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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第二部 魔術編 1章:交錯乱世

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21話:圭の姿

 作見は圭の名を呟く。


 数多の視線が集まる先にいる彼は間違いなく人間だ。だが、人間が空に立つことは間違いなくできないだろう。


 「文化祭の出し物?」または「後ろに見えない糸で繋がっているのか?」そんな声が聞こえてくるが、彼は校舎の屋上より高い位置から不気味な笑みを浮かべながら、烏合の衆を見下ろす。


 「こいつらは楽しそうだな……生まれ方が違うだけでこうも差が出るものなのか……」

 空に立つ少年は次第に怒りが湧き、表情に血管を浮かべる。


 「こいつの記憶通りならここに奴がいるはず」


 圭の記憶を継承したシカバネは作見を探しにここへ来た。なぜなら、これから大量虐殺をする友達を目の前にした作見がどんな表情を見せるか楽しみで仕方がなかった。


 想像するだけで笑いが溢れる。


 圭は右手を上に向け、魔力を集中させる。集中させた魔力は膨張して行き、次第に赤くなって熱気を発する。


 「なんだあれ?」


 「火じゃない!?」


 など、圭を見上げる生徒たちは光り輝く赤い弾を見て憶測を飛ばし合う。


 これが危機的状況だともわかっていない圭は、


 「愚かな者だ。こいつらは事が過ぎてからしか行動できないのか?」

 圭はゴミを見る目で下の奴らを軽蔑する。


 そして、圭は容赦なく炎魔法を見上げてくる生徒に向かって容赦なく放つ。


 呆然と立ち尽くす生徒たちは動くこともなく、その火球のような爆炎に釘付けにされていた。


 「そこから離れろぉぉーー!!!!!!」


 その光景に圧倒された作見は遅れて飛び出す。


 作見は間違いなく間に合わない。少年の姿を見た瞬間――思考が止まった。理解したくなかったのだ。


 だがそれももう遅い。作見はすぐに飛び出して圭を止めるべきだった。でもできなかった。その行動の遅さが、目の前にいる生徒たちの死に繋がる――ところだった。


 勢いを増して降下する炎は、生徒たちに直撃する寸前で――方角を変えて一直線に上昇し、空の上で大爆発を起こす。


 間一髪で炎に触れる事ができた司は魔法の軌道を逸らすことに成功する。


 「なんてことだ……どうしてこんなところに……!」

 司は驚愕の表情で汗を浮かべながら、空に浮かぶ圭を見る。


 地上にいる生徒はまだ動かない。仕方のないことだ。今の光が自分を殺していた可能性があるなんて説明したとしても信じないだろう。


 「全員っ! 今すぐここから離れろ!!」

 司は声を張って逃げるよう声をかける。


 「えっ?」

 「何言ってんの?」

 「文化祭だぜ? どこに行けっててんだよ?」


 生徒たちは聞く耳を持たない。それどころか反発する生徒もちらほらいた。


 「司くん!」

 司の元まで駆けつけた作見は共に空を見る。


 「言美は!?」


 「他の生徒たちを逃げるよう誘導しに行きました」


 その言葉を聞いた司は下を向いて歯を食いしばる。


 作見は上を見上げながら、信じられない眼差しで目を震わせる。


 「この状況で逃げないのか? 全く……反吐が出そうだ。あの魔術師が声を上げたというのにこの様とはな」

 初撃が防がれたことはもはやどうでも良かった。ここの人間の危機感の無さ、空で爆発した魔法、司の荒げた声、これでも逃げる事ができないこいつらを心底軽蔑する。


 こういう奴らは痛い目を見ないとわからないのだ。


 圭は両手に炎を纏い、今一度炎を放つ。一撃に込めたさっきとは違い、2つに分散して放った。


 「くそっ!」

 司の魔術で曲げられるのは触れた対象だけだ。炎の軌道は一度に2つ触れられるものではなかった。


 司には全てを防ぐことはできない。一つに触れ、曲げてもう一つに当てて相殺するという考えもあったが、そんなことをすれば爆散して被害が出るだけだ。


 炎と地上の距離は50メートルまで迫る。考えてる時間はない。


 司は一つを確実に曲げることに集中する。ということはもう一つは生徒たちを飲み込むということだ。


 「どけぇぇぇぇぇぇぇーーーー!!!!!」

 

 「作見!?」


 作見は叫びながらもう一つの炎が落ちる場所まで走る。


 作見は全身に魔力を集中させ、のしかかった炎を受け止める。


 足場のコンクリートが砕け散り、足が食い込む。


 「うぉぉぉーーー!!!!」


 作見を中心に、生徒たちは円で囲みながらその様子を見ていた。


 飛び上がって司は一つの炎を再び空へと曲げ、急いで作見の元へ向かう。


 「作見ぃ!」


 司は手を伸ばして作見が抑える炎に触れようとした瞬間――爆発する。


 爆発する直前で作見は、炎の弾を自分の魔力で包み込むことで周囲に火花が飛び散ることなく、生徒たちは無事で済んだ。


 だが、それは襲いかかる炎をモロに喰らうということだ。炎を分散することなく直撃した作見のダメージは尋常ではない。


 煙に包まれながら出てくる作見は、要所要所焼けた制服に黒く火傷の跡が顔に残る。そして額から流れ落ちる血を目にした生徒たちは、恐れをなして一斉に逃げ出していく。


 その姿を見た司はすぐに駆け寄るが、足に魔力を集中させて空に立っていた圭は、魔力を解除して地上に着地すると同時に、降下の勢いを利用して司の背中に鉄拳をぶち当たる。


 「司くん!」


 「うぅ……体が重い」

 地面にめり込むほど押しつけられた司は、顔面を強打し、額から血が滴るが、ダメージはさほど大きくない。


 しかし、寝不足により体がうまく動かない。


 「お前の方が強いと思ったんだがな……」

 圭は自分の勘違いかと思うが、司が寝不足で調子が悪い理由なんて圭には知る由もない。

 

