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幽霊は悪役令嬢  作者: Yeppie
第一章
2/7

おい、ベニーモ

「おい、ベニーモ。入って良いか?」ディルソンだ。ディルソンは俺の隣の部屋を割り当てられていた。どうせ朝食の誘いだ。食堂は基本男子寮と女子寮で分かれていて、学園の学生はほぼ全員食堂で食事をしていた。王家や公爵家、侯爵家の学生は別の部屋を利用出来たが伯爵家以下の家柄は同じ食堂を使っていた。

「良いよ。俺ももう部屋を出るけどな。」俺はディルソンを部屋へ入れた。ディルソンは俺よりちょっと背が高くて体格も良い。顔は俺の方が良い。そう思うくらい自由だろ?ディルソンは俺と同じ男爵の家柄だ。学園では身分差は関係ないのが建前だったが、結局階級が近い学生で固まるのが常だった。


「お、それ何?」昨夜俺が作り話を書いていた紙をディルソンは目に留めた。やば。片付けるの忘れてた。

「見るなよ!」俺はその紙を机から取ろうとして失敗し、ディルソンに俺の作り話を読まれてしまった。

「へー。面白えな。お前、こんな才能あったんだな。」ディルソンは俺に紙を笑いながら渡した。

「そ、そうかな?まあ、何となく書いてみたんだけど…。」俺は恥ずかしくて顔を上げられなかった。

「ニャニンかあ。ヘンなの。悪役令嬢って何なんだ?そんなん聞いた事ないよ。それに断罪イベント?イベントって何だ?まあイベントの意味は知ってるけど。」ディルソンは俺のベッドに腰掛けた。さっき整えたばかりなのに。

「何でも良いだろ。腹減ったよ。食堂行こうよ。早めに行かないと、選択肢が無くなるだろ。」俺は部屋の扉を開けた。


食堂は半分ほど埋まっていた。夜はちゃんとメニューがあって、そこから食事を選べたが、朝昼は三つの食事のどれかを選ぶ事になっていた。チキンステーキにポークカツレツに…こりゃ何だ?挽肉の煮込み?豆腐抜きの麻婆豆腐みたいだな。ディルソンも俺もチキンステーキにした。朝から重い気もするが、この世界では普通だった。キッチンカウンターで朝食を受け取り、食堂の真ん中辺りへ行く。奥の方は俺たちより階級が上の学生が利用する事が多かった。ヘンなトラブルは無い方が良い。食堂のインテリアを見回す。この食堂は何となくヴィクトリア調に見え、俺が昔行ったイギリスの由緒あるホテルを彷彿とさせた。いや、それは変だ。この世界にイギリスは無い。


俺が十歳になった頃、つまり今から五年前だ、俺が別世界から転生したと自覚したのは。ハッキリそうだと断定は出来ないが、この世界には無い物を俺は記憶していた。最初、何故か俺はこの世界がヨーロッパに似ていると思った。だが、この世界にはヨーロッパなんて無い。俺が生まれ育ったフラリアーツと周囲の国々を合わせた地域はエレブと呼ばれている。それに俺はどうやら転生する前は日本という国にいたらしいが、当然この世界に日本もない。日本は東方とされていたけど、ここではエレブが東方だ。では西方に日本に似た国があるかと言えば、無い。西方はリエトとこの世界では呼ばれている。リエトへ一度位は行ってみたいが遠過ぎる。多分一生行けないだろう。


「おい、何ぼーっとしてんだよ。早く食い終わらないと、朝のクラスに遅れるぞ。」ディルソンはもう朝食を食べ終わっていた。

「あ、そうだね。ちょっと色々考えちゃって。」俺は慌ててチキンステーキを切り分けた。

「お前、あの話の続きを考えてただろ。出来たら俺も読みたいな。」ディルソンはニヤニヤしていた。

「本気か?」そうだ。俺はこの世界に何故か色々違和感を覚えているんだった。なんで爵位がヨーロッパと同じなんだ?それに、あの少女の話は…。

「本気だよ。お前、作家向いてるんじゃない?」ディルソンが俺の肩を叩き、俺は咽せる所だった。

「煽てんなよ。」俺は満更でも無かった。


クラスへ行けば当然女子もいる。早速俺に手を振る女子が見えた。

「おはよう、ベニーモ、ディルソン。」アラウだ。アラウは伯爵家の娘だったが、身分を大して気にしていないように見えた。偶に公爵家の女子と連んでいるのを見かけるし、一方で平民の男子とも話し込んでいるのを見た事もあった。

「おはよう、アラウ。今日も元気そうだよね。」俺はアラウの隣に座った。ディルソンはアラウに大して興味ない振りをしていた。

「元気よ。それだけだもん、私の取り柄って。」アラウはディルソンを俺の肩越しに見て「ディルソンは気分はどう?」と微笑んだ。

「最高。」とディルソンはぶっきらぼうに答えた。アラウは美少女という感じではなかったが、可愛い愛嬌のあるタイプだった。


「なあ、アラウ。」ディルソンは何かを思いついたようにニヤリとした。

「え?何?」アラウは眉を上げてディルソンを見た。

「ベニーモ、面白い話を書いてるんだ。なあ、ベニーモ。」ディルソンは俺の背中を叩いた。うわー。言いふらすんじゃねえよ。

「うっそ。ベニーモどんなの書いてるの?私お話大好きなの。今持ってる?」アラウの顔が明らかに明るくなった。

「あー、もお。今持ってない。それに出だしだけだよ、まだ。」俺は口をへの字に曲げた。

「え?何の話?」そこへラシャールがやって来てディルソンの隣に座った。ラシャールの家柄は子爵だ。俺と同い年なのにうっすら髭を伸ばしてる。

「それがな、ラシャール。」ディルソンがラシャールに答えようとした時、細身の中年男性がクラスに入って来た。サンドリーニ先生だ。今朝の授業はフラリアーツの歴史だ。


「おはよう、皆さん。前回はフラリアーツの百年前の話でしたね。覚えてますか?」サンドリーニ先生は教室を見回した。

前回はローイ王の話だったよな。ローイ王の革命の前辺りの話してたっけ。まあ政権交代の話だよなあ。コロード王をぶっ殺して代わりに自分が王になったっていう。

「コロード王は二百年程フラリアーツの実権をずっと握っていたブラナン王朝、つまりブラナン家の最後の王になりました。王権に余りに権力が集中し、軍閥の反感を買っていたんでしたね?」そう言ってサンドリーニ先生は黒板にネプリーオと書いた。

「この人物、将軍が反旗を翻したのです。その旗印がローイ・シェロール。今に続くシェロール王家の始まりです。王政を完全に解体した訳ではありませんでしたが、しかしコロード王の時代に比べれば身分制度はかなりフラットになりました。」何かに似てる。俺はそう思いながら黒板のネプリーオの文字を眺めていた。

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