29話:東の拠点
東京の大都会には高い建物が数えきれないほど並んでいる。そんな建物の中にある超高層ビルの前に海里たちは現れる。
「それじゃあ俺はこれで」
ここまで連れてきてくれた迅は役目を終えてすぐに瞬間移動で帰ってしまった。
「帰んの早すぎだろ」
「やっぱ忙しいんでしょうね」
声をかける暇もなく消えてしまった迅に対して一言感想を述べ、2人はビルの中へ入る。
中に入ると、一般の会社員の方が数人視界に入る。このビルは魔術師だけが使用しているわけではなく、一般の方が仕事のオフィスとして使っているのがほとんどだ。
奥は進み、エレベーターが二つ並びで左右の壁に設置された空間に出る。早く来そうだった右側のエレベーターを待っている社会人たちの列に2人は並んだ。
「何階でしたっけ?」
「5階だ。てか、海里はここに来るの初めてか?」
「はい。去年は京都での会議だったので、こっちに来るのは初めてですね」
六要の会議は年に1回行われ、京都と東京の交互に場所が変わり、海里が六要になってこれが2回目の会議である。
海里は建物の差に「これが都会なのか」と京都と東京の拠点の豪華さの違いに若干腹を立てて、怪訝そうな表情でエレベーターが到着するのを待っている。
そんな海里の表情で大輝はきっと、京都と東京の拠点の差について思っているんだろうなと感じ取っていた。それもそのはずだ。大輝と初めに来た時には同じことを思っていた。
だが、その差にも理由がある。京都には魔術師たちが生活できる最低限の環境しか用意されていないのに対して、東京の拠点には小規模だが技術部が併設されている。
というかほとんど技術部が拠点の割合を占めているのだ。
とまあ、2人は西と東の拠点の差について考え込んでいる間にエレベーターが到着する。社会人たちに混じって、大輝は5階のボタンを押した。
他の人たちの目的地がほぼ10階以上であったことから、一度も止まらずに5階に止まる。
扉が開くとそこには、1人の女性が礼儀正しく立っていた。お出迎えなのかはわからないが、2人はすぐにエレベーターを降り、扉が早く閉まるように、降りる際に『閉』のボタンを押して出てきた。
その女性はお腹の前で綺麗に手を組み、深くお辞儀をして、落としそうになったメガネをキリッと掛け直す。
「お待ちしておりました。夏川大輝様、鳴瀬海里様」
短く、紫陽花のように綺麗な青髪が特徴的で一般的なOLさんの服装で女性はお出迎えをしてくれた。
「私は魔術技術部マネージャーの北川まとと申します。六要の3人がお待ちですので、私がご案内します」
「お願いします」
「どうも」
と2人は北川さんが歩き始めた後をついて行く。
一見オフィスのようで中は自由に改造された室内を予想していた海里だったが、中は普通にオフィスでいくつもの部屋があり、それがガラス張りで廊下から見えるようになっている部屋が多い。
もう見えてきたが、廊下の真ん中の地点にある部屋には外から見えるような作りにはなっていない。扉も他の部屋が1つなのに対して、結婚式場の扉みたいに豪華に見える。
「こちらでございます。中にもうそろわれていますので、後ほどお茶を用意いたします」
「ありがとうございます」
「………」
北川さんは中に入りやすいように扉を開けてくれた。大輝は堂々と中に入っていき、海里は「お茶とか出たっけ?」と去年の会議の様子と比べて待遇が良いことに戸惑いながら扉を潜る。
「お疲れー」
「お疲れ様ー」
「お疲れ様です」
中は宴会ができそうなくらい広い部屋にふかふかで赤い絨毯が目立っている。そんな部屋の中心に縦長の白い机を何個も並べて大きな一つの机のようにして東の六要3人は横並びで座っていた。
「よう、元気か?」
