37話:魔術師本部
7月20日の早朝——作見は荷物を整えて海里と共に玄関で見送られるところだった。
「作見! 向こうでもしっかりやれよ!」
大輝は手を挙げて、快く送り出してくれた。
「はいっ!」
続いて、響は作見の肩を持つ。
「それが自分の出した答えなら、最後まで突き通すんだよ!」
と笑顔で言ってくれる。
「はいっ! 俺は逃げません!」
司は少し目を細めながら作見を見つめる。作見もそれに気づいて少し申し訳なさそうに見つめ返した。
「せっかく後輩ができたのに、離れ離れか……」
「ごめんなさい。でももっと強くなって帰ってきますよ!」
「そうだな。寂しいけど、作見がそう決めたなら、俺は止めないよ。頑張れよ」
司は照れくさそうに首をかきながら作見を応援した。
司の隣立っていた言美はスケッチブックに大きくこう書いていた。
「super fight」
手を伸ばして何度も見せつけるように前後に引いたり突き出したりしている。晴れやかな表情で送り出してくれた。
「迅は迎えにきてくれないんだね」
司はその方が早いのにと思いながら海里に聞いた。
「僕たちからお願いしに行くんだから、それはできないよ」
「そっか」
海里は地べたに置いていたリュックを持って、作見に確認する。
「行けるか?」
「はいっ!」
作見と海里はこうして駅に向かい、新幹線で名古屋を目指す。
名古屋まで新幹線で1時間もかからない。なっている間、少し寝ようと考えていた作見だが、そんな暇もなさそうだ。
しかし、すぐに落ちてしまい、海里の隣で爆睡をかます。そんな作見を見ながら海里は顔を引き攣らせて眺めていた。
◇
駅を出てすぐに目についたのは大きなビルだ。
「あれだ」
海里はそう告げてそのビルの側まで歩いていく。
10数階建てのそのビルには、レストランや銀行などが入っており、地下にも店があるらしい。外から見せる上階部分はガラス張りで、高級感が漂いまくっている。
「ここですか?」
西の拠点と違いすぎる建物の差に本当にここなのかと作見は再度確認した。
「うん。もう少ししたらここに――」
「やあ、お待たせ」
とビルから出てきたのは、同年代くらいの癖のある薄茶色い髪の毛をした少年だった。
「全然待ってないよ」
海里と面識のあるこの少年が、これから師匠になる人物か、と作見は観察していた。
「こうやって話すのは初めてだね」
少年は作見の方を向いて微笑んだ。
「は、はい?」
少年の見せるその優しい笑顔は、作見を言葉で表せない不思議な気分にさせた。
「僕は流合永遠――こう見えてもEXTRAの1人に数えられている」
「柏木作見です! これからよろしくお願いします。師匠!」
作見は大きな声で名を名乗り、頭を深く下げて敬意を表した。
「あ、あれ?」
永遠の反応は鈍く、困惑しながら首を傾げた。
「違うよ作見。永遠は師匠じゃない」
その海里の声が頭を下げる作見の上で聞こえた。
「えっ? じ、じゃあ?」
「永遠が君の師匠を紹介してくれるんだ」
「あ〜そうゆう〜」
作見はやっと理解した。永遠から強者感を一切感じない作見は、内心ホッとしたい早とちりだったみたいだ。
「この前、重症の作見の傷を治してくれたのも永遠だ」
と海里は説明する。あの時の作見はそんなこと気にしてないくらい興奮していたから忘れてしまっていた。
「それは、ありがとうございます! 命の恩人です」
作見は再度深く頭を下げて感謝する。
「いやいや、困った時はお互い様だよ。それに直したんじゃなくて戻したんだけどね」
頭を下げられるのに慣れていない永遠は、手を横に張って少し照れる。
「戻す? 相当重症だったってのは聞きました。それを完治させるなんて、永遠さんはめちゃくちゃ強いってことですよね?」
作見は目を輝かせながら永遠に迫った。
「千咲より強いかもね」
隣にいる海里はボソッと呟いた。
