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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第二部 2章:EXTRA

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41話:この空の向こう

 その質問が作見の思考を止めた。


 何ができるか、作見は自分自身何ができるのか具体的に言葉にできずに詰まってしまう。


 「どうしたの?別に何でもいいんだよ」


 零花はさらっとそう言ったが、作見は何か追い詰められているような気がした。


 すると、ペシッ、と頭に軽い衝撃が走る。振り向くと海里が手刀で軽く叩いている。


 「海里くん……」


 振り返って、海里と目を合わせて互いに頷く。頭に乗っかった重荷が取り払われた気がした。


 そして、零花を見据えて、キッパリと言った。


 「俺は、諦めません!!」


 迷いのないその言葉に零花眉は一瞬、眉を揺らす。


 「ちょっと、2人で話そうか」


 と零花はそう言って部屋を出て行った。


 「多分屋上に行ったから、早く行きな」


 麻希薙は親指で扉を指指した。


 「は、はいっ!」


 急いで作見は屋上に向かった零花を追いかける。


 「零花さん、少し動揺してましたか?」

 

 確信はないが、永遠は作見の発言に対して見せた零花態度から何となくそう思った。


 「さあね、それはわからない。でも、あの子にまたあいというものに触れるいい機会だと思うよ」


 「――?」

 麻希薙の放ったその言葉の真意はわからない。今の永遠と海里には伝わらなかった。


 「それじゃ、私は部屋に戻るよ」


 振り向きざまに手を振った麻希薙は、目の前の自室へと戻って行った。


 「僕も帰るよ」


 「そうだね。零花さんにも会わせたし、迅を呼んでくるよ」


 役目を終えた海里は、今夜の任務に向けて帰還する。そして、最後に永遠へと告げた。


 「作見をよろしく頼む」


 「うん。できる限りサポートするよ」


 硬い表情のまま、海里は迅と共にテレポートする。


 「あいつ、ついていけるのか?」


 「うわっ!? 早いね」


 海里を送ってきた迅は数秒後に永遠の隣へと瞬間移動して帰ってくる。


 「怖い顔してるのに意外と心配とかするんだね」


 「うるせぇ! 怖い顔は余計だ!」


 迅のその反応に永遠はクスッと、微笑んだ。


 そして鼻を鳴らして、


 「彼は諦めないって言った。ならきっと大丈夫だよ」


 と期待を込めて言った。


          ◇


 エレベーターで屋上へと上がった作見は、目の前に現れた扉を開けて屋上へと足を踏み入れる。


 このビルの規模からすると屋上はかなり広い。が、特段目立ったものは何もない。目の前には、落ちないように鉄パイプの柵が組まれている。


 零花はそんな鉄パイプの柵に肘をついてタバコを吸いながら、遠くの水平線を眺めていた。


 「お待たせしました!」


 と零花の方から声をかける気配がないことを悟った作見は会話を切り出した。


 「うん。えーっと柏木くん? 君は若い、君の貴重な今の時間を割いてまでどうして魔術師をしているの?」


 零花は作見を見ないで、ずっと前を向いたままタバコをふかした。


 「それは……俺が人を助けられる術を持っているからです」


 鈍い風が、2人の髪を小さく揺らす。作見は一方的に体を向けて零花に訴えかけるが、未だにこっちを見てくれない。


 ふーっと、白い煙を吐いたまま、その瞳に作見が映ることはない。その目は一体どこを向いているのか、何が見えているのか、その答えがわかれば、振り向いてくれる気がする。


 「助けるか。つまり君は人を救いたいってこと?」


 「そうです! この世界で生きる人たちが怯えずに暮らせるようにしたいんです!」


 今のこの問答は確実に試されている。嘘をついてでもこの人の考えに寄せて答えても意味はない。己を知ってもらうためにも、作見は自分の思いを貫いた。


 「それは立派だね。けど、君はそれで幸せなの?」


 「はい?」


 「それだけ他人を優先して自分はどうとでもいいって?そんなことしてたら、いつか壊れるよ」


 その言葉に重みを感じる。EXTRAだからか――否。零花の過去に何があったかは作見は知らない。だが、得体の知れない説得力に否定された気がした。


 「それでも、俺は諦めません!」


 負けじと作見はもう一度表明する。


 「諦めないか……なら柏木くんは、どう思う?諦めるって、簡単か、それとも難しいか……」


 その問いに、作見は少し下を向いて考えたが、すぐに答えを出した。


 「諦めるのは簡単です」


 その答えに零花は眉を顰めた。


