27話:影の思惑
「まず、みんなに質問だ。今俺たち全戦力と魔術師ども、本気でやり合ったらどうなると思う?」
我が強い面々が揃い、面白い回答が飛び交うかと予想していたナイルだったが、全員が顔を顰めながら黙り込む。
このまま待っていても時間がかかるだけだった。ナイルは、右側から1人ずつ名指しで考えを聞く。
「ムウはどう思う?」
そう振られたムウは目を閉じて頭を人差し指で捻りながら「ん〜〜」と悩んでいる。
「難しいかい?」
「あくまで私の考えだよ。今の戦力じゃ勝てないと思う」
ムウの回答にナイルは口角だけを軽く上げた。そして目線を左にずらし、「次はタバノだ」と言いたげな目で見る。
「俺もムウと同じだよ。戦力の差がかなり開いている」
「なるほどね」
ナイルは笑いを含んだように納得する。そしてタバノの左に座るデミアに視線を向ける。
「私も同じ。今の戦力じゃ、六要とやり合うのが精一杯だと思うわ」
「うんうん」とナイルは頷いて、次に座るヒョウへ視線を向けて、意見を伺う。
「俺はねー正直やってみないとわからないんじゃないかなーって思う。まぁでも脳内でシュミレーションしたけど、勝てないね」
「確かに、やってみないとわからない。その考えは大事だよ」
とヒョウを人差し指で刺してナイルは飄々と言った。そして、ずっと腰掛けていたレネも着席して自分の番かと口を開く。
「勝てない」
レネの回答にふっとナイルは微笑む。そして隣に座るボイルの回答をナイルは楽しみにしていた。
「目の前の敵を倒していけば勝つ。それだけだ」
ボイルはさも当たり前かのように吐き捨てる。
「これだから脳筋は困るよ〜」
と胸の内でボイルらしいなと思い、わざとらしい笑みで頷く。
そして、最後――ダクの番だ。
「ダク。君はどう思う?」
中央に佇むダクをまっすぐ見つめるナイルに、ダクは数秒経ってから口を開く。
「お前次第だろ」
ダクは鋭い目でナイルを見つめ、ナイルもまたダクを鋭い目で見つめる。
ダクの考えを聞き、これで全員の回答が揃った。ナイルは少し目を閉じてから柔らかい目に戻して話を再開する。
「全員思っていることはほぼ同じだったね。じゃあ俺の意見を言おう。こりゃあ、勝てないね」
ナイルは一切の迷いのない笑顔で言い切った。
その言葉に驚くものはいなかった。皆が「そりゃそうだろ」という面持ちで話の続きを待つ。
「そんじゃあ、具体的に勝てないと思った理由をムウとタバノに聞こう」
ナイルがここでこの2人を指名した理由は、2人の肉体に関係する。ムウとタバノの肉体は元々魔術師だった者だ。特にタバノの肉体は六要だった魔術師だ。
「じゃあ私から」とムウは手を挙げて話しを始める。
「一言で言うと数だね。今私たちの中で六要と張り合えるのは、今いる8人の中でも数人だと思う。確実に倒すってなると、六要1人に対してこっちは2人で戦う必要がある」
今いる5人の六要に対して、2人を割いてしまうと他の戦力に潰される可能性がある。
その意見を聞いたタバノも自分から手を挙げて補足する。
「六要相手に2人を割くのは俺も賛成だ。だけど、ある1人は2人割いたとしても倒せる保証がない。相性もあると思うけどね」
「――高切千咲か」
ナイルはボソッと呟く。
その名前を口にしたナイルの声を聞いたタバノやムウ、一部のメンバーは、額に汗を浮かべる。
実際に千咲の実力を知るタバノは自分だけは相手をしたくないとナイルから目を逸らす。
「俺が今感じているのは――若い魔術師が順調に育ってきていることだ。2年前時点より、はるかに層が厚くなっている。特に高切千咲を筆頭に流合永遠、道枝迅、そして鳴瀬海里」
とナイルはホワイトボードに重要人物の名前を書き上げていく。名前の文字を見ただけで勝てる気が失せるほどのメンバーに圧倒されるが、ボイル、レネ、ダクは表情一つ変えない。
「さっきタバノも言ってたけど――相性によって1対1で十分勝てると俺は踏んでる」
ナイルの考えでは、六要と今ここにいるメンバー全員との実力差はほとんどないと思っている。だから誰に誰をぶつけるか――タバノやムウの記憶には六要どころか様々な魔術師がどのような魔術を使うかがわかる。対して、魔術師側はこちら側の魔術や魔法を知る由もない。これは十分なアドバンテージだ。