「そ、それはないよ。流石に千咲には勝てないよ」
永遠は冗談っぽく笑いながら流した。
「EXTRAは六要以上って……」
そう聞いていた作見は頭を斜め上に上げながら心の中で呟く。
そんな作見を2人は、どうしたんだ、と思いながら永遠は作見の考えていることがなんとなくわかった。
「千咲が異次元すぎるだけだよ」
「え!? な、なんで?」
まさに作見自身が疑問に思っていた内容の答えが、求めていないのに出てきた。心でも読まれたんじゃないかと思うほどに、永遠の観察能力に身を引いて驚く。
「なんとなくだよ」
永遠は丸めた手を口元に置いてクスッと笑った。まるで女の子みたいだ。
「身を持って経験する機会もあると思うよ」
唐突に海里はそう言った。身を持ってとは何か、経験するとはどういうことか、その時の作見には理解できなかった。
昼頃で混み出してきたビルの前には大勢の人たちが行き交う。そんな中3人の談笑は止まらず、周囲からは仲の良い高校生のように思われているのだろう。
「ちなみに、僕は去年まで京都にいたんだよ」
「えっ? そうなんですか?」
昨年は京都の人員が大きく変動した年である。その時六要補佐であった海里が、正式に六要へと繰り上がった。
このことにより、西で数えられる六要が4人になった。その4人の中で、本部から実力を評価された流合永遠が六要からEXTRAへと昇進し、人数のバランスを取る。
だが、今年が始まった頃に六要である西早星一が特別任務で魔法大陸に出発したことで、現在西の六要が2人ということだったが、春山響が帰還したことで、星一の席を響が埋めることとなり、現状六要が6人、EXTRA5人という、過去最高戦力が整っていると言ってもいい。
「だから、もし悩みや、躓いた時は僕を頼るといい。後輩の面倒は僕の役目だからね」
喋り終わった永遠は陽気に作見と肩を組んだ。
「その時はお願いします」
海里もこれなら心配ないな、と少し微笑みながら安心する。
「うんうん。じゃあ、そろそろ中に入ろうか」
と3人はやっと進みだして、ビルの中へと入っていく。
中に入ると、ビルというより大型ショッピングモールと思う人の方が多いんじゃないかと感じるほどにお店がたくさん並ぶ。
それも一階だけでなく、上を見上げると4階ほどまでその空間が続いている。
「驚いた?」
「は、はい……」
その光景に圧倒されている作見に横目で永遠は聞いた。
「4階までは一般の人が多いかな」
「4階までは?」
ビルといっても、ここは魔術師の総本山。全てを魔術師側が使っていては、一般の人には不審に思われる。
だから、4階までの全てを飲食店や雑貨屋などが占め、ショッピングができる施設ということになっている。
では、5階からはどうなのか。
「このビルは全15階建てでね、5階から上は全て魔術師が使っている」
「ま、まじですか!」
東の拠点でもビルの一階だけを借りているだけで豪華と思っていた作見だったが、本部は規格外にお金がかかっている。
お金がかかっているのはそうだが、このビルは昔の魔術師の人がある魔術によって建てたビルである。故に所有権は魔術師側にあり、今入ってるテナントから家賃をもらっているのだ。
この規模となると、それなりの収入を得ているため、設備には力が入っている。
3人は賑わうビル内を歩きながら、中心地点に位置するエレベーターから上を目指す。
「5階から説明していくよ」
とりあえずは、施設の案内だ。階ごとに何があるのか、把握しておかないとかなり迷いやすい。
3人はエレベーターのボタンを押して、5階まで上がる。4階まで吹き抜けになっていたが、5階からはオフィスのような作りになっている。
チン、とエレベーターの到着した音がなり、作見は固唾を飲む。これから始まるんだと、額に汗を浮かべながら扉が開く。
5階についた瞬間目についたのは様々な機械たちだった。