 「どうして?」


 2本目のタバコに火をつけながら追求する。


 「諦めるのは逃げです。逃げるのなんて誰でもできます。逃げずに立ち向かう方が困難だと俺は思います」


 いかにも少年らしい答えだ。その答えに零花は酷く嫌悪するが、表情には出さない。


 「諦めるのは簡単か。立ち向かうのは大いに結構だよ。でもね、それはどれだけ熱意があるかによって変わってくるよ」


 「熱意?」


 「君がバネと逃げずに戦うというが諦めないということなら、仮に諦めて逃げたとする。君が諦めたことによって、人が大勢死んだら君はどうする?」


 「……」


 その言葉は、作見を逆の立場で考えさせた。あれだけ息巻いていたのに、だんだんと自信がなくなってくる。


 「それでもし、激しく後悔するというのなら――君はもう一度、諦めるのが簡単だなんて言えるかい?」


 返す言葉もない。作見はただ、漠然と諦めるのは悪だと自分の中でレッテルを貼っていただけなんだと思い知らされる。


 「――零花さんはどう思っているんですか?」


 「私は別に諦めてもいいと思ってるよ。それが悪いことでもないし、自分のためなら諦めるべきさ。けどね、諦めない人は諦めるなんて頭の片隅にすらないんだよ。それが身を滅ぼすかも知れないのに」


 「諦めない人が諦めようって思うことはないってことですか?」


 「その人自身が思うことはないんじゃないかな。けど周囲からは諦めたように見られることはある」


 人の目というのは怖いものだ。大多数がそう思っていなくても、数人の声を知ると、その声が大多数と認識してしまうほどに追い詰められることもある。


 気にしない。これに尽きるが、これがどれだけ難しいことか。


 零花は白い煙を吐いて、身体を作見に向ける。


 「君は、私の下で学ぶ必要はないよ」


 この言葉が出た瞬間、風が止んだ気がした。冷たい目で訴えるように。


 「ど、どうしてですか!?」


 答えを見誤った。そうとしか受け取れない。だが、納得できるものでもない。作見は理由を問う。


 「私は、自分優先なの」


 夜任務に出て、趣味を楽しんで、ご飯を食べて、そしてまた任務。作見の面倒を見てる暇はない。


 魔術師を続けていくには自分の時間は必要だ。それを犠牲にしてまで弟子を取る必要はない。


 「今こうして時間を取ってくれているのは気まぐれってことですか?」


 「先輩に言われたからってのもある。それにちゃんと品定めはした」


 零花は突き放すように言った。しかし、それは作見の欲しい答えではない。


 「じゃあ、どうすれば認めてくれますか!?」


 作見が咆哮した時には零花はエレベーターはと歩き出していた。


 「その考えをやめなさい」


 「やめません! 俺は曲げない!!」


 零花は足を止めて、歯を鳴らし、一瞬だけ、()()()顔がチラついた。


 そして振り返り、


 「なら、今かかってきな!!」

 と感情を露わにする。


 作見は汗を浮かべながらも、覚悟の決まった表情で拳を構えて魔眼を発動させる。


 「行きますっ!!」


 攻撃の線は見えない。飛び出した作見は一瞬で零花の側まで移動し、腹部に拳を突き立てる。


 しかし、手応えがない。確実に捉えていたはずなのに、まるで空振ったように重心だけが前に残り、体勢を崩して転けそうになる。


 零花はというと――いつのまにか背後を取られ、作見が振り向いた時には、顔面に拳をもらっていた。


 酷く地面に打ち付けられ、意識を失ってしまう。


 (くっそぉー)


          ◇

 ――2時間後。


 「はっ!?」


 意識が戻った作見は飛び上がって起きると、永遠が触れていた。


 「やっと起きた。全然帰ってこないもんだから何があったんだよって思ったよ」


 拳を受けた顔の傷は綺麗さっぱり無くなっていた。


 「それで、どうだった?」


 「弟子にはしてもらえなかったです」


 不服そうに作見は俯いて落ち込んでいる。


 「そっか。まあ、零花さんのことだし何か考えがあるとは思うけど、これからどうする?」


 2人は立ち上がって、作見の服についた埃を前と後ろに分けて払った。


 「俺はあの人に認めてもらうまで諦めませんよ!」


 永遠は鼻で少し笑い、そうゆう熱いのは嫌いじゃなかった。


 「じゃあ、認めてもらえるように努めるしかないね。当分は僕が面倒見てあげるよ」


 「本当ですか!?」


 作見は両肩を上げて驚く。


 「うんうん。だから今日の夜は一緒に任務に行くよ」


 「はい! お願いします!」


 こうして、本部での1日目が幕を下ろそうとしている。師匠となる予定だった理乃原零花に突き放されることとなったが、作見は必ず彼女の元へ戻ってくる。

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