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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第二部 魔術編 1章:交錯乱世

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15話:千咲の魔術

 大量の血が鮮やかに漂う病室に1人の少女は、高らかに笑い出す。


 「こうもあっさりいくとほんと笑っちゃうよ!」


 病室を出ようとしたところであることを思い出す。


 「そういえばこの服から位置がバレるんだっけ?」


 ウカノは残った服に触れ探知の魔術の効果を取り消した。


 そして、少女の外見から健悟の姿へと変異する。


 これがウカノの魔術――吸収。

 体内に取り込んだ対象の肉体、記憶、そして魔術を行使することができる。


 「後3人いるみたいだね」


 ウカノは、その場で4人に分裂する。


 健悟の魔術は分身――文字通り自分の分身を作り出して操ることができる。


 本来健悟でも2人の分身を作り出すことが精一杯のはずだが、ウカノは容易に4人の分身を可能にした。


 「下から順に食べちゃうか。3階は私がやる。君たちは他の2人をお願い」

 分身に指示した後、ウカノは階段を降りていく。


 すると、階段の下には千咲が待ち構えていた。


 「どうだった?」

 千咲は健悟の姿をしたウカノを見てすぐにそう言った。

 

 「問題ありませんでしたよ!! そっちはどうでした?」


 ウカノはにっこりとした笑顔で返す。


 「――これからだ」


 千咲はあまり言いたくなさそうなそぶりを見せるが、そう言って3階を進む。


 「えぇー!! もしかして心配してずっと階段のそばで待ってたんですかぁー??」

 先に歩く千咲を追いかけるようにウカノは煽る。


 「かぁーー腹立つ!!」

 千咲は顔を真っ赤にして、足音が強くなる。


 「図星じゃないですかー!!」


 (やるなら今だな)

 やはり身内の姿というのは油断を誘いやすい。


 ウカノは千咲の後ろで醜く口を巨大に開け、千咲を飲み込もうとする。


 そして、3階の廊下に血飛沫が飛び散る。


          ◇

 1階と2階の調査を終えた作見と海里は病院の玄関で座って待っていた。


 「遅いっすね〜」

 作見は落ちていた木の棒で床を叩いている。


 「千咲もマメだからな。念入りにやってるんだろう」


 「そういえば、千咲さんの魔術ってどんななのですか?」


 「え? んー僕もよくは知らない。千咲の魔術は一般的じゃないから」


 「一般的じゃない?」


 「魔術は基本見えない力だ。僕の魔術も見えないし、司や大輝さんの魔術も目で見えるものじゃない。けど、星一のお父さんや千咲みたいに魔術そのものが見える人ってのは、その人を形成する何かが前に出過ぎて、魔術になったって言われてる」


 「というと?」

 作見はそんな難しいことは通り過ごして、千咲の魔術が何なのかを催促した。


 「千咲の魔術はつるぎ――言葉通り剣を出すことができる」


 「――じゃあ手ぶらだけど、武器を持ってるっていう後出しができますね」


 「そこ? まぁそうだけど、剣術もすごい。全魔術師の中でも多分1.2を争う。それに特筆するべきは剣の量だ」


 千咲の剣は一言で言えば消耗品である。戦闘で破損したとしても、魔力を消費することで新たな剣を作り出すことができる。


 「もうよくわかんないっすね」

 凄すぎて考えるのをやめた作見は、適当に笑顔で返す。


 「ああ。それにあいつは核となる剣が数本ある」


 「核?」


 「特殊な効果を帯びた剣であったり、使い勝手であったり、千咲の中でランク付された剣だ」


 「へぇー」

 作見はもう飽きて、ほとんど聴いていなかった。


 「飽きてるじゃん」

 海里も説明をやめて玄関から見える月を眺める。


 千咲の核となる剣は強力故にデメリットもある。普通の剣より魔力消費が大きいこと。そして――その剣を使用するには必ず剣の名前を呼ばなければならないこと。

          ◇

 「――壱剣いけん


 千咲を食べようとしたウカノは、胴体から斜めに左肩まで切られ、血飛沫が廊下中に飛び散る。


 いたってシンプル――その刀身はただの刀にしか見えない。普通の刀と比べて違いがあるとすれば、持ち手の部分が白い包帯のようなもので巻かれており、そして鍔が付いていない。


 「お前――健悟じゃないな?」


 千咲は鋭い形相でウカノを睨みつける。

 

 「ははっ。流石に六要最強は伊達じゃないね」

 と涼しく言いつつもその表情からは焦りを感じる。


 「健悟はどうした?」


 「ふっふっふっ……うぁはぁはぁ!!! もうとっくに死んでるよ!!!」

 ウカノは挑発するように嘲笑い、現実を突きつける。


 「くっ……」


 千咲は大きく目を開けて絶句し、噛み締めるように歯を鳴らす。そしてあの時の選択を悔やむ。


 あの時、私も一緒についていっていればこんなことにはならなかったはずだ。そう思うと体の震えが止まらない。


 「ふぅー」

 ここで一息ついた千咲は心に誓う。


 すまない健悟。私はまだ至らないところが多かったな。けど安心しろ――こいつは必ず倒す。


 「お前は最近何人殺した?」

 壱剣を突き立てて問う。


 「さぁね。5人くらいじゃない」


 千咲は確信する。今回の任務の標的は間違いなくこいつだと……。


 「始まる前に一つ聞かせて欲しい。お前たちシカバネは一体何なんだ?」


 その質問にウカノは少し眉が動く。そして震えるほど強く拳を握る。


 「別に何でもいいだろ!! ()()()()がこんなでも俺たちはただ普通に生きることを追い求めてるだけだっ!!!」

 

 その咆哮とも言える怒りが廊下を反響する。


 「そうか――なら私が拒んでやる」


 表情に汗を浮かべながらもウカノは自分の分身を増やして千咲へと向かわせる。


 だがしかし、剣一振りで分身は消滅する。


 「東西六守要の力――教えてやるよ」

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