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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第二部 2章:EXTRA

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42話:永遠の策略

 本部に来てから初めての任務が終わった。


 任務を終えた作見は、永遠と共にビルに入ってエレベーターを待つ。


 「先にお風呂行ってから、ご飯行こうか」


 永遠は振り向いてそう声をかけるが、作見の姿は憔悴しきっていた。


 「昨日から寝てないもんね。そらそうなるよ」


 「いえ、俺はまだやれます」


 「休む時は休む! 休息も経験値だよ」


 眉間を人差し指で押されただけなのに転けかけそうになった作見は自分の状態を理解した。


 エレベーターに乗って11階に向かった2人は、まずは水分補給とドリンバーに向かった。


 するとそこに1人の少年がお茶を淹れている。


 「迅だ」

 薄い桃色髪の少年――迅は、コップに注いだお茶を一気に飲み干して、もう一度お茶を淹れる。


 「あの人は……」


 一度見たことあるような気がする作見は、歩きながら近づいて思い出しそうになりそうで出てこなかった。


 「迅も今から入るの?」


 「あぁ。最近西行ったり東行ったりしてるから、身体が疲れてる気がする」


 首を回してストレッチしているのか、疲労をアピールしているのだろうが、永遠は絶対気のせいだろ、としか思っていない。


 そんな迅を目新しそうに作見は見つめる。


 「結局、零花さんには認めてもらえなかったんだろ?」


 「えっ? は、はい」


 急に話しかけられた作見は、一歩後ろに足を出して驚く。


 「えー、と迅さん? はなんでそのことを?」


 永遠が呼んでいた名前を思い出して、作見は聞き返す。


 「香澄かすみに聞いた。ちゃんと話すのは初めてだな。俺は道枝迅」


 「作見です!」


 手を出してきた迅に応えるように作見は握手を交わす。怖い顔をしているから、きつい人だと思い込んでいたが、そんなことはなくいい人そうで良かった。


 「香澄くんが知ってるってことは、漏らしたのはごうさんだな」


 永遠はそう思いながら、備えてあるカップをとって水を入れる。作見もそれに続いて水を入れた。そして、2.3杯飲んだ後に3人で大浴場に向かった。


 「部屋で入らないのは珍しいな」


 EXTRAである永遠は、自室に浴室が設置されている。いつもなら自室で入浴するのだが――


 「これからは毎日ここで入るよ」


 永遠が大浴場を使うのは作見がいるからだ。現在直に作見の面倒を見ているのだから、裸でしか語れない悩みとかもあるだろうと、そう考えているのだ。


 だが、そんな永遠の思いを作見が知る由もない。


 ロッカールームへの暖簾を潜ると、貸し出し用のバスタオルとフェイスタオルが置いてある。


 正装を脱ぎ捨てた3人はフェイスタオルを持って大浴場に繰り出す。


 中に入ると足掛け湯があり、右手には洗い場が並んでいる。左手はバスジェットのついた浴槽が4つほど並ぶ。


 3人は体を洗った後、中心にある大きな浴槽に足を入れると――


 「珍しいね。永遠がここにいるなんて」


 そこには浴槽に浸かっている、ツンツンとした柔らかい薄紫髪の少年が頭にタオルを乗っけていた。


 「香澄くんっ! お疲れ様です」

 

 永遠は片足を突っ込みながら前屈みで挨拶した。


 「おや? そこの彼が作見くんかい?」


 お湯を囲むくらい大理石のような囲いに乗りながら作見は頭を傾ける。


 「俺は黒島香澄くろしまかすみ。ここでEXTRAのサポートをしている魔術師さ」


 香澄は湯船から片手を出して自己紹介をした。その微笑んだ瞳から只者でない雰囲気を感じる。流石に本部にいるということはかなりの実力者だろう。


 「柏木作見です」


 そして、3人は湯船に浸かって、「あ〜」と全身の力を抜いたような声を出して入浴を堪能している。


 香澄は段差の部分に座りながら「おっさんか」とでも言いたたそうに目を細めて3人を見ていた。

 