六要に関しては皆理解した。ナイルのその考えでも構わない。だが、それを上回る問題がある。それについてタバノは、
「ナイル、EXTRAはどうするつもりだい?」
と「まさか忘れてないよね?」とでも言いたげな表情で言った。
ナイルはその言葉に「ふんっ」と鼻で笑う。
「忘れてないよ。俺たちが勝つためには必ず戦う奴らだ。だけど、あんな奴らと正面から戦っていいのはダクだけだ」
ナイルの言葉にダクは眉をぴくっと動かす。
改めて戦力差を痛感した一同は、現状どうしようもないことだけはわかった。
「ここまで言ったから俺たちと相手さんの戦力の差はだいだいわかったよね? けどね、戦力と戦略はまた別だ」
「手があるってこと?」
ムウは机に肘をついて食い気味に聞いた。
ナイルには対魔術師用に緻密に練られた勝ち筋をすでに導き出している。だが、まだまだ準備の段階だ。
「まず、これから俺たちがすることは六要を減らす。そこでだ――」
ナイルは右足で軽く地面を叩くと壇上の前に影が水溜まりのように集まる。そして、その影から1人の青年が現れる。
身なりはサラリーマンのようなスーツ姿の冴えない中年男性だ。
全員が「誰?」という面持ちでその男性に注目する。
「こいつは、この前俺が京都に偵察に行った時に見つけた。なかなか見所がありそうな奴だったから適当に体を与えたんだ」
とナイルは軽く説明して、自分の話に戻る。
「俺が考えるビジョンにこいつは大きな役割を担ってる。単刀直入に言えば、こいつには今いる六要の肉体を奪ってもらう」
「――ッッ!?」
ヒョウやデミア、タバノたちに加えて、今までうんともすんとも言わなかったレネやボイルまでもが、その提案に驚愕の表情を見せる。
「い、いや! 簡単に言ってるけど、そう上手くいくとは思えない!」
とタバノは立ち上がって興奮しながら無理な話だとナイルの考えを否定する。
今のこの男性本人の強さは恐らく一般魔術師程度、そんな奴に六要の肉体を奪取できるわけがない。
誰しもがそう思っている中、ナイルはニヤッと笑う。
「お前ならわかるはずだ。今の六要のあるメンバーにとてつもない弱点があることを」
ナイルはタバノの焦りと怒りの混ざった表情をぽかんとさせる発言をする。
「――ッッ!? そういうことか!? もしそれが成功すれば六要の戦略は大幅に減少する」
タバノの閃きはムウにも伝わり、この2人だけがナイルの考えを理解する。
「こいつにはウェンと名付けた。もしウェンが肉体を奪うことができたら、こちらに六要の戦力がそのまま加わることになる。だからこいつのサポートを、レネ。お前に任せたい」
ナイルは壇上を降りて、ウェンの肩を持ってレネに視線を向ける。
「……俺は、なんでもいい」
「そっか、仲良くやれよ」
レネの確認も取れ、ナイルは再び壇上に上がる。
「そしてもう一つやることがある。タバノ、六要のメンバーが一堂に会する日はいつだ?」
「……1週間後の東京だね」
タバノは今記憶の情報を取得して計算した結果六要会議は1週間後に開かれることを導き出した。
「なるほど……っていうことは、京都からは鳴瀬海里と夏川大輝が出払うということだ」
「ってことは……」
「まさか……!」
タイミングを合わせたようにムウとタバノは察して言葉が思わず出てしまう。
「その時に手薄になった京都を叩く。それを――ダク、君に頼みたい」
「俺かよ」
これから若い世代が育つのはナイル的には好ましくない。2年前の鳴瀬海里のように急激に頭角を現す者が出て来てもおかしくない。特にナイルは六要以外で——荒石司、柏木作見には注目している。その2人を早いうちに潰しておきたかったのだ。
「頼まれてくれるかい?」
「お前が必要ってんならやる」
若干不貞腐れていそうなダクは嫌々承知する。ナイルは下を向いて少し笑い。計画が進んでいく爽快さが楽しかった。
「ウェンの肉体奪取、京都の破壊、この二つが達成された時――俺たちから大々的に仕掛けるぞ。決戦は1年後の7月7日。それまで各々の時間を過ごしてくれ」
ナイルは宣言した。明確に魔術師たちに勝ちに行く表明を。そして、その部屋から終礼のチャイムが鳴る。




