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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第二部 魔術編 1章:交錯乱世

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25話:足し算

 6月も終わりが近づき、本格的に夏が始まろうとするこの頃、横浜にある一つの高層ビルに黒い影の同胞が集まろうとしていた。


 そこには、ただの高層ビルが建っている。だが、魔力を持たない一般人には見えない。ただの空き地のように気にもせず素通りしていくだろう。


 なら魔力を持つ魔術師ならどうか——ただの高層ビルにしか見えないだろう。故にナイルの()()は魔術師たちを誤魔化すことも容易だった。


 今後の方針や情報共有のために、ナイルはこのビルに精鋭たちを呼びつけた。


 「相変わらずでかいビルのくせに使うのは地下なんてもったいないよな〜」

 前まで来たタバノとヒョウは額に手をかざしながらビルを見上げている。


 「ただの廃ビルを装っているから、魔術師どもにバレないんでしょ」


 とデミアは2人を跳ね除けるように間を通り、凛とした佇まいでビルへ入っていく。


 「あ、ちょっと待ってよぉ〜番号しらないだろ〜?」

 灰色の前髪を上げてビシッと決まった格好でヒョウは駆け足でデミアを追いかける。その様子を見ていたタバノは「子供か?」とでもいいたげな表情でゆっくりと後を歩いていく。


 中はひっそりとした雰囲気で、受付のような場所もあれば長いソファも置いてあるが、人は誰もいない。


 3人は真っ直ぐ進んでエレベーターに乗る。最高20階のこのビルの唯一の移動方法はエレベーターで、エスカレーターの設置はない。


 だが、階数のボタンを押しても光はしない誰もこのビルを使っていないのだから、エレベーターが動くわけがない。


 「で? 結局どのボタンを押せば動くのよ?」


 丁寧に最初から空いていたエレベーターに乗った3人はただただ立ち尽くしていた。デミアは片っ端からボタンを押していくが動く気配はない。


 「いや〜何番だったっけ?」

 ヒョウは助けを求めて、タバノに顔を向けて少年な眼差しで見つめる。


 「え? ナイルと電話したのはヒョウだろ?ナイルはなんて言ってたの?」


 「え〜と確かぁー、足して49になる数字を押せって言ってたかな」


 このエレベーターはナイルが同胞にしか使用できないように、ある細工をした。1から20の数字の中で足し算をする。答えが49になる組み合わせがこのエレベーターの動く鍵になっている。


 「なら、計算しよう」


 タバノはむやみやたらに回数を押していく2人の前に出て、計算を始める。そして数十分が経った。


 「まだ終わんなーい?」


 「早くしなさいよ」 


 ヒョウとデミアはエレベーター内の隅で座りながら飽き始めていた。ヒョウは手持ちのあやとりで時間を潰し、デミアはツインテールに結んでいた青髪を解き、櫛で髪をとかしていた。


 タバノはそんな2人の態度にため息をこぼしながら「僕らは計算なんてしたことがない。でも肉体の記憶で学ぶのも癪に障るじゃん」と再び行先階ボタンと格闘する。


 「何その変なプライド」


 「これがタバノの色なんだよ。デミア」

 と言いながら、受肉を果たせば肉体の記憶は魂に全て流れ込む。遅かれ早かれ記憶を継承し、性格も肉体寄りになることを思っていた。


 タバノは2人の会話に怒りマークを浮かべながら黙々と作業をしながら反論する。


 「なら2人が記憶から学んでくれよ!」


 タバノはご立腹な様子で2人に促す。


 するとヒョウはニコッと笑いながら、


 「ははっ、俺たちはもうとっくに肉体の記憶を覗いてるさ! でも意味わからんかった!」


 「はぁ〜〜〜」

 頭を抱えながらタバノは首を横に振る。


 そして——長い時間が経とうとした頃、タバノは気が狂いかけていた。唸り声を上げながら、とにかく全てのボタンを何度も連打していた。


 「壊れちゃった?」


 「貧弱ね〜」


 と2人は言いがながらもこの状況が少し楽しく感じていた。そんな時――1人の少年がビルに入ってくる。


 少年は、茶色いパーカーに緑の短パンのポケットに手を入れながら、エレベーターの前に立って、「何してんの?」と困惑した様子で言った。


 「レネじゃん! レネも呼ばれたのか?」


 ヒョウは嬉しそうに立ち上がって、茄子のように深い髪色をしたレネの頭をポンポン撫でる。


 「ヒョウ、レネくん嫌がってるわよ」

 とデミアは撫でるヒョウの手を掴んで止める。そして、自分のモノのようにデミアはレネの肩を後ろから持つ。


 「それで、なんでずっと3人でエレベーターにいるんだ?」

 レネは人形のように表情一つ変えず、3人の顔を見上げた。


 その言葉に3人はギクッと一瞬身体を震わせながら、黙り込む。


 レネは困惑しながら薄汗を浮かべて、「計算」と言うと、3人はさらにギクッと身体を縦に揺らした。

 

