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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第二部 魔術編 1章:交錯乱世

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33話:帰還者の鉄拳

 突如現れた謎の男は、懐かしげな表情で拠点を見上げていた。


 「変わってないな……」


 ダクは伝えられていた以外の人物の登場よりも、自分にダメージを与えたこの男に興味を持ち始める。


 「お前――名前はなんだ?」


 「君はシカバネだろ?いきなり会うなんてついてないよまったく……」


 先ほど星一たちと別れたばかりで、戦闘になるとは一ミリも思っていなかった。


 「あー名前だっけ?俺は春山響はるやまひびき。別に覚えなくていいよ」


 と響は掌を見せて名乗るが、跪いて動けずにいる作見を眺めていた。


 「あれはもうダメだ。壊れる寸前までいってる。気にしなくていいぜ」


 響きが作見を気にしているのを察したダクは、そんなことより響と戦いたくてうずうずしている。


 ダクの言葉を無視して響は作見の方へ歩いていった。


 「おい――」


 「戦ってあげるから、ちょっと待て」


 響は作見の方に手を置いて、耳元で呟く。


 「今すぐに彼の腕を止血してここから離れるんだ。その間奴の相手は俺がする」


 作見からすれば、全く知らない赤の他人――だけどその声は優しさと闘志を感じた。


 返事をせず、たじろいでいる作見は走って司の元へ急ぎ、その走りからぎこちさを感じた。


 「待たせたね」


 「放っておけば良かったものを」


 「それはできない」


 名前も知らない後輩だが、この家を守ろうとしてくれた人は誰であろうと仲間だ。響はそんな彼を見捨てやしない。


 「そんじゃあ、始めるか」


 ダクは拳を突き出して構えを取る。


 「丁寧にどうも」


 響も同様に拳を突き出して構える。


 2人は同時に踏み込んで姿を消した。凄まじい突風が巻き起こり、両者の拳が互いの顔面を打ち抜いていた。


 一瞬の硬直の末――2人は笑みを浮かべる。拳を離してダクは左腕でパンチを放つが、片手で軽々しく止められる。


 「――クッ、重すぎだろ」


 いとも簡単に拳を受け止めたように見えるが、ダクの拳の重さに内心焦りを見せる。


 響は受け止めた腕を引っ張って、寄せたダクの胴体に膝蹴りを入れた。


 「ウッッ」


 口から血を吐いたダクは後ろに吹っ飛ぶが、宙で一回転した後、木に足の裏をつけて着地する。


 「手応えをあまり感じないな……」


 響はこれまでの攻防で感じた違和感がダクの魔術によるものだということを察する。


 「奴の魔術は俺の魔術を阻害している」


 ダクは口から漏れた血を手で拭いて、響を見つめた。


 ダクの魔術――防御はありとあらゆる攻撃を無効化する。打撃、斬撃、射撃、攻撃と呼ばれるものは一切通用しない。作見や司の打撃が通用しなかったのはこれだ。


 だが、響の打撃はダクにダメージを負わせることができた。ありとあらゆる攻撃と言っても、それは魔力を消費した場合のみ、絶対防御を発動できる。


 響の魔術――操作は触れた対象の魔力を操作することができる。響の打撃が通用したのは、ダクに触れた瞬間、魔術の発動に必要な魔力を極限まで小さくしたからである。


 だからといって、ダクの魔術が発動しなかったわけではない。響の操作は100にすることができても0にする事はできない。つまり、ダクの消費魔力を1にした結果、絶対防御は100分の1の効力しか発揮することができない。


 だが、その効力の絶対防御でも響の打撃に決定打はない。ただ普通に殴られたくらいのダメージだ。それに加えて、ダクの拳は絶対防御の効力も上乗せされる。


 響はダクが自強化型の魔術師というのは見抜いている。しかし、響の魔術はまったく通用していない。


 「これは……思ったよりやばいな」


 「こないのか? ならこっちからいくぜ」


 右手に魔力を込めたダクは、左足を前に出して溜めを作る。大きく踏み出したダクはとてつもないスピードで距離を詰め、右ストレートを振りかざす。


 「速いっ! これは――避けられない」


 腕をクロスにして拳を受け止めた響は身体中が揺れるような感覚に襲われる。


 拳が1ミリでも触れた時にダクの魔力を操作するため、ガードよりも魔術に集中力を持っていかれた響はダクの攻撃によりその場で片膝をつく。


 「おいおい、もう終わりか?」


 響に自分の影が覆い被さるようにダクは見下していた。

 

