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幽霊は悪役令嬢  作者: Yeppie
第三章
16/24

教室へ戻る

教室へ戻ると入り口に見たことの無い男が立っていた。俺たちを見るなりすっと近づき「ベニーモ・マンカスター様でいらっしゃいますか?私、グレイシア・ヴェリセンタル様から言伝を申し受かっております。」と一礼をした。ヤバい。これ、絶対、別室送り案件だ。あ、はい。作り話の続き持って行きます。


そしてランチタイムになり、俺は今めでたく別室にいた。例の高位貴族用のサロンだ。目の前にはグレイシアが。そして…何で?何でガンズ先生がいるの?それにサンドリーニ先生も?今日はアラウは呼ばれなかった。エンリクは…あー、隣のテーブルで令嬢に囲まれ…あれ?遠くに幽霊の少女が見えた。あいつ、こういう所にも来るのか。そりゃそうか。少女は俺の姿を見つけ、驚いた顔をし、楽しそうに宙に浮かんだ。


「来てくれてありがと、ベニーモ。ちょっとしたサプライズでしょ?」グレイシアは明らかに俺の反応を面白がっていた。

「ははは。ベニーモ、そんなキョロキョロするもんじゃないよ。」ガンズ先生はクスクス笑った。

「いやあ、この席に私も招待されるとは。光栄ですな。」サンドリーニ先生は真面目な顔を崩さない。

「は、はあ。再度のお招き、感謝の至りです…。」俺の声は消え入りそうだった。


その日のメインはボアのクリーム煮だった。猪か。うん、ハーブが効いてて美味しい。美味しいんだけど、その…話題に入れないよ。食事中の話題は主にサンドリーニ先生に五人子供がいる話が中心だった。上の二人はこの学園の卒業生だが、三人目の入学は厳しいかもしれないとサンドリーニ先生は悩んでいた。サンドリーニ先生は俺と同じ男爵家だが、家督を継いだ訳では無い。まあ家督を継いでたらここで教師は出来ないよなあ。しかし、そんな話をされても、俺はどういう反応をすれば良いんだ?


「うふふ。サンドリーニ先生の意外なご苦労が聞けて面白いです。」ふと目を上げると、グレイシアが優雅にボアを口へ運ぶその後ろにあの少女が立っていた。うひゃあ、料理ガン見してる。それに、なんか背後霊っぽく見えるな、これ。まさかグレイシアを呪うつもりとか?あ、いや逆か。同じ公爵令嬢だとしたら、寧ろ守護霊的な立場?あ、俺と目が合った。睨むなよ。

「マーケルは、その、大して進学に興味が無いようでね。それよりも私の兄を手伝いたいと。執事になりたいなどと言いましてな。」マーケルはサンドリーニ先生の三男の名前だ。サンドリーニ先生は白ワインを一口飲んだ。執事ねえ。俺にはまだそんな展望はない。


デザートは桃のショートケーキだった。俺の記憶にある日本のショートケーキではない。目の前にあるこれは、シロップに浸した大きく厚く丸いビスケットにバターが塗ってあり、その上に半分に切った生の桃が乗っている。それにお好みで生クリームをかけてナイフとフォークでいただくってやつだ。まあ伝統的なヨーロッパ式のショートケーキに似てる。今や少女は俺の隣にいた。そしてこのケーキもガン見していた。うん、気持ちは解る気がする。いや、その顔やめて。恨めしやって今にも聞こえて来そう。


「おや、どうしました?」少女の向こうにはガンズ先生がいた。当然俺はガンズ先生を怪訝な目で見ているように思われた。「ははは、まあ気になるでしょうね。例の、君の書いてる小説が、ここに君が呼ばれた理由だと思ってるだろうからね。」ガンズ先生の強面の顔が綻んだ。

