20話:文化祭
6月に入って数日が経ち、梅雨が本格的に始まろうとするこの頃、特に目立ったこともなく夕食という名の朝食を食べ終えた一同は学校への支度をする。
作見と海里が制服に着替える中司は眠そうにしながら目を擦る。
「今日も休むわ……」
司から全く覇気を感じず、暗いオーラを纏いながら自室へ向かうべくリビングの戸を開ける。
海里そんな司の方をトントンと人差し指で叩いて引き留める。
「念のために言っとくけど、今日……文化祭だよ」
「へ?」
この1週間立て続けに休んでいた司はそんなこと知るはずがなかった。
文化祭と聞いて、司の意思が揺れ始める。行くべきか?睡眠を優先するべきか?司は脳内でその二つを天秤にかけて長考する。
しかし答えはすぐに決まった。学生時代という貴重で二度と味わうことのできない時間を睡眠という、いつでもできる行為が天秤を下に傾けるはずはない。
そして、司は睡眠を諦めて制服に着替え始めるのであった。
◇
文化祭――それは学生にとって超ビッグイベントだ。まさに青春の1ページが多くの生徒の思い出に刻まれるだろう。
そんな文化祭の始まった東院高校で作見はベンチで1人――携帯と睨めっこしていた。
「いつ来るんだ……」
携帯に映るのは圭とのメッセージのやり取りだ。圭が1人で遠出の写真を送ってきたり、賑やかなトーク履歴の最後には、こう書かれていた。
「ちょっと風邪を拗らせたから1週間くらい休む。文化祭までには直すよ」
というメッセージを最後に文化祭当日を迎えた作見は圭が来るのを待っていた。
だが、一向に現れる気配はない。
すると隣に言美が勢いよく座ってきた。
「うぁぁー! びっくりした! なんだ言美か」
作見は左に姿勢を傾けて飛びながら驚く。
そんな作見を見た言美も可愛らしい笑顔を見せながら肩に下げた紐付きのスケッチブックを見せる。
「いっしょに回りませんか?」
期待の眼差しを向けながら作見を見つめる。
「あーうん。一緒に回ろうか」
頭の片隅で圭のことを浮かべたが、今を楽しむべきだと考えた作見は言美と回ることにする。
まずは校舎に入って、それぞれのクラスが何をやっているのかを見ながら、面白そうなところを探す。
歩いているところで言美は何かやりたいものがあったのか、作見の袖をチョンチョンと引っ張る。
言美はある看板に指を刺して、作見は目を細くしてその看板に何が書いてあるかを見る。
「射的か〜」
そう言いながら、言美の方を見ると、「やりましょう!!」と書かれたスケッチブックを顔の前に構えて、やりたそうな目をしながら見つめていた。
「やろうやろう!」
2人は教室の前で少し盛り上がったところで、中に入り射的の列に並ぶ。
作見は並びながら、射的の景品のラインナップを確認していた。
高校生の文化祭となると景品のレベルはそこまで高くないと言える。無難にお菓子や小さなぬいぐるみが多い。
しかし、次々と他の参加者が狙っていたのはそんなものではなかった。中央の一番上に置いてあったのは1500円分のプリペイドカードだ。
他の景品とは違って一際異彩を放つその白いカードは何人もの的にされる。
そのことを言美に教えようと思い、作見は言美に声をかけようとしたところで、あることに気づく。
言美はスケッチブックの紐を首にかけて、見えるようにしていた。そしてそのスケッチブックには「あれを狙います!!」と気合を感じる筆跡で書かれていた。
しかし、他の挑戦者を見るに弾が当たっただけでは倒れない。店側も取らせないようにしっかりと重りを置いて支えているのだろう。
いわば、客引きのための景品。得することができるかもと思わせて、挑戦してもらえれば店側の勝ちだ。狡い考えだが、やってることは賢い。
そして、プリペイドカードが取られることがないまま順番が回ってくる。
200円で打てる回数は3回。言美はスナイパーのように銃を構え、片目を閉じて狙いを定める。
1発、2発と確実に命中させるが、景品はびくともしない。だが、やはり常人と違って確実に上手いと思わせるオーラが出ていた。