 (これほどまでとは……)

 

 「けどね……」


 低い位置から瞬時に足を伸ばして薙ぎ払うようにダクの足をかけて宙に浮かせた。


 響の魔術である操作は触れた対象の魔力を操るものだがそれは――自分も含まれる。


 右拳に全魔力を集中させる。そしてその拳に込めた魔力が――赤くなる。


 極式に至る時に見られる赤い魔力――その出力は普段の魔力の倍以上。これは、脳のリミッターが外れた際に起こる現象のはずだ。


 しかし、響は自分の魔力を操作することで、部分的に赤い魔力を行使することができる。


 この一撃で必ず落とす。


 全霊をかけた響の赤い拳が無防備なダクの胴体を撃ち抜く。


 「うるぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 まるで火花が散ったような光景と同時にダクの胴体から何かが割れるような音がした。


 響はどこに吹っ飛んで行ったかわからないくらい、ダクの姿はどこにも見当たらない。


 「はぁ、はぁ、」


 四つん這いになりながら息を切らす。余力なんてものはもうない。この一撃で倒れないのなら――響は嫌な想像をする。


 薙ぎ倒された木々の向こうから重い足跡が響いてくる。


 一歩、一歩、一歩とその音が近くなるにつれ、鼓動が早くなり、全身で脈を打ってるみたいだ。


 そして――その足音が止まる。


 顔を上げたくない。顔を上げれば――どうにかなってしまいそうだ。しかし、これは命のやり取り、自分からそれを放棄するという事は死に値する。


 恐る恐る、ゆっくりと目の前に視線を向ける。徐々に前方が開け、靴から足、胴体、左右の腕、首、そして――口から血を垂らすその顔。


 その情報が与えられる。打撃を撃ち込んだ胴体には拳ほどの破れた服の奥には青黒く腫れた跡がある。


 「いい一撃だった。だが――決定打にはならなかったな」


 傷跡を見ればわかるが、骨が折れている。ここまでのダメージを負ったのは恐らく初めてだろう。


 「化け物が……」


 カッコよく登場したってのに、結局勝つ事はできないのかよ。久しぶりに同期や先輩達に会えると思ったのにここで終わりか、と響の表情から闘志が消える。


 圧倒的な力の差が響の心をへし折った。


 「かなり楽しめた。今殺すには惜しいが――ナイルに詰められるのは腹が立つ。じゃあな」


 と拳を握った瞬間――とある3人が帰還する。


 拠点の目の前に突如現れたのは、会議を終えた大輝、永遠、そして、アッシーの迅だった。


 到着した瞬間、ダクの魔力にすぐ目を向けた。


 「大輝さん、なんですかあいつ」


 永遠はすぐに臨戦体勢に入る。


 「とてつもない魔力だ……」


 ポケットに手を突っ込んで迅は眺める。


 永遠の質問に答えない大輝は、ダクよりも目の前にいる男に対して、目を見開いて驚いている様子だ。


 「永遠、俺たちで片付けるぞ」


 「ああ」


 ダクは握った拳を解き、その名前に眉をひそめる。


 「永遠だと……お前があの、流合永遠か?」


 「だったら?」


 確認も取ったダクは背を向けて、下山しようとする。


 「お、おい! 逃げるのか!?」


 迅は、動揺した様子で吠えた。


 「ああ、撤退だ。今はEXTRAとやり合う気はねぇ」


 タバノから知らされていた永遠の魔術はダクの魔術と相性が悪い。今ここで戦うのは得策ではなかった。


 「逃すとでも――」


 「迅! 司の魔力が消えかかってる。負傷者の手当てを優先しよう」


 と怒りに身を任せようとしていた迅を抑制した永遠は司を探しに行った。


 ダクと戦っていた響は精神的に参ってはいるが、外傷はない。永遠は司を優先する。


 大輝は、呆然としながら響に近づく。


 「お、お前……もしかして?」


 「ははっ……変わってないな、大輝」

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