初めに声をかけたのは西早阿月だ。茶色いグラサンのようなものを頭にかけて大輝と海里の肩を持つ。
「お久しぶりです阿月さん。俺は元気ですよ!」
と右腕を頭上付近に上げて、力こぶを見つける。
「海里も元気か!?」
「ぼちぼちです」
「ははあ〜そっか!」
阿月は2人と挨拶を交わし、対面になるように左側の椅子に奥から座るよう手で刺して誘導した。
2人は言われたまま椅子に座り、目の前にいた2人にも挨拶する。
「海里久しぶり〜あと大輝も」
大輝が奥に座り、2個目の椅子に座った海里の前に座っている西早陽奈子は机に肘をついて、嬉しいのかニヤニヤしながら手を振った。
「どうも」
「お久しぶりです」
2人は小さく一礼する。
真ん中に座る陽奈子の左側から鋭い視線を感じ、海里は目を向けるが、すぐに視線をずらされた。
「千咲も久しぶりだな!」
海里に視線を向けていた千咲は目の前に座る大輝に話しかけられ、丁寧に挨拶を交わす。
「はい。ご無沙汰してます。――海里は久しぶりでもない」
にっこりとした笑顔で大輝に返した千咲はその後横目で海里に挨拶する。
「そーダネ」
無愛想な挨拶だなと思うかもしれないが、これが同年代に対する千咲流の挨拶なのだ。それは海里も理解しており、だからあえてそっけなさそうな態度で示した。
しかし、決して仲が悪いわけではない。むしろ千咲と海里は仲が良い方だ。こう見えても海里は千咲から剣を習っていたこともある。
連日会っていたり、年を跨ぐほどあっていない場合は、普通に挨拶できるが、今回のように数ヶ月前にも会った、みたいな時はいじりを含んだように開口する。
要は、恥ずかしがり屋なのだ。
部屋にいる5人が一通り挨拶を終えたところで、豪華そうなドアが開く。
「あ、もう揃いました?」
フード付きの白いパーカーを着た癖のある髪の少年がトイレから帰ってきた。
「永遠?」
なんでここにいるのか、とでも言いたげな表情で海里は永遠を見上げる。
「やあ、海里――久しぶりでもないか」
と永遠は半笑いで千咲方を見ながらいじる。
「おまっ!」
先ほど千咲が海里にした挨拶を数分前に永遠にもやっていたのだ。それを真似した永遠の挨拶に千咲は立ち上がって机をドンと叩いた。
そんな若者のやり取りを微笑ましく眺めている年長者たちは面白くてニヤニヤが止まらない。
「それより永遠はどうしてここに?」
「永遠が来なきゃ誰が本部に報告するんだよ?」
腕を組んで座り直した千咲が説明してくれた。
「そーゆーこと」
海里の隣の席が一つ空いていたのはそうゆうことだ。本部に所属する永遠はいわばこの会議においての書記のようなものだ。実際に永遠が出席し、その内容を本部に伝える。それが今回の永遠の役割だ。
海里が初めて会議に参加した時は、今回の永遠のような書記をする人はいなかったため、前回が例外だったのだと思うようにした。
そんなこんなで全員が揃い、会議を始めようとした矢先に扉が開き、北川さんがお茶を持ってきてくれた。
茶色い台車のような物を引いて登場し、その上に銀色のおぼんを乗せて鳥の絵が入ったカップを6つ用意してある。
「どうぞ」
1人ずつ丁寧にカップとスティックの砂糖を一つ置いて回る。
全員に行き渡り、お茶の湯気を臭いだりする者もいた。だが、海里は目を細くしてお茶と睨めっこしていた。
「紅茶、だと……」
お茶と言われ緑茶やほうじ茶を想像していた海里はまさか、自分の苦手な紅茶が前に置かれ少し嫌そうにしつつも、せっかく淹れてくれたのだから飲むしかないと腹を括る。
「おかわりはご遠慮なくお申し付けください」
北川さんは部屋の端っこに椅子を置いて待機する。
「うし! じゃあ会議を始めようか!」
阿月がその場を仕切り、これから六要会議が始まる。