まさに獣を狩る目――魔術師をしていた経験が見てわかる。
最後の1弾。言美は悔しそうにしながら銃に弾を詰める。そして、何か覚悟を決めたような表情で作見を見つめる。
「ん? どうしたの?」
作見はその表情の意図はわからなかった。ただ、その少し汗を浮かべた表情は可愛かった。
そして銃を構えた言美は、一直線にプリペイドカードに弾を放つ。
すると、その木の弾からは考えられない風圧と威力で飛んでいき、プリペイドカードに命中した途端――射的台もろとも崩れ去る。
「うぇぇぇぇーーーー!!!!」
目ん玉が出そうな勢いで作見は驚く。
「き、今日はもう、終わり、です、」
腰を抜かして倒れた生徒は今日の出し物の終わりを宣言する。
そして、プリペイドカードを言美に渡して出ていってくれと言わんばかりの表情で訴える。
中央に穴の空いたプリペイドカード片手に満足そうな表情で廊下を歩く。
作見はなぜあんな威力が出たのか気づいていた。
「最後の弾……魔力込めたでしょ?」
言美は、ページをめくって白紙のスケッチブックに「バレてましたか」と書いて、わざとらしく笑みを見せる。
「この調子でどんどん行くよ!!」
と書いた紙を作見に見せた言美はすごく楽しそうにしていた。
これから2人は、気になった教室に片っ端から入っていき、輪投げやお化け屋敷、喫茶店など、レクリエーションから飲食まで幅広く回り、文化祭を満喫していた。
◇
正門を入ると生徒が運営する屋台が立ち並んでいる。するとたこ焼きの屋台から嘆くような声が聞こえてくる。
「やばい……もうすぐタコが尽きる」
たこ焼きを作っている生徒が焦りをこぼしながらたこ焼きを作っている。
「ダッシュで買ってくれば間に合うか!?」
接客をしていた生徒が極論すぎる案を出すが、素人の生徒には打てる手がこれだけだった。
「司! 急いでタコ買ってきてくれないか!?」
テントの端っこでパイプ椅子を並べて寝ている司を起こす。
「んんああっ……え?」
司は顔を被せていた本から片目を出して反応する。
「お願い! 行ってきてくれないか!」
たこ焼きを作りながら背を向けて生徒は頼む。
「今は無理……」
「司ぁぁーー!!!」
たこ焼きを作る生徒は司の名を叫びながら嘆く。
そんな時にある一声がテントを通る。
「僕が行こうか?」
そこいにたのはフライドポテトを食べながら司の様子を見に来ていた海里だった。
「鳴瀬ぇー!! お前は救世主だ!」
「ここに予算が入ってるから、あるだけお願い!」
接客の生徒にがま口を渡され、海里はタコを買いに学校を離れる。
(タコってどこに売ってるの?)
そう思いながら、コンビニ内の想像をするがタコが売ってるイメージは湧かない。
スーパーしかないと思った海里は、携帯でスーパーの位置を検索するが、学校から片道30分はかかるほど離れていた。
その表示された画面を見ながら、顔を歪める海里だったが、てくてくスーパまで歩いて行った。
海里が学校を出た直後に、大広場の野外ステージが始まり、盛り上がり始めていた。
そんな人だかりを校舎の窓から見下ろしていた作見と言美は少し気になっている。
「人混みは得意?」
人混みの苦手な作見は言美が行きたいならついて行こうと思い、聞いてみる。
言美は紙に、「そこまで得意じゃない」と書いて見せる。
「じゃあ飲み物買って遠目から見てようか」
言美も賛成して、頷く。
作見は飲み物を買いに席を外し、言美は窓を開けて外を眺めている。
両手に飲み物を持って、言美の元へ戻る時に、やたらと周囲がざわざわとしていることを不審に思いながらも、構わず急いで戻る。
「お待たせ! どうした?」
野外ステージに目を奪われているのかと思ったがそんな様子はない。
言美も含めて周囲の人の目線は空を向いていた。そんな視線の先には、宙に浮かぶ1人の少年の姿があった。
作見はその目線の先を眺めた途端――絶句する。そしてその少年の名前を呟く。
「……圭?」




