36話:回答
響達が会議に出席している間、作見は自室の椅子に腰掛けて、深く考え込んでいる。
小さい時から運動で負けたことは愚か、自信を脅かす存在に出会したことがない。中学生になっても、運動能力はピカイチ――たまにする喧嘩でさせ傷を負ったことなんて一度もなかった。
つるんでいた奴らがおかしくなって、襲いかかってきた時でさえ、俺は抵抗できないように押さえつけることも容易に成し遂げた。
今でもあいつらは目を開けないままだ。海里曰く、魂が抜けた、ただの抜け殻のような状態だそうだ。
俺は、こんなふざけた世の中だって知らなかった。これも運命と呼ぶのか、そんなバネを倒す力を得た。あいつらのような目にあってら人は沢山いる。そうならないためにも、俺は魔術師になったんだ。
だけど現実は甘くなかった。司と共に遭遇したシカバネの前では何もできず動けなかった。
でも、そんな俺を司くんは励ましてくれた。胸がキュッとなった。俺の覚悟はまだまだ浅いものだったのだと痛感する。
北海道ではただの分身と戦った。海里は2対1でも難なく倒していた。対して俺は分身1体に手こずりながらなんとか倒した。
ここで自分と海里との差をなんとなく感じる。
文化祭では肉体を奪われた友達と戦った。初めは信じたくないという思いと、友達と戦いたくないという思いがぶつかって動けなかった。だけど、そんな思いを捨てて立ち向かい、人々を守る者というのがこの言葉に集約される。
それが魔術師である。
家族、親友、仲間、それらの姿をした怪物と殺し合わなければならない。俺はここで、魔術師の本当の辛さを知った。
一度折れたさ。自分ではどうしようもないほどに深く――それでも仲間達は親身に寄り添ってくれた。皆んなも、同じ思いをしてきた。自分だけが悲劇の中心にいると思うのはあまりに傲慢だった。
だから俺は立ち上がった、覚悟した、誰と戦っても俺は引いたりしない。そう思っていた。
だけど――今回俺は恐怖した。ただ震えて、跪いて、みっともない瞳で敵を見つめた。司は重症になるまで立ち向かうことをやめなかった。
対して俺はなんだ――覚悟したんじゃなかったのか。守るんじゃなかったのか。俺は初めて自分に気がついた。
ずっと守られてばっかりじゃないか。
弱い、弱い――息巻いたところで何もできてない。俺は、ずっと弱いままだ。
海里のような吹っ飛ばす力もなければ、千咲のような力強さもない。でも、強くなりたい。
どうやったら強くなれるんだ。
一日中考えても答えは出なかった。
◇
身の入らないまま任務を終え、朝食を済ませた後に作見は自室に向かう途中で庭の戸が珍しく開いてるとこに気づく。
そこには膝を立てて座りながら外を眺める海里の姿があった。
「海里くん……」
「どうした、そんな生気のない顔して」
海里から見てもわかるほどに作見の表情は酷いものだった。
「海里くん……俺を、弟子にしてください」
なぜか咄嗟に出たのか、その言葉だった。
「嫌だ」
「そうですよね……俺なんか、鍛えてもですよね……」
海里が作見を鍛えたところで強くならないと思っている作見は下手な笑顔を作ってその場から立ち去ろうとする。
「作見――隣に座りな」
あまり感情を表情に出さない海里が、今日は優しそうな顔で隣の地べたをポンポン叩く。
「俺が、君を弟子にしない理由がわかるか?」
静かに隣に座った作見に問いかけるように言うが、視線は庭を向いている。
「……育てたところで、俺は成長しな――」
「そんなんじゃない」
作見の話を遮るように否定した。
「え?」
「一言で言えば僕から教えることはもうない」
「いやっ!? そんなことは! 俺はまだまだ全然ダメダメで――」
作見はあの戦い以降、初めて感情を表に出した。
「作見はそう言うけど、魔力コントロールもマスターしたし、体術も喧嘩してた分僕よりトリッキーで型にハマらない。それは僕にはできない」
「じゃあ……俺はもうこれ以上強くならないってことですか?」
「いいや、あと君に足りないのは、経験だと僕は思うよ。魔術を身につけて数ヶ月――比べて僕はもう数年になる。その差を努力で埋めることは難しいよ」
「経験……」
作見は背中を丸めて下を向いた。
「後から聞いたけど、今回戦った相手との戦闘も経験だ。もう一度対峙した時、作見は全く同じようなことをするかい?」
「――しません」
海里は立てていた膝を伸ばして逆足の膝を曲げて抱える。
作見はここまでの会話で自分で出すことができなかった思いが吐き出していっていると感じる。
「でも、俺に足りないのが経験なら――強くなるのに時間がかかるってことですよね。俺は……今すぐ強くなりたいんです!! もう守られるんじゃなくて、俺が守れるくらいの力を持ちたいんです!」
作見は立ち上がって、震える手でヘアゴムを握りしめながら表明した。
「それが……作見の答えなら僕はサポートするよ」
優しく微笑みながら海里は、立ち上がった作見を見上げる。
ここまで、作見の閉ざされた答えを聞くことができた。どんな答えだったとしても、海里は手を差し伸べる気でいたのだ。
「サポート? 具体的にはどうゆう?」
「体術、魔力コントロール、そして経験――あと伸ばせるのは魔術だけだ」
淡々と海里は語る。
「魔術……」
「作見のような魔眼タイプの魔術師は俺もどうアドバイスしていいかわからない。だから――魔眼を使う人を僕が紹介してあげる」
と誰のことを言ってるかわからないが、海里は自信満々な顔で立ち上がる。
「――その人は強いんですか?」
あくまでも海里レベルまで強くなりたい作見は習う人も強くあってほしいと考える。
「強いよ。僕なんかよりずっとね」
「もしかして、千咲さんですか?」
海里より強い人の想像がついたのが千咲だけだった作見は思わず聞いてしまった。
「千咲も強いけど、それ以上かもね」
「えっ!? そんな人いるんですか?」
六要最強と言われた千咲以上の人なんていないと思っている作見は驚愕する。
「EXTRA――魔術師本部に席を置く5人の魔術師。その戦力は六要以上だからね」
「そ、そんな人たちがいたんですか」
「西は京都より左、東は東京より右、それじゃあ?」
と真ん中を担当する魔術師がいないことに作見は初めて気づく。
「その間ってことですか」
「うん。その内の1人が魔眼を使う人でね、作見はいい勉強ができると思うんだけど……」
その人を作見の師匠に当てるつもりだ。だが、話してる途中で何か思い出したように言葉が詰まった。
「どうかしたんですか?」
「ちょっとクセのある人だから、苦労するかもしれない……」
「大丈夫です。俺はもう折れません」
作見は堂々とした顔を取り戻し、真っ直ぐに海里の目を見て訴えかける。
「わかった。明日、その人のとこに行ってみようか」
「はい!」
作見は新たな指針を見つけ、前に進み出す。
舞台は魔術師本部――名古屋。
これから待ち受けるのは、波乱万丈か、はたまた絶望か、海里や千咲以上の実力という話を聞いた作見はびくびくしながらも名古屋へと向かう。