「あ、いや、その…。はい、そう思ってます。」俺はビスケットの上に乗る桃を危うく切り損ねる所だった。

「その通りよ、ベニーモ。今日先生お二人をこの席にお呼びしたのは、ベニーモの書いてるお話しの助けになると思ったからよ。まあ、ここでの議論は期待してないけど。」議論?グレイシアはニコニコしながら優雅な手つきでショートケーキに生クリームをドバドバかけていた。いやそれかけ過ぎ。

「まあ、私はもうベニーモの書いてるものは見たけどね。」ガンズ先生はニヤりとした。

「ほう。ベニーモ、何を書いているのかな?」サンドリーニ先生は目を見開き俺を見た。

「あ、あの…ある貴族の令嬢の話です。」俺は目を上げられなかった。少女は俺たちのテーブルの周りをゆっくりと周回し始めた。何してんだよ。そんな目つきで。やめろよ。笑うだろ。

「豪爵令嬢よね。」そのグレイシアの言葉にサンドリーニ先生は目を瞬いた。

「ごうしゃく?公爵では?」


というワケで、俺の作り話をまずはグレイシア、そしてガンズ先生、最後にサンドリーニ先生が目を通した。少女はグレイシアの後ろに浮かんでいる。何なんだ、これは一体?俺は心の中で膝を折り手を地につけてオーマイガーを三唱していた。


「まあ、これは思い切った展開ね、ベニーモ。アリナーナの王太子殿下暗殺計画を阻止する動きが誤解されるということなの?」グレイシアの目は俺を真っ直ぐ捉えていた。なんかおっかないな。

「あ、いや、そこまでは…秘密ですよ。」俺は何も考えてないのを何とか誤魔化した。

「面白いね。豪爵に爆爵って…まあこれはさておき、この天啓を得た平民の少女が聖女になるのは、何かをヒントにしたのかな?」サンドリーニ先生は真顔で俺を見た。ひいい。俺もう無理。

「ちょっとプロットと言うか、リアリティに無理あるかな。王太子殿下の婚約者なのに、この手の情報が婚約者に伏せられてるのはやっぱり不自然に見えるし、それに仮にこの平民の少女が聖女と正式に認定されてても、こんな暗殺計画予言はもっと慎重に扱うよね。」ガンズ先生の顔もちょっっと怖い。いや、そんなマジに取らないで。お願いします。

「ふふふ。そんな恐縮しちゃって。ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったの。」グレイシアは明らかにこの状況を面白がっていた。

「というか、ベニーモ。これはどこの国のどの時代の話なんだ?これだと、まあ時代設定は現代じゃないのは何となく判るが、フラリアーツの話に読めるよね。」あー、やっぱりサンドリーニ先生もそう思うのか。

「うん、そうだな。そういう描写がないよな。豪爵とか爆爵とか以前に、もっと考える部分があるな。社会の描写がないから、どうしてもフラリアーツの社会構造に当て嵌めて読んでしまうんだよ。」ガンズ先生は腕組みをした。見れば少女も腕組みをしてグレイシアの背後に浮かんでいた。


「これは…写しをお願いするのは早計かなあ。もう出だしの部分は写しをいただいたのに。」グレイシアはため息を漏らした。

「写しを、ですか?おやおや。」ガンズ先生は笑い出した。「いや、いいんじゃないですか?それはそれでしょう。この後の書き方で挽回はできますからな。」やめてー。

「まあ、じゃあ、やっぱり写しをお願いしますわ。」グレイシアはニコニコして給仕を介して俺に原稿を戻して来た。どうしてこうなった?


サロンを出ると、俺を追って少女もサロンを出て来た。


「ねえ、ベニーモ。あなた、少し時間おありになる?」少女は俺に耳打ちをした。どうせ誰にも聞こえないから、その必要はないんだけどな。俺は黙って首を横に振った。次の授業の時間が迫っていた。

「あら、そう。では、また部屋でお会いましょう。」そう言うと少女はどこかへ飛んでいった。

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