9話:2人の後輩
二人はその名前を聞き、一瞬フリーズする。
「マヤセってあのマヤセか?」
星一はフキに小さな声で耳打ちする。
「そのマヤセしかいないだろ」
フキも小声で星一返す。
「俺はフキ。こっちは星一」
フキは名乗り、星一も軽く紹介する。
「フキさんに星一さんですね!」
「私はフキさんとペアを組むことになっているので、これからよろしくお願いします!」
星一は、その言葉を聞き、心の底で安堵した。
「ああ! よろしく!」
フキは、あのマヤセと組めることが嬉しいのか、楽しそうな表情をしている。
「私は、星一さんのペアになる子を知っています。ちょっと難しい子なんですが、真剣に向き合ってあげてほしいです」
「ああ。丁寧に教えるつもりだよ!」
星一は任せろと言わんばかりに返事する。
「はい! お願いします!」
マヤセはそう言って、部屋を退出した。
「あいつ..….相当強いな...…」
星一は、ボソッと言葉が漏れる。
「英雄の孫は伊達じゃないか..….」
「ああ。ここに来て見た中じゃ間違いなく一番強い。あれ、本気出されたら俺でも正直わからねぇ」
フキはゴクリと息を飲み込み、無意識に拳を握りしめる。
「まあでも、俺とペアじゃなくてホッとしたよ」
星一は、マヤセ以上に目立つ奴は来ないと予想し、心を撫で下ろす。
そして、コンコンとノック音が鳴り、二人は同時に顔を上げる。
扉が開くと、そこには少し気の強そうな少女が立っていた。
燃えるような赤髪を高く結い上げ、堂々とした姿勢で二人を見据えている。
「...…失礼するわ。今日からあなたと組むことになったの」
星一は無理やり笑顔を作り、立ち上がる。
「お、おう!俺は星一。よろしくな! えっと...名前は?」
少女は星一の前に立ち、まっすぐな視線で答えた。
「ーーフラン・メルベリア」
フキはその名を聞いた瞬間、まるで雷に打たれたように硬直する。
「フラン・メルベリア!?」
「星一、耳を貸して!」
星一が身を寄せると、フキは震える声で囁いた。
「あの子..….この国、メルベリア王国の第二王女だ!」
星一の脳が一瞬停止する。
「は.…..?」
そして、次の瞬間ーー自然と口から言葉が漏れた。
「嘘やん」
フランは怪訝そうに眉をひそめる。
「.…..何か言った?」
「いやいや! 何でもない!」
「ど、どうして第二王女が、わざわざこの学園に?」
フキは、低姿勢で質問する。
愚問だ。フランは胸を張って堂々と答える。
「私が誰であろうと関係ないわ。ここでは一人の魔道士として、自分の力を磨くだけよ」
「これは絶対に目立たないわけがない」
星一は心の中でそう思う。
フランは星一を鋭い目で見つめる。
「私は、高みを目指す。足を引っ張ることは許さないわ。覚悟しておきなさい」
「本当に難しい子かもしれない」
星一は心の中で呟き、引きつった表情で返す。
「お、お手柔らかに.…..」
フランは星一の言葉を聞き、部屋を退室した。
「お、おい。星一大丈夫か?」
星一はベットに座り、頭を抱えながら下を向いている。自分の運の良さなのか、悪さなのか、ランダム抽選とは思えない結果に気をもむ。
だが、すぐに顔を上げ、こう話す。
「決まったことは仕方ない! この状況を楽しむしかないか」
星一の覚悟は決まっていた。
「そうだね! 目立ったからといっても、星一なら上手く立ち回るでしょ」
星一ならできる。と言う眼差しを向けながらフキは言う。
「随分人ごとだなぁ〜」
ベッドに座りながら二人は笑い合った。
こうして、星一の目立たない計画は、開始早々に音を立てて崩れ去ったのだった。