 「もしかして……ずっと格闘してたの?」

 

 「ち、違うんだレネ――このアホ2人が手伝ってくれないから答えが出ないんだ」

 タバノはレネに変な印象を持たれ内容に必死に弁論した。


 「い〜や、アホ3人だからずっとここにいるんじゃんー」


 ヒョウは頭の後ろで手を組みながら、他人事のように笑った。


 呆れたレネは瞼が下がる。タバノの前にある行先階ボタンを見て、すぐに答えが49になる組み合わせを導き出した。


 「2+5+7+8+10+17じゃない?」

 ゴクリと唾を飲んでタバノは言われた通りの数字をゆっくりと押していった。


 すると、薄暗かったエレベーター内に灯りがつき、扉が閉まる。1階から20階まであるこのビルのどの階に止まるのか、4人は想像もつかず内心ビクビクしている。


 動き出したエレベーターは上階に進まず、あるはずもない地下へと降りていった。


 「下?」


 「ねぇこれ大丈夫なの?」


 長いこと止まらないエレベーター内にいる4人はだんだんと不安なりながらも機械はまだまだ下へ行く。


 止まる気配がなかったエレベーターは、そんなそぶりを見せることなく急にドンッ!と何かにぶつかったかのように止まり、エレベーター内で4人は衝撃で少し浮かんだ。


 「つ、着いた?」

 止まったエレベーターの中で、真っ先にヒョウはドアを開けるボタンを押すと、建て付けが悪そうな音を立てながらドアが開く。


 4人は外に出て、目に映ったのは一面に広がる真っ暗な空間だった。どこを見ても暗黒――そう思ったが、眩しそうな一筋の光が差し込むのが見えた。


 「あそこに行けってことか……」

 タバノは指で顎を触りながら、小さく呟く。


 「ここに居てもどうしようのないだろー」


 「――そうね」


 4人はその光の方へ歩き出す。距離があると思っていたが、歩けば意外と近くただ光が長く伸びていただけだった。


 光の側まで来ると、そこが部屋のような空間だと言うことがわかった。差し込んでいた光はその空間から漏れ出たもので、まるで4人をここに導くためにそうゆう作りにしたと見て取れる。

 

 今まで歩いてきた暗闇の空間とは逆で、中は真っ白な大きな部屋だ。天井、床、壁全てが白色に包まれている。


 「何じゃこの部屋〜」

 白すぎる部屋にヒョウは趣味が悪いと同時に不気味に思っていた。


 いくつもの白く横長い机に黒い椅子が固定されて並び立っている。傾斜床構造のその部屋は大学の講義室を彷彿とさせる。


 「私は嫌いじゃないわね」

 デミアは一番近い机を摩りながらもたれかかる。


 中央に広がるホワイトボードの前には教壇のようなものが設置され、その上に上下黒い服を纏った1人の青年があぐらをかいて座っていた。


 「よく来たな、俺の仕掛けは楽しんでくれたか?」

 

 青年は一人一人表情を伺いながらソワソワしていた。


 「もうパニックだよ。二度とやりたくない」

 タバノは膝を曲げて掌を上に向けながら首を横に張って、嫌そうな口調で言った。


 「俺はまあまあ楽しかったけどな〜」


 「あんたのは、死んだ顔したタバノが面白かっただけでしょ」


 ヒョウとデミアが笑いながら話している中、レネは表情を変えずに、教壇の上に座るナイルを凝視する。


 「感想タイムはこの辺にして、前の方に座っといてくれ」


 ナイルは教卓の前にある最前列の机に座るよう指示する。招集したメンバーは後数人いるらしく、それまで座って待つらしい。


 バネたちを束ねるナイルが一体何の話をするのか、最初に来た4人には見当もつかなかった。

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