 圭は、司の首を掴んで持ち上げる。


 「ぐっ……」

 司は圭の腕を掴んで剥がそうと抵抗するがびくともしない。それどころか、圭の首を絞める力が増して、だんだんと力が入らなくなってくる。


 「助けに来ないのか?」

 圭は司の後ろでただ見ている作見を煽る。


 作見は司の首を絞める圭を見て、息を切らしながら全身が震える。


 「どうして圭が……」

 圭がバネに乗っ取られた。そう頭では理解しているが、体が動かない。


 暴力事件を起こしたあの日から、友達に手を上げることはしないと誓ったはずだ。


 だが目の前にいるのは、友達の姿をした何か。あれは友達ではない。作見にとってはそう簡単に割り切れるものではなかった。


 圭は右足を後ろに出して、拳を振るう構えを取る。右手に炎を纏い、司の腹部に炎の拳を叩き込む。


 「がばっ……」

 炎の拳を喰らった司は口から血を吐き散らしながら、校舎の一階にある壁を突き破って、机と椅子にぶつかりながら一つの教室の床に横たわる。

 

 「次はお前だ」


 「………」

 未だ作見は息を荒げている。


 「ひひっ、はっはっはっはぁぁぁぁ!!!!!――その顔だ! その絶望に満ちたその顔が見たかったんだ!!」

 圭は声を高くして、嘲笑う。


 一瞬にして距離を詰めた圭は炎の拳を作見の顔面にぶち込む。吹っ飛んだ作見は自動販売機にめり込む。


 唇が切れて血が落ちる地面に座り込みながら虚ろな表情であの時の千咲の表情が思い浮かぶ。


 仲間を討った千咲がどんな気持ちで健悟と対峙したか――今わかった。


 それと同時にこの世界の理不尽さを痛感する。


 だが、今は魔術師としての責務を果たす時だ。作見は顔を上げて魔眼を発動させる。


 さっきまでの絶望した表情とは違い、覚悟を決めた目で立ち上がる。

 

 「おっ、ちょっとはマシな顔になったな」

 そう言って圭は炎の塊を作見に放つ。


 ハイライトが消えた作見の目には炎の軌道が見える。このまま立っていると左半身が焼けこげるだろう。


 作見は体を反らして炎を避け、そのまま圭に突っ込む。


 両手に魔力を集中させた作見は炎を纏った圭と拳を撃ち合う。


 拳のキレは炎を纏った圭に軍配が上がる。しかし、基礎的な運動能力は作見の方が上だ。そして、攻撃を先読みする事ができる作見は圭の拳を受け流しながら隙をついて、拳を繰り出す。


 圭は拳を腹部へ喰らい、足を地面に引きずりながら、後退り――作見はさらに拳をたたみかける。


 何発もの拳を喰らった圭は動きが鈍り、首元に隙ができる。作見はその隙を見逃す事なく、足に全魔力を込めた蹴りを圭左首に蹴り入れる。


 圭は蹴りを喰らう前に顔を上げて、


 「作見!!」

 と満面の笑みで語りかける。


 その笑顔を見た作見は目を大きく開いて、

 「圭?」

 と呟いて蹴りを寸前で止める。


 「はっ!!」

 圭のその笑みは不気味なものへと変わり、がら空きになった作見の胴体に炎の拳を直撃させる。


 「おぐっ……」


 魔力によるガードが遅れた作見は生身の状態で炎の拳を喰らい、肋骨などの骨が粉砕する。


 大量の血を地面に吐きながら、作見は蹲る。


 シカバネは圭の記憶を最大限活かし、作見に対する圭と過ごした日々をよぎらせた事で迷いを誘った。


 それが、作見の一撃を止めることとなり、決定打を逃す。


 「こうゆうのに弱いよなぁ!! お前らは!!」


 蹲る作見の後頭部を踏みつけて高らかに嘲笑う。


 「くそっ……くそぉぉーー!!!」

 作見は心の中で雄叫びを上げながら、瞑っている目から涙が溢れる。


 すると圭の背後から一つの拳が現れ、圭の右頬にそっと触れる。


 「くっ……だれ――」

 圭は触れられたことに苛立ち、振り返ろうとした瞬間――その拳が振り切られ、圭はものすごい勢いで校舎に吹っ飛ばされる。


 涙ぐみながら見上げた作見の前には海里が立っていた。


 「海里……くん……」

 

 「友達か?」

 言葉で言い表す事が難しいほど、酷い表情をしていた作見を見て海里は察する。


 「………」


 「最善は尽くす」

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