7話:英雄の孫
ヘレンが去った後でもただならぬ緊張感が漂っていた。そんな中、控えめに近づいてくる少女がいた。
水色の髪を肩で切りそろえた、穏やかな雰囲気の少女である。
「あの...…フキくん、それに星一くん......少しいいかな?」
星一が手を振り、軽口を叩く。
「もちろん。聞きたいこともあるしね」
「私は、ミナ・アガツキ。私も生徒会のメンバーなの..….」
ミナは自己紹介をし、二人の前の席に腰を下ろし、声を潜める。
「会長の誘いを断るなんて、勇気があるね」
「え? そんなにすごいことなのか?」
フキは戸惑いながらに言う。
「うん。普通は絶対に断れないよ.....。私も、断れなくて..….生徒会に入ったの」
フキはミナの言葉にハッとする。
「じゃあ無理やりとかじゃなくて、断りずらい雰囲気なんだな.…..」
ミナは小さく頷きながら言う。
「ヘレン会長は、この学園で一番強いし、教師達からも信頼されているから.....」
「会長はいろんな奴を勧誘しているのか?」
星一は軽い口調で問う。
「魔法が使えて、将来有望な生徒には積極的に声をかけてるみたいだよ」
「生徒会に有望な生徒を集めて何する気だろうな」
星一は、気になったことを言葉にしながら考えている。
ミナは周囲を見回し、さらに声を落とす。
「会長が、有望な人を集めているのは、卒業後に理由があるの」
「卒業後...…か。続けてくれる?」
星一はそう言い、フキも真剣な眼差しで話を聞く。
「王国には魔法師団という国直属の部隊があって、ヘレン会長も所属してる。将来、自分の部隊を持ち、地位を確立するのが目的らしい」
「じゃあ今の生徒会メンバーは、その部隊の未来の仲間ってことか」
星一は、自分でそう結論づけて言う。
「おそらくね...…だから会長は、フキ君のような優秀な魔道士をスカウトしているの」
ミナは少し目を伏せて言う。
「...…でも、私は生徒会に入りたかったわけじゃない。断る勇気がなくて流されるままに、会長の下で働いているだけ」
フキは心配そうに見つめる。
「つまり会長は、学園を自分の兵舎みたいに使ってるわけだ」
「そんな言い方....。でも間違ってはないか。」
ミナは少し驚きながら答える。
「もしかしたら、誘いを断ったフキ君に何か仕掛けてくるかもしれないから、注意した方がいいよ」
ミナはフキの身を案じて言葉をかける。
「大丈夫だよ! 例え会長が邪魔をしてきたとしても、俺は星一と一緒に行くって決めてるから!」
ミナは少し驚きつつも、安心したように微笑む。
「..….フキ君、強いね。羨ましいよ。」
ヘレンの真意を聞き終えた後、星一が口を開く。
「さっきヘレンが言ってたよな、断ったのは二人目って。じゃあ一人目は誰なんだ?」
ミナの表情が一瞬強張り、視線を周囲に走らせる。彼女は声を落とし、真剣な口調で答える。
「最初に勧誘を断ったのは、マヤセさんって人だよ。今期の入学試験を主席で合格した人で天才って呼ばれてる」
「でもマヤセさんが注目されてる一番の理由は実力だけじゃないの。彼女はあの英雄ナギの孫なの」
フキはその名前を聞いた途端、驚いて声を上げる。
「え!? 英雄ナギって、あの英雄ナギか!? 100年前に王国を救ったっていう」
ミナは小さく頷き、王国で語り継がれるナギの伝説を話す。
「そう、ナギはたった一人で王国を救った伝説の魔道士。噂ではエレメントマスターと何か関わりがあったんじゃないかって言われているね」
「そんな人の孫が、この学園に!」
フキは憧れを込めた声で言う。おそらくこの国で一番有名な人物と言えば口を揃えてナギと答えるだろう。数々の歴史の中でも一番近しい伝説とも言えるが、そんな人物の孫がこの学園にいると聞いて、フキは興奮する
「そのマヤセって子、いずれ会ってみたいな」
星一は少し含み笑いをしながら呟く。
「私からの話は、こんな感じ。ごめんね!時間取っちゃって」
ミナは手を合わせて少し礼をしながら言う。
「いや、色々教えてくれてありがとう!助かったよ」
フキはミナに感謝する。
「学園のことでわからないことがあったら気軽に聞いてね!」
ミナはそう言って自分の席に戻って行った。
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編入1日目が終わり、フキは寮のベッドに腰掛けており、星一はシャワーを浴び終わり、タオルで髪を拭きながら椅子を窓際に置いて座る。
星一は月明かりを見ながら呟く。
「今日聞いたマヤセって子は仲間候補だな」
「え!?いきなりそんな...ナギの孫だろ?そんなすごいやつが俺たちなんかな協力してくれるかな?」
星一は薄く笑い、冷静に言い返す。
「もし、かなりの実力者で俺たちに協力してくれるってなったら、俺たちがこれから挑む敵に必要不可欠になるはずだ」
フキは首を傾げるが、星一の真剣さに何も言えなくなる。
「それともう一つ話がある」
「なんだよ、改まって」
「フキ、君は魔力の扱いが雑すぎる」
フキは思わずムッとする。
「なっ! 俺だって三ヶ月、境の山脈で生き残ったんだぞ!」
「それは確かにすごいよ。でも--俺たちがこれから戦う怪物たちは、その経験じゃまだ足りない」
フキの表情が真剣さを帯びる。
「だから、俺が教える。魔力のコントロールと戦闘で生きるための体術を」
「星一が.…..俺に?」
星一は頷く。
「素質はある。でも、魔力を流すタイミングや量がバラバラで、無駄が多すぎる。それじゃあいくら魔法が強くても意味がない」
フキは悔しそうに唇を噛むが、星一の目を見て素直に答える。
「...わかった。頼む星一、俺はもっと強くなりたい!」
星一は満足そうに微笑む。
「よし! じゃあ明日から早朝訓練開始だ!」




