8話:学園の伝統
点呼前の早朝、寮を出ですぐ、芝生が生い茂り、豪邸にある広い庭のような広場で二人は早朝訓練を始める。
「さっ! 始めるか!」
星一の元気な声が広場に響く。
「お願いします。先生!」
フキもそれに答えるように返事をする。
「早速だが、魔力のコントロールについてだ」
星一は淡々と語り出す。
「編入試験でも見たが、フキが魔法を使う時は、体全体に魔力を集中させて使ってるのがわかった」
フキも真剣な眼差しで星一の話を聞く。
「だから、ただ風を放出したりみたいな単調な攻撃が多い」
「確かに、攻撃の意識はしたことがなかったな...」
フキは今までの戦闘を思い返している。
「魔力を自在にコントロールできるようになったら、風の刃を放ったり、風で形成した剣を出すこともできるようになると思う」
「そんなことができるのか!?」
フキはそんなことができる魔道士を見たことがないため、驚いた声で話す。
「できるできる」
と軽い口調で言うがこんなものは初歩の初歩だ。
「具体的にはどんな修行をするんだ」
魔力のコントロールついての鍛錬はわかったが、どのような修行をするのかフキは、想像もつかなかった。
「やることは二つある。まずは一日中魔力を継続して放出し続けるところから始めよう」
これは、魔力を身近に感じ続けることで、感覚が研ぎ澄まされ、遠くの魔力も感知できるようになるらしい。
「もう一つは、体中の魔力を部分的に集中させることだ」
習慣的に魔力を集める感覚を掴んでいれば、戦闘の際、能動的に応用した魔法が使えるようになる。
「これができるようになれば、攻撃と防御の幅が格段に上がるんだ」
フキはあまりピンときていなかった。
「どうやって魔力を部分的に集中させるんだ?」
「例えば、右手に魔力を集中させたいなら、右手に力を入れる要領で魔力を練る感じだな」
わかりやすい説明にフキは納得している。
「魔力のコントロールについてはこんな感じだ」
星一は言葉を切り、説明を終えた。
「俺にできるかな?」
フキは不安そうな声で言う。
「大丈夫だよ。魔力のコントロールは、戦闘の基礎みたいなもんで、魔術師の中でもできなかったやつはいない。大事なのは、継続することだ。それを怠らなければ必ず習得できる」
星一は、昔のことを思い出しながら、フキを言葉で鼓舞する。
「....うん、俺頑張るよ!!」
迷いの晴れた表情とやる気のある声で言う。
「じゃあ、今日はあと、俺と組み手をして終わろう」
「わかった!」
フキはこの組み手が体術の訓練ということを悟る。
「もちろんさっき言った魔力の使い方を意識するんだぞ!」
フキは、少し汗を浮かべ、ニヤッと微笑み星一に挑むのだった。
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二人は点呼を終え、教室に向かう。気になる組み手の結果は、フキの完敗であった。星一との力量差を知り、自分の力の無さを痛感する。
「あんまり落ち込むなよ〜」
星一はフキの背中をビシッと叩き、声をかける。
「落ち込んではいないよ...…ただ差を痛感しただけだよ.…..」
「俺から言わせれば、伸び代の塊だよ。これから鍛錬を継続していけば、俺なんかすぐに追い越すよ」
星一はフキの可能性を信じていた。
教室に着き、二人は席に着く。
そこで教室にいる生徒達がやけにそわそわしていることに気づく。
「なんかあったのか?」
「いや、特に何ってなかったと思うけど...」
フキにもなんのことかさっぱりわからなかった。
二人は事情知らず、ミナに声をかけることにした。
「あれ、二人は知らないの?もうすぐ二年生は一年生とコンビを組む期間に入るの。これは学園の伝統で、上級生と下級生がペアを組んで互いに成長することが目的なの」
なんで知らないのか、ミナは少し困惑したが、編入してままない2人に丁寧に教えてくれた。
「コンビを組む?」
編入したばかりの二人はそんな伝統のことを知る由もなかった。
「うん。例えば、模擬戦や課題はコンビ単位で行われることになるし、お互いの魔法の長所を活かす訓練にもなるんだよ。今日の夕刻には、一年生が二年生の部屋に来て初顔合わせするってアナウンスがあるはず」
「コンビの相手はどうやって決まるの?」
フキはどうやって相手が決まるのか、疑問に思った。
「それは抽選で決まるって話だよ」
完全にランダムってわけか。星一は内心眉をひそめる。
「ありがと! 色々わかったよ!」
二人はミナに感謝し、席に戻る。
「.…..後輩か。できれば鍛えて俺たちに協力してくれりゃありがたいけど、目立つやつと組むのはまずいよな」
星一は自分の正体がバレる心配をしている。
「抽選って言ってたから、そうそう目立つ人と当たることはないと思うよ」
フキは軽口で言う。
「けど、すごくわくわくするよ!誰と組むことになるんだろうな!」
「お前.…..無邪気すぎだろ..….」
星一はフキの能天気さを羨ましく思う。
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夕刻、寮中に軽やかな鐘の音が響き渡る。
「二年生は部屋に戻り、一年生を迎える準備をしてください」
――アナウンスが鳴る。
フキはワクワクしながらベットに腰を下ろす。星一は逆にソワソワしている。
どうか目立たない奴が来ますように。
星一は、心の中で願う。
コンコンとノックの音が2回鳴り、扉が開く。
「お待たせ!!」
弾むような足取りで、黒髪の少女が笑顔で現れた。
(黒髪清楚)
星一は、内心で呟いた。
「マヤセ・ヴォルスーンです! 今日からよろしくお願いします!」




