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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第二部 魔術編 1章:交錯乱世

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35話:これまでの10年

 後日、六要たちは再び東の拠点である、高層ビルに集まる。あの時とは違い、大輝と海里に加えて隣には響がいる。


 前と同じで、またエレベータが来るのを待ちながら列に並ぶ。そんな時に響は、初めて会う海里に話しかけた。


 「君があの海里くんだね?」


 「はい。あ、あの? とは」

 人見知りな海里は言葉に詰まりながらも会話を続けるが、正直話すことはない。


 「帰ってくる前に星一くんから聞いてね」


 「星一と会ったんですか!?」

 星一の名前が出だ途端態度を変えて海里は喰いついた。


 すると列は進み出した。エレベーターが到着したみたいだ。


 「後で詳しく話すよ」


 と3人はエレベーターに乗り、千咲たちが待つ5階へと向かった。


 エレベーターを出ると北川さんがまた出迎えてくれて、あの豪華な部屋へと案内してくれる。


 そして部屋に入る時、響は少しソワソワしていた。10年越しの邂逅だ無理もないだろう。久々に知人に会うというのはなぜか緊張するものだ。


 「ど、どうも〜」


 と2人が入って行った後に、響の力のない声が響く。


 「久しぶりだな、響」


 「よく戻ってきたね」


 阿月と陽奈子は軽く手を振って響迎え入れた。

 

 「この人が……」


 千咲は横目で目新しそうに見ている。


 挨拶はこのへんで済ませて、すぐに話し合いに移行した。永遠は報告用のノートを広げて、響にバトンタッチをする。


 「それでは、お話しします。俺が過ごしたこの10年間出来事を――」


 響のその掛け声が部屋全体に緊張感をもたらし、話を聞く皆が息を呑む。


 「まず、あの大陸を――魔法大陸と称して話します。あそこには、かなりの人口と高度な文明が存在する」


 かなりの人口といっても、響たちのいるこの大陸全体の人口と比べると少ない方だ。


 「協力者を探すにあたって、俺はとんでもないことを知りました。魔法大陸の歴史では、魔術師は忌み嫌われていて、厄災のような扱いをされていました」


 これは、星一連絡でも伝えられた事実だ。しかし、響たちからしたら疑問が残る話だ。


 なぜなら、魔術師の歴史の中で、魔道士たちと関わったという記録は残されていないからだ。


 「だから、俺は協力者探しよりも――まず、魔法大陸の歴史を調べることにしました」


 響は星一と同じにまず学園に入学し、衣食住を揃えた。その中で、魔術師と魔道士の摩擦を知り、響は歴史を深掘りすることにした。


 それもそうだろう。魔術師の響が協力者を探すには条件が悪すぎる。


 「その理由は結局何なんだ?」

 全員が疑問に思った訳を阿月が最初に切り出した。


 「500年前にある1人の魔術師が――英雄を殺した。という、歴史が残っていることがわかりました」


 その伝承は現代の人々の記憶に深く刻まれている。それを覆す手を打ちたかったが、そんな簡単な話ではない。


 「500年前? それおかしくないか?」


 阿月が言い放ったその言葉に、周りのみんなも納得するような面持ちで頷く。


 「それは、俺も思いましたよ――だって今が505年になるんですから」


 クレイド暦505年――それが現代のはずだ。そして、魔術の歴史が始まったのが、クレイド暦203年――辻褄が合わない。500年前に魔術師は存在するはずがないのだ。


 一体、英雄を殺したとされる魔術師は何者なのか?そんな妄想が皆の脳を侵食する。


 「けど、今魔法大陸の歴史を考えても話が進まない。今の話をしよう」


 陽奈子は、頭を悩ます一同の雑念を払う。


 「そうですね。では――俺は学園に通いつつ、ある場所を調査しに行きました」


 その調査を行なったのが、響が魔法大陸に来てから3年のことである。


 「ある場所?」


 と隣に座る大輝は聞き返す。年下組の千咲や海里、永遠は口を挟むことはない。


 「魔法大陸では100年前にも大きな事件がありました。それが、国同士の戦争です」


 「向こうも平和って訳じゃないのか……」


 阿月はそう言いながら北川さんが淹れてくれた紅茶をおかわりする。


 「俺はその敗戦国の跡地に行きました。調査といっても、見てみたかっただけですけどね」


 響が向かったのは敗戦したエリア帝国跡地だ。敗戦というワードから想像するのは瓦礫の山だろう。だが、そんな様子はなく、倒壊した建造物は一部で、城や市街地はそのまま残り、まるで人だけが消えたような光景だった。


 そんな不気味ともいえる街並みを見て周り、王族が住んでいたであろう城に足を踏み入れた響はある人物と出会う。


 「そこで、2人のある兄妹、1人の少女――そして、妖精と出会いました」


 「よ、妖精っーーーー!!!!!」


 映画やゲームで出てくるあの妖精である。皆んなの反応は驚愕、それ以外なかった。仮想の存在と思われた妖精が存在したのだから無理もない。


 海里ですら開いた口が塞がらない。それくらいその報告は皆を驚かせた。


 「そこで俺は侵略者と思われたみたいで、兄の男に襲われました」


 この兄というのはセンリのことだ。センリはコニスやサアサ、クラネを守るために立ち向かった。


 「その時に、俺は持たされた電話――唯一の連絡手段でもあり、帰路の手段でもある電話を壊されたんです」


 と響は頭をかきながら恥ずかしそうに説明した。


 「だから帰ってこれなかったのか……」

 連絡相手を担っていた大輝は7年分の心配や不安が全て繋がった。


 「でも、何とか分かってもらえて、その3人が俺たちに協力してくれることになったんです!」

 

