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幽霊は悪役令嬢  作者: Yeppie
第一章
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ニャニンコ・ベラデーラ・ディ・フォン・キャラマーリ

ニャニンコ・ベラデーラ・ディ・フォン・キャラマーリ。そう、これがアタクシの名前。愛称はニャニンですわ。あら、ご存知ない?あーっら、あなた相当に愚かね。その愚かさ、命取りよ。アタクシの名前、よーっく覚えておくがよろしくてよ、あなた。ほほ。だってアタクシ、名立たる悪役令嬢ですの。ま、悪役令嬢って呼ばれるのは、アタクシ不本意ですけれども。そも悪役令嬢の「悪役」とは何の事なのかしら?まあいいわ。アタクシの事を知らぬ者は、このピカレール・パンパーカ学園にはおりませんの。フォン・キャラマーリ豪爵の一人娘にして容姿端麗才色兼備なこのアタクシに、誰もがひれ伏したものよ。

そうよ、誰もがアタクシの虜だったんですのよ。この国の王子すら。なのになのになのに!あのバカっ娘が王子を騙しやがったんですわ。断罪イベントとか抜かしやがって。イベントって何よ、イベントって?アタクシが何をしたって言うのよ!あのバカっ娘を、このアタクシが殺人未遂?バカ言ってんじゃねえ!このクソバカアンポンタンのクソマヌケ野郎が!あんな田舎娘、目にも入ってなかったわ!挙句にこのアタクシをギロチンで首チョンパ?酷すぎ!

そう思いませんこと?だからほら、アタクシこうして首が取れちゃうんですの。ほほ。ほほほほほ。ほれぇー。恐ろしい?恐ろしいでしょ?ふふ。アタクシ、幽霊になりましたの。




「何書いてんのよ!これ、まさかアタクシの事?」俺の頭上で素っ頓狂な声が聞こえた。

「え?あ。いたの?」俺はペンを置いて体を捩り、後ろを見た。綺麗な白いドレスを着た少女が俺の背後に立っていた。

「ニャニンコって誰よ?アタクシ、そんな名前じゃなくってよ。」少女は俺が書いていた紙を凝視した。

「良いだろ。フィクションなんだから。」俺は少女の呆れた顔を見た。やっぱ可愛いなあ。

「あなた、偶に良く解らない言葉を使うわね。フィクションって何?」少女は首を…傾げようとして慌てて手で頭を支えた。

「あ、作り話って事。」俺はその様子に危うく笑う所だった。笑ってたら大変な事になる。

「あら。あなた、誤字があるわ。豪爵じゃないわ。アタクシは公爵家よ。それに、容姿端麗才色兼備って、才色兼備だけで良くありませんこと?」少女は憮然として腕組みをした。

「豪爵で合ってるよ。わざとなんだ、これは作り話なんだから。」

「作り話って、これ、明らかにアタクシの事ですわよね。何よ、この後半!アタクシは決して、決してこのような言葉は使いませんわっ!なんたる侮辱!あなた、呪って欲しいのかしら?」少女はふわりと浮き上がった。左右に揺れる少女はまるで踊っているようだ。

「もう呪ってるだろ?お前、俺にしか姿が見えないんじゃなかったっけ?」俺は狭い部屋の中に浮かぶ少女の姿をため息混じりで眺めていた。

「悔しいけど、そうよ。でも、それはアタクシが呪ったからじゃないわ。」少女は更に上へ浮かび上がった。

「それで、お前、自分の名前を思い出せたのか?」少女は自分の名前を忘れていた。公爵家なのは覚えてるくせに。

「まだよ。もう思い出せるかも判らないの。でもニャニンコなんて名前じゃないわ!絶対に!」少女は俺に急接近した。

「ねえ、じゃあニャニンコって名乗ったら?愛称ニャニン。可愛くない?」

「はあ?何でアタクシがあなたの性癖に付き合わねばならないのですか。呆れますわ。」性癖?どこでそんな言葉の使い方を覚えたんだ?

