラリアーツの何の歴史を想起させるか明かしましょう。」

「あの…。レゼガー様も、そんな話を俺に…私にしてました。」

「でしょうねえ。」とサンドリーニ先生は軽く首を振り「じゃあ、ブラナン王朝末期の話だというのは判ってるのかな?」と口をへの字に曲げた。

「はい。レゼガー様から聞きました。その…私の話に出てくる聖女に似た聖女が嘗て存在したということでした。」部屋が暑い気がする。そんなワケないのに。

「メモを取るのは厳禁です。君が私から聞いた話を咀嚼した上で君の創作に反映するのは、まあ、君の勝手です。」サンドリーニ先生は机に肘をつき手を組んだ。

「え?あ…そうですよね。」俺の緊張はマックスに近付いていた。

「じゃあ、そのブラナン王朝末期の話です。レゼガー様のお話ししたのは公式には記録に無い聖女の事でしょう。そうですね…そこからお話しした方が良いでしょうか。あ、そうそう、特別授業は今日だけじゃないですからね。私の予想ですが、多分、ガンズ先生もベニーモに特別授業をすると思いますよ。いやあ、恵まれてるねえ、ベニーモ。」サンドリーニ先生がクスクス笑う。俺は気が気じゃ無かった。どういう事?


「この公式記録に無い聖女、実はちゃんと記録が残ってるんです。それももしかしたらレゼガー様から聞いた?」

「はい。そう聞きました。あ、まさか、この部屋って王族しか入れないとかって噂のある…。」

「ははは。違うよ。あれは…まあ良いか、あれは書庫の中にある。ここは、ただの談話室だ。但し、許可を得て鍵を借りる必要がある。学園の許可をね。ということは、王家の許可だ。」サンドリーニ先生の言葉に俺の体温は急降下する心地だった。

「王家って…ええええ!あの、そんな重大な…ええええ?」俺は思わず頭を抱えた。

「おーい、それは大袈裟過ぎるよ。ただまあ、秘密の話をするための部屋なのには間違いない。」

「いや、それは十分重大じゃ無いですか。俺、あの、ただの男爵家の三男坊ですよ。」

「もうただの男爵家の三男坊じゃないなあ。君は自分の才能を誇った方が良い。」

「才能?あんなただの素人の、ただの思いつきで書いてるだけの、あれが?」俺はもうパニックだった。考えてみればパニックになるのが遅過ぎたくらいだ。まあ、実際は思いつきだけで書いてるワケじゃないが、そう言っておくしかない。

「落ち着きなさい、ベニーモ。これじゃあいつまで経っても授業に入れないよ。深呼吸、深呼吸。」サンドリーニ先生はニヤニヤしていた。


「では、その聖女の記録についてです。記録抹消刑というのを知ってるかな?私の授業では話した事がないと思うが。」

「いいえ。聞いた事ないです。」

「今ではそんな刑罰は行わないが、そうだな、六百年程前からあった刑罰の一つだ。ま、悪事は無かった事にするってヤツだね、単純に言えば。これはちょっと単純化し過ぎかな。ま、重罪人は最初からいなかった事にするっていう制度だね。ウーディ教が最も力を持っていた時期に出来た刑罰なんだ。つまり、そうすれば死後に天に昇れなくなるって信じられていたんだ。」

「つまり、すると、その…死後の魂はどうなるんですか?」俺は現実感が無かった。これは何の話だ?

「それは…そうだなあ…神学の領域だな。私はどうなるかは判らない。でも、民間信仰というのがあってね。霊魂は現世にとどまり彷徨うと思われてる。まあ、これはウーディ教の教義にはないかな。ウーディ教の教義にある穴、というか空白を民間信仰が埋めていくんだよ。だから地方によってその埋め方が違う事がある。まあ私はその種の話題は専門家じゃない。歴史研究に欠かせない要素の一部ではあるけどね。」確かにそうだ。怪談の類は宗教とは別種の何かだ。

「寧ろ、そういう民間信仰の方がウーディ教を取り込む場合も、もしかしたら、有りますよね。」俺は思わずそう言っていた。

「あー、やっぱり君は優秀だな。即座にそういう発想をする。その通り。聖女はそういう背景から出現したんだよ。」サンドリーニ先生の顔に笑みが広がった。

「え?どういう事ですか?」

「だって、ウーディ教の聖人は全員男性だ。聖女なんて発想は元々無いんだ。ま、これは私の専門外だけど、でも歴史上には何故か聖女伝説が伝わってるんだ。あのね、ベニーモ。君の創作では地方の教会の神父が聖女認定したという設定があったね?あれは、実際に民間信仰と密接だった地方の教会では有り得た事なんだ。特にブラナン王朝の時代にはね。でも、記録は残されていないし、あっても希少なんだ。ベニーモ。君の創作が注目される理由が少しは解ったかな?」俺は今すぐにでもこの部屋を出たかった。

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