謎
謎。そう、謎ですわね。まあ、田舎の神父がこのミリアという平民の女を聖女と勝手に認定し、囲おうとするのは理解できなくは無いの。悉く予言が当たるというのは、アタクシには疑わしく思えますけれど。でも爆爵家が後ろ盾とはいえ、ピカレス・クロマン学園にミリアが編入になるきっかけは何でしたの?その神父と爆爵の推薦だけでは、少し弱い気が致します。これは調査結果を待つ他ございませんわね。
このミリア、ここピカレス・クロマン学園では良い話を聞きませんわ。少なくともアタクシの耳に入る情報はどれもミリアを褒めるものではありませんでした。その評判は総じてミリアの礼節に関するもの。そうでしょうね。貴族ばかりの学園に平民が紛れ込んでいるのです。まあ、アタクシがミリアに関心を示していると思われるのは困りますので、侍従を通じてそれとなく得た情報ですけれど。ミリアはアーモリージ爆爵家に手厚く扱われているようでしたわ。まあ、このアタクシがミリアに関わる機会は、今のところ皆無です。ただ、王太子殿下に関わるとすれば、アタクシも関わらざるを得ませんけれど。
アタクシが王太子殿下にお目通が叶うのは多くても週に数度でした。王太子殿下にお会いする度、アタクシはどうしても予言の事が頭を掠めてしまいますけれど、まさかそれを口にするなどもっての外で御座います。ところが、アタクシ王太子殿下の方から意外な言葉を聞く事になりましたの。何と、王太子殿下自らが聖女を学園に引き入れたというのです。王太子殿下から直接で御座います。どういう事ですの?今までアタクシは寧ろ聖女の情報からは遠ざけられていたと思っておりましたのに。
「ほおー。王太子殿下が聖女をね。これ、どうなるんだ?」翌朝、ディルソンはいつものように俺の部屋に来て俺の作り話を読んでいた。
「どうなるんだろうね?俺、もう続き無理かも。」俺はディルソンから原稿を受け取った。
「ええっ?いやいや、書けよ続き。気になるだろ。」ディルソンは俺を肘で押した。
「まあ、書くけどね。だけど、この聖女をどう扱うか迷ってて…。」俺がそう漏らした時、ドアがノックされた。あー、ラシャールだな。
「え?どういう展開これ?王太子殿下が聖女を学園に編入させた張本人?てことは王太子殿下は自分の殺害予告を知ってる前提?」ラシャールは微妙な顔で俺を見た。
「それなんだよ。どうするか迷ってるんだ。最初は、その予言を王太子自身が知ってる設定にしようとしたんだ。でも、何だかそれだと後の展開がキツい気がして…。」俺は頬を掻いた。
「お前って…。ま、話がほとんど進んで無いよな。」とラシャールは俺に原稿を返してきた。
「それは…うん。そうだな。」俺は苦笑いした。
「遅筆だよなあ。」ディルソンは俺の部屋のドアを開け「ま、朝食に行こう。」と部屋から出た。
王太子自身が聖女を学園に編入させたと言うのは、昨晩あの少女と話した結果の設定だった。
「確かに、あなたのおっしゃる通り、その方が筋が通る気がしますわね。」少女は腕組みをして言った。
「うん、王太子に直接接触できるとなると、やっぱり王家が関わっていなけりゃ無理だと思うんだよなあ。」俺は頭の後ろで腕を組み、まだ何も書かれていない紙を睨んでいた。
「ま、よろしいんじゃありませんこと?これはあなたの作り話なんですもの。歴史書ではありませんわ。そもそも、あなたのフィクションには、どこの国のどの時代かはまだ書かれておりません。ふふ。態とそうしているのでしょう?逃げ道を用意なさってるのね。」少女は腕を解いてふわりと浮かび「今夜はこの辺で失礼するわ。続きは、後で拝見させていただくわ。」と部屋の扉をすり抜けていった。
