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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第二部 魔術編 1章:交錯乱世

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26話:集う影

 この白い部屋に入った時にレネは思った。声がやたらと篭ることを。恐らく、外に漏れないように声も自分たちから流れ出る魔力もこの部屋に入った人にしか感知することはできない。


 慎重な作りだ。この場所がバレることを心配しているのか、ナイルの緻密な考えは斜め上の発想だからレネにはわからない。


 「前に貸した結界――これに使ったのね?」

 デミアは前列の細長い長方形の机の真ん中に座って肘をつきながら言った。


 「その通り、おかげでいい部屋が作れた」

 ナイルも自分の膝に肘をつきながら気味が悪い笑みを浮かべる。


 「ふーん」

 と退屈そうにしながら、デミアの左側に座っているタバノは質問した。


 「一体何人呼んだんだい? ナイル」


 「ん? 何人って、全員さ」


 「ってことは10人揃ったことか!?」

 デミアの右側に座っているヒョウは身を乗り出して、興味津々の様子だった。


 「いいや――でもそろそろかな」


 ナイルは魂がこもっていなさそうな声で答え、タバノのちぎれた左手をチラチラと横目で見ながら気にしていて雑な返しをした。


 その視線に気づいたタバノは、


 「あぁこれかい? 高切千咲に遭遇してね、その時ぶった斬られた」

 と斬られた左腕を見せるように机に置いていた腕を横に振る。


 「へぇ〜その傷で済んだなら御の字だろ」


 「誰か治せる人はいないの?」


 「それなら……」


 とナイルはレネを見つめる。


 この中でレネの魔術を知っているのはナイルだけだ。レネの魔術を使えば斬られた手くらいなら治せるだろうと視線を向ける。


 「――俺?」

 椅子には座らず、白い机に腰掛けていたレネはナイルの視線で大体のことを察した。


 「レネの()()なら恐らく治癒できる」


 「はぁ〜」とため息をつきながら、レネはタバノの側まで重い足を動かす。


 「――腕出して」


 タバノは言われた通りに左腕をまっすぐ伸ばす。治す様子が気になるのか、レネの魔術が気になるのか、ヒョウとデミアは気にしていなさそうに座っているが、黒目を必死に傾けて見ていた。


 レネは下から撫でるようにタバノの腕に触れると、レネの掌から鎖が突如として出現する。


 その鎖はタバノの腕に巻き付ついてレネは、


 「魔治癒鎖まちいさ

 と鎖の名を呼んだ。


 すると鎖が優しい緑色に発光し、タバノの手が再生しているかのように生えてくる。その様子を見ていたナイルは笑みを浮かべ、ヒョウとデミアは驚いていたのか目を大きく開けている。


 手首、掌、指と段階を踏んで再生し、筋肉や神経も完全に修復した手が元に戻った。


 「――ッッありがとう!」

 タバノは落ち着いた声でお礼を言うが、表情はとても浮かれた様子で嬉しそうだった。


 「別にいいよ……」

 魔術を解除したレネはすぐに元いた机に帰って行った。


 レネが再び白い机に腰掛けたところで、ヒョウは知りたそうな声で聞いた。


 「あれが、レネの魔術か!?」


 「うん」


 「じゃあ――」

 とヒョウが色々の質問タイムが始まろうとしたところで、後方から重い足音が聞こえて来た。


 部屋に入って来たのは、図体のでかい大男だ。薄黄色い髪に、鍛え上げられた肉体――ただのトレーニングで身につけるには相当な時間が必要だろう。


 「やあ、待っていたよ。ボイル」


 「ナイル、呼びつけたってことはそれ相応の要件ってことだろうな?」


 「少なくとも俺はそう思っている」


 高圧的な態度のボイルの質問に「はん!」と下を向いて少し笑ったナイルは穏やかだった瞳を尖らせた目つきでボイルを見返す。


 「ならいい」

 ボイルは重そうな足音を鳴らしながら、レネの腰掛けていた机の真ん中に堂々と座り込んだ。


 さっきまでの和やかな空気が一変し、ボイルの登場により誰も言葉を発さなくなり、殺伐とした空気感が漂う。


 「あと2人来るから、それまで()()()()待っててくれ」

 