 「ごうさんが一緒じゃないの珍しいな」


 迅は香澄の一段下に座って、段差に両肘を乗っけながら言った。


 「サウナだよ。俺は苦手だからね」


 中央の湯船のさらに奥にはサウナが設置されている。香澄は長時間あんなところに居座るのは得意ではない。


 「あれ露天風呂じゃないんですね」

 作見はサウナの方を見ながら自然と漏れた。


 「ここ、11階のビルだぞ」


 あるわけがない。考えればわかったことを作見は考えなしに言ってしまった。その言葉に3人は少し目を細めて困惑した表情で作見に視線を向けている。


 その分サウナはかなり広い構造になっていて、テレビも付いている。


 話を逸らすために、作見は先ほどの会話について聞いた。


 「強さんってのは誰のことですか?」


 「強さんは、僕と同じEXTRAの気のいいおっちゃんだよ」


 永遠はそう言って、顔だけ出しながらお湯に大の字で浮かんでいる。


 「少々わがままだけど、いざって時は頼りになる人さ」


 香澄はそう言いながら、肩が冷えたのか段差を降りて肩を温める。


 「噂をすればだぞ」


 迅がそう呟いた時、サウナの扉が開く。


 「あ〜〜」

 と開放感あふれる声で出てきたのは、長身で引き締まった体をしたおっちゃんだ。


 その辺にあった桶で水風呂の水を汲んで白髪に少し黒い部分が残った髪から足まで濡らした。


 「ふぅ〜〜ってあれ? 人が増えてる」

 強は肩にフェイスタオルを掛けながら中央の湯船に向かって歩いてきた。


 「貸切ってわけじゃないですし、そりゃ増えますよ」

 香澄は諭すように笑った。


 すると、作見は立ち上がって一心に強を見つめた。


 「おろ? どうした少年」


 「昨日ここに来ました。柏木作見です。ぜひ一緒に考えてもらいたいことが!!」


 その目には決して曲げることのできない何かを感じさせた。その熱い目に当てられた強は、浴槽に腰を下ろして、


 「俺は、藤本強ふじもとごう。それで、考えて欲しいことって?」


 と少し嬉しそうに言った。若者に頼られるというのは悪い気分じゃない。


 「零花さんには認めてもらうにはどうすればいいかについて――」


 「あーお前が零花に振られたっていう子か。そうだな〜正直わからん」


 強はもともと零花とそこまで話したことはない。パチンコくらいしか共通の話題もないし、近づきにくい。


 「作見くんは零花さんになんて言われたの?」


 香澄は膝に肘をついて再び段差のところに座った。


 「……その考え方をやめろって言われました」


 少し俯きながら答えたその言葉に、強は瞼を揺らす。そして目を瞑りながら、


 「なるほどな……」

 強は静かに呟く。


 ポタポタと水滴の音が響いていた室内にも関わらず、強の呟きはこの空間に響いた。


 「強さんは何か知ってるんですか?」


 迅はフェイスタオルで顔を拭ながら、香澄の隣に座る。


 強は、作見の発言で大体のことを察した。


 「俺の口から言えることじゃない。聞くなら麻希薙にしとけ」


 悲哀な表情で強は立ち上がって湯船を上がった。


 零花を気遣ってなのか、強の真意はわからない。この4人がここに来る前に何かがあったのだろう。


 「俺から言えることは、すぐに認めてもらおうじゃなくて、強くなろうとする意志を見せることだ」


 強はそう言い残して、脱衣所に向かった。


 「強くなろうとする意志――」


 自然と作見は繰り返して口に出していた。


 「要は作見のやる気を零花さんに見せつけろってことじゃない?」


 永遠は浮かぶのをやめて、勢いよく肩を組んできた。


 「それで伝わりますかね?」


 「伝わると思うよ。零花さんもきっと作見くんのことを見てる。君が諦めないと言ったのなら、それを貫くのが一番の近道かもしれないね」


 香澄はそう吐き捨てて、強を追いかけた。


 強と香澄は一応バディだ。というかほぼお目付役みたいなものだ。


 作見は俯いて少し微笑んだ。


 「何笑ってんだよ」

 と迅も立ち上がって出ようとする。


 「皆さん優しいなって」


 「僕たちが仲悪かったら世界終わってるよ。さっ! ご飯行こ!」


 永遠も立ち上がって作見の腕を引っ張り上げる。


 作見もふっ、と笑った。零花に突き放された時はどうなるかと思ったが、いきなりきた新人にここまで親身になってくれるのかと感極まりそうになっていた。


 「お腹空きましたね!」


 大浴場を跡にした3人は食堂で食事を済ませた後、永遠は作見を15階に案内する。


 15階は宿泊する部屋がずらりと並んでいる。まるでホテルのようだ。


 「作見の部屋は一番奥だよ」


 その部屋の扉の前まで来たところで、


 「じゃあ、しっかり休むんだよ。17時半になったら下に降りてきて。待ってるから」


 「わかりました!」


 作見は部屋に入って、目についたベッドにダイブする。部屋はお風呂がない分広い設計になっている。


 かなり疲労が溜まっていた作見は目を閉じて、今は休息の時間を過ごした。

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