 ただ暇という理由で、センリたちは了承してくれた。


 「信用できるんですか?」


 腕を組んで、卑屈そうに千咲は言った。


 「分からない。でも、俺は信じたい」

 響は真っ直ぐな目で千咲に訴えかける。


 だが千咲は不満そうな表情のまま目を逸らして、鼻息をふっと吐いた。


 「信じよう千咲ちゃん。その人達に会った響くんがそう言ってるんだから、私らは何とも言えないよ」


 と隣に座る陽奈子が諭すように言った。


 「でも会ってみたいな。その妖精さん」


 ウキウキが滲み出る阿月の表情が皆んなの緊張感を1段階下げた。


 「掌に乗ったり、小さくて可愛いですよ」


 「やってみたい」と各々脳内で掌に乗る姿を想像するが、海里だけは自分の掌を見つめている。

 


 それから7年が経った。帰る手段を失った響は初めこそ絶望したが、時間がそれを忘れさせた。楽しかったのだ。センリやコニス、クラネやサアサとの生活がーー


 そんな平和な風景が目を瞑れば浮かび上がる。


 しかし、逸れたレールを歩いていた響を再びレールに戻したのはこの出会いだ。


 「それから7年後――俺は星一くんに出会います」


 「おっ!」


 息子の名前が出た阿月と陽奈子は「ついに」という面持ちで声が出る。他のメンバーもその名前に大きく目を開けた。


 「星一くんはすでに何人か協力者を――というか仲間ですね」

 

 「流石は俺の息子だ」


 「全員実力者揃いでしたよ。それに驚いたのは、その中の1人があのドラゴンでした」


 そのワードによって部屋全体が静まり返った。


 「ドラゴン?」

 

 「そうです。竜とも言いますね」


 妖精が出てきてもう驚くことはないと思っていた一同はそれ以上に反応ができなかった。


 「それ大丈夫なのか?」


 と焦った感じで大輝は響の肩を持つ。


 「大丈夫だよ。普段はただの女の子だから」


 もうわけがわからなかった。次々に想像超える情報の嵐に一同は飲まれてしまっている。


 「俺が帰ってこられたのは、星一くんのテレポートを使ったおかげです」


 「――ッッ!?」


 その言葉に阿月と陽奈子は少し気が逆立つ。


 「譲ってくれたんです。他に帰る手段の目星はついてるから心配しないでと伝言も預かってます」


 「ふん」とあまり納得のいっていない様子で親達は、子供への苛立ちと心配が態度から漏れ出ていたが、阿月は紅茶を飲んで落ち着いた。


 陽奈子もタバコを手に取り、室内は禁煙ということを忘れている。


 「そのテレポートって迅の魔術を刷り込んだやつでしょ?全員捕まって移動することもできたんじゃないの?」


 千咲のその発言は、皆をハッとさせる。


 「それは無理だよ。あの携帯に内蔵された魔力量だと、テレポートできるのは1人が限界のはずだと思う」


 とノートを書きまくっていた永遠は、以前に迅とその会話をしていたのだ。


 この任務は協力者を探すというものだが、それより絶対に帰ってこい、というのが最優先だ。もし協力者を募ることができたのなら、行くための魔力を貯めるのに時間がかかるが、再度魔法大陸に向かうという、かなり手間のかかることをしなくてはならない。


 複数人テレポートできたら話は早いがそんなことができる技術も魔力も現状の技術部にはなかった。


 しかし、星一は自力で帰ってくると言ったのだ。


 「なので、それまで星一くんを待ちましょう。8人ほどの実力者も一緒に来てくれるはずです」


 「なるほどなぁ……」


 頭がパンクしそうな大輝は天井を眺める。


 「これで俺からは以上です」


 「ありがとう響――また前に進んだ気がしたよ」


 と前に座る阿月は手を出して響と熱い握手を交わした。


 「それでは、解散しましょうか」


 永遠はノートを閉じて立ち上がった。


 「どうだった? 海里くん、お望みの話は聞けたかな?」


 終始口を挟まなかった海里に響は感想を求めた。


 「はい。すごく壮大で夢のある話でした」


 表情には出ていないが海里はかなり感動していた。星一とみたファンタジー映画を思い出したりして胸が高鳴っていたのだ。


 「そっか、それは良かったよ。それに帰ったら彼のことは頼むよ」


 あれから1日経ったが、作見は自信を失い切ったのか、何がずっと考え込んでいる。


 「はい。でもそれはあいつが、僕を頼った時ですよ」


 「うん、、そうだね」


 これにて異例の六要会議は閉会した。これから魔術師達はやっと進み始めた歯車の上に立つこととなる。

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