朝食を済ませ、教室へ入ると一斉に俺に視線が向かうのが判った。あちゃー。
「ベニーモ、ちょっと。」小声でアラウが手招きする。
「何だよ。」俺はうんざりしながらアラウの横に座った。
「聞いたわよ。レゼガー様がベニーモの部屋に直接来たんだって。」あー、そっちか。まあそりゃそうだよな。そっちの方が目立つもんなあ。
「うん。でもそれだけだよ。」俺は努めて平静を装った。
「それだけだよな。」と、ディルソンがニヤニヤした。
「ディルソン、それだけなワケないじゃ無いのよ。神父様なのよ。こんな事ってある?ないわ!」アラウは小声を出そうとしたが、自然に声が大きくなった。
「でも、それだけだよなあ、ベニーモ。」ラシャールもニヤニヤしていた。
そこへ先生が教室に入って来た。あー、今朝の授業は歴史だよ。教室に入ってくるなりサンドリーニ先生が俺をガン見して口角を上げるのが分かる。あれは…サンドリーニ先生も知ってるんだな。俺がレゼガー神父の訪問を受けた事を。マジで学園内に情報伝わるの早いな。
授業後、サンドリーニ先生は俺を見て手招きをした。あー、はいはい。
「ベニーモ。放課後、特別授業受けてみる気はあるかい?」壇上でサンドリーニ先生は小声で俺に耳打ちした。いや、こんな目立つ場所でそんな事言わないでー。教室にいる学生達の視線が俺に集中してるよ。「まあ、君に選択権は無いんだが。」サンドリーニ先生は眉を上げ薄笑いをした。うん、そう思ってたよ。
今日のランチの別室送りは無かった。俺はほっとしたが、しかし何かもっと悪い事が起こる前兆にも思えて落ち着かなかった。ランチ後にアラウとマガレータが食堂へやって来て、マガレータは今、俺の作り話の続きを舐めるように読んでいた。
「王太子殿下が聖女を学園に。はあー。そういう展開ですか。これは予想してませんでした。私は、王家の誰かが聖女を利用しようとしている設定だと思ってました。貴族だけの学園に平民が編入って相当目立ちますもんね。なんていうか、その、本来の目的の目眩し的な役割っていうか…あ、すみません、私、その、出過ぎたマネを…。」マガレータはそっと俺に原稿を返した。
「実を言うと、俺も予想外の展開だよ。」俺は原稿を鞄に仕舞いながら肩を竦めた。
「え?どういう事ですか?即興で展開考えてるんですか?」マガレータはキョトンとした顔で俺を見た。
「即興と言うと、ちょっと違うけどね。でも、まあ…この続きを書くのが苦しいなあとは思ってるんだ。」俺は苦笑いし、マガレータは口をポカンと開けていた。
「ねー、ほんとテキトーよね、ベニーモって。」アラウはその様子を見てクスクス笑い「展開遅く無い?ていうか、続きが短過ぎよ。」と俺を睨み笑った。
そこへ、昨日も教室へ来た男が俺に向かってやって来た。あー、まさか呼び出し?すると男は俺が話を続きを書いたのかの確認と、それの写しをグレイシアが希望しているとだけ伝えて帰って行った。これって、俺が昨日グレイシアのエスコート依頼断ったから?何なんだ?
放課後、俺は写しのために原稿をライニに渡しに寺務所へ行き、その足でサンドリーニ先生と約束した場所へ向かった。図書館だ。
「ようこそ、ベニーモ。今日は書庫には入らないよ。こっちの部屋を使うんだ。」サンドリーニ先生は鍵を俺に見せた。え?どういう事?サンドリーニ先生は小さな部屋の扉を開け、部屋の明かりを点けると俺を中へ案内し、部屋の鍵をかけた。
「あの、これって…。」
「そこの椅子に座って、ベニーモ。そんなに長い授業じゃ無いよ。」サンドリーニ先生はニコニコしていた。俺はそれが却って不気味だった。