「あ、そうだ。ここ変えようかな。あなた相当に愚かねってとこ。えーっと…。」俺はペンを走らせた。




あなたって相当に無知ね。ムチムチが好きだからって無知が過ぎるわ。そんな無知なあなたにお似合いな罰って鞭打ちかしら?ご褒美?あら嫌だ。アタクシ、そんなヘンタイ虫唾が走るわ。でも、アタクシとっても心が広ーっくて寛大ですの。特別にあなたにアタクシのこと、教えてあ・げ・る。アタクシ、名立たる悪役令




「このアタクシをどこまで侮辱するおつもり?!」少女の首が俺の書きかけの紙に乗っていた。

「え、あ、いや…ごめん。でも、面白くない?」俺は目を瞬いた。笑うな、笑うな俺。しかし、どうにもそれは滑稽な光景だった。

「あなた、笑ってない?」少女の目は凍てつくように冷たい。部屋の空気も冷えるようだ。

「笑ってない、笑ってない。見蕩れてるんだ、その美しい顔にね。」俺は微笑んだ。事実だ。この少女は美しい。俺の背後から肩越しに少女の細い腕が伸び、机の上の少女の首を掴む。

「本当かしら?本当なら、もっと敬意のある書き方をしなさい。」俺の背後で少女の声がする。

「これ、作り話なんだ。俺の好きに書かせろよ。」俺は後ろを振り返った。少女は静かにそこに立っていた。その姿は、俺にこの少女と初めて会った時のことを思い出させた。


俺は男爵家の三男だ。俺が通う王立ルミナール・フィディレテ学園はフラリアーツ国内最高の学府として知られている。入学条件に身分は関係ないが、王立であることと国内最高を謳っているので、当然高い教育を受けた者が入学する。ルミナール・フィディレテ学園の学徒は自然と高位の身分の子息や令嬢ばかりだった。平民も混じってはいるが、比較的裕福な家の平民だった。教育には何かと金がかかるもんだ。

ルミナール・フィディレテ学園の学徒は寮生活を義務付けられていた。当然、男子寮と女子寮とに分かれている。だから、夜の男子寮の廊下に少女がいるのは明らかに異常だった。しかも舞踏会に出かけるような白いドレスを着て。


「ねえ、なんで男子寮にいるの?女子寮は反対側だよ。」俺が声をかけると少女は目一杯目を見開いていた。

「あなた、どうして…どうしてアタクシが見えるの?」そう、少女は言った。

「見える?そりゃ見えてるよ。その格好、舞踏会にでも行くの?あ、いや、ここ男子寮だよ。ねえ、早く出て行った方が良いよ。」俺は少女に向かって一歩踏み出した。

「嬉しい!あなた、アタクシが見えるのね!」少女はふわりと浮かび、そのまま飛んで俺の方へ近づいて来た。少女はこの世の者では無かった。不思議と怖くは無かった。


それから少女は俺の部屋にやって来るようになった。


「ねえ、ベニーモ。どうしてあなたはアタクシが見えるの?見えるのはアタクシだけ?それとも他の…その…死人も見えるの?」ベッドに寝る俺の上に浮かんだ少女は言った。

「あのさあ、俺もう寝る時間なんだ。他の死人が見えるかどうかは判んない。」俺は布団を頭まで被った。

「あなた以外にも、アタクシが見える人はいたのかしら?」少女の声は悲しそうだった。俺は少しだけ布団をずらして少女の顔を見た。

「俺に聞くなよ。判んないよ。」今の今まで幽霊を見た事は、俺には一度も無かった。そして俺は思った。これは俺が別の世界から転生して来たせいなのかと。

悪役令嬢もの、割と好きなんです。

幽霊ものも割と好きなんです。

そこで自分も書いてみるかと、相変わらず何も考えずに書き始めました。


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