 「あ?」


 まるで聞き分けのない子供を扱うように言ったナイルに対してボイルは怒りを表したように身体中に炎を纏う。火に油とはこのことだ。


 「そんなに怒るなよ。子供か? それとも挑発も聞き流せないバカなのか?」


 「今から試してやろうか?」

 とボイルは立ち上がって言う。隣にいるレネは気にすることなく、興味のない表情のまま手を出すことはない。


 「――いいや。俺たちが戦っても意味ないだろ。俺たちはチームだ。仲良くやろうぜー」


 ナイルは膝の上に乗せていた肘を後ろにつき、あぐらをやめて足を伸ばす。


 「チッ、気色悪い男だ」

 一触即発の空気だったが、ボイルは怒りを鎮め、纏った炎を消して席に戻る。


 雰囲気が悪い。誰も話す気分になれず、あと2人を待ちながらこの空気に耐えなければならないのかとタバノはため息をこぼす。


 だが、そんな空気がさらに一変する。


 コッコッコッと後ろから高い足音が聞こえてくる。歩いてくるのは黒いヒールを履いた綺麗な女性だった。


 緑がかった短い黒髪に剣のようなピアスをつけている。白い上着にジーパンを履き、口元にあるホクロが特徴的で、優しい顔立ちをしている。


 「待たせちゃったかな? 諸君」


 付けていたメガネを頭にかけて、堂々と立ち振る舞う。


 「全然、みんなが早いだけさ」


 とナイルは一言挨拶程度に話し、最前列の椅子に座るよう指示した。


 「久しぶり? でもないか、元気だったかい?」


 「俺たちはいつでも元気さ!」


 「ムウこそ変わりなさそうだね」


 ムウはタバノの隣の机の右側に座って隣の机の連中に声をかける。ヒョウとタバノの間に座るデミアは「はあ〜」とさっきの殺伐とした空気が少し変わり、安心したように息を吐く。


 「私は元気さ。でも1人で人材探しするのは退屈だけどね。今日はリーダーにわがまま言っちゃおうかな〜」


 ムウは横向きに座って足を組みながら、横目で気にして欲しそうにナイルを見た。


 「考えておくよ」


 実際組ませてあげたいところだが、ボイルに協調性ってもんはないからなし。レネもフリーだが、組ませたい奴がいるから候補からは外れる。問題はこの3人だ。

 ヒョウかデミアをムウと組ませるのもありだが、好奇心のままに動くこいつらに絶対ムウは流される。だから面倒見のいいタバノに任せているが、とチーム分けを考えながら困った顔でナイルは返事した。


 そして、最後の足音が聞こえてくる。


 その足が部屋に踏み入れた瞬間――皆はとてつもない威圧感に襲われる。まるで喉元にナイフを突きつけられたような、そんな重さを感じる。


 ボイルですら冷や汗をかき、振り向くことができない。


 ナイルも目つきを変えてその人を見据える。


 「お前が最後だよ。ダク」


 「はっ、そうかよ」


 見た目は20代後半の青年だ。黒いツンツン頭が目立ち、ボイルほどではないが引き締まった体をしている。背も高く、そのタンクトップ姿から強者感が漂う。そして特徴的なのは、額に巻いている青いハチマキだ。


 「大きい声は出したくない。話が聞こえる程度の席に座ってくれ」


 そう言われたダクは最前列の真ん中に座るデミアの後ろの席に座り、机の上に足を置いて組む。

 

 「これだけのメンツを集めたってことは、命令が下ったってのか?」


 「命令は出ていない。けど、向こうもそろそろ退屈して来た頃と思ってる。だからそろそろアクションを起こそうかなってね」


 「頭に来るぜ。俺らをただの道具おもちゃとしか思ってやがらねえ」


 歯を鳴らしながらダクは拳を強く握る。


 「俺とダクの話はこの辺にしておこう」


 ナイル、ダク、レネ、ボイル、ムウ、タバノ、デミア、ヒョウ。今ここにシカバネの最大戦力がこの場に集まった。リーダであるナイルは顔を向けて1人ずつ目線を合わせる。


 そしてナイルは教壇から降りて、大きなホワイトボードの前に立ち、教壇に手を手を置く。


 「今日皆んなを集めた理由は今後の方針を知って欲しかったからだ」


 ナイルは来るべき魔術師たちとの決戦を思い描いていた。それがやっと形にできるまでシカバネ側の戦力は大きくなったと言っていい。


 それを確実にするためにはナイルの考えを共有し、皆に理解してもらう必要があった。


 「それでは、始めよう――俺たちカルマのこれからの話を!」

 

 ナイルは意気揚々とホワイトボードに手を打ちつけた。

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