14話:廃病院
ホテルを跡ににした魔術師たちは、北海道の夜に駆り出す。
小樽に到着した一同は、小樽運河付近で巡回経路を確認する。
「北海道の中でも小樽は比較的大きくない都市だ。だから時間をかけて隅々まで調査する」
千咲は3人の前に立ちリーダーのように指揮を取る。
「あのー、それはいいすけど――どうして小樽限定なんですか?」
作見はちょこっと手を上げて質問する。
「多分だけど小樽で反応がなくなってるんでしょ?」
千咲が答える前に海里が推察を話す。
「その通りだ。行方が掴めなくなった5人に共通するのは、ここ小樽で消息が掴めなくなったことだ。」
魔術師の着用する正装に施された魔術は2つある。
1つは、認識。これは魔力を持たない一般人に気づかれないように着用者を認識しづらくする魔術だ。
2つ目は、探知。正装は本部にある技術部のモニターから丸い点で今どこにいるかがリアルタイムで見ることができる位置情報アプリのような役割も持っている。
「ってことは?」
「間違いなくここで何かが起こったってことよ」
健吾は肩を組んで作見に言う。
「なるほどっすね」
作見はため息混じりな返事をした。
「なぜかはわからないが、詳しい場所まではわかっていない。だから、山はスルーとして端から見て回ろう」
話し合いも終わり、4人は人が集まりそうな場所などをバネを飛ばしながら順に捜索していった。
効率も考えると手分けして行動した方がいいという海里の意見を千咲は了承せず、4人で探索する。
そんな中突然思い出したように千咲は海里にある質問をする。
「なのには最近会ってないのか?」
「――え?」
と海里はどうしてそんなことを聞くんだという顔できょとんとする。
会ってないと察した千崎は、
「寂しがってたぞ。ただでさえ星一もしばらく戻ってこないんだから、次の要会議の時にでも会ってあげてよ」
と諭すように言った。
「――何で僕?」
「はぁーー、お前も星一と一緒で激にぶだな」
千咲は呆れた声で頭を抱える。
「何の話ですかね?」
話し声が聞こえた作見は健悟にこっそり耳打ちする。
健悟も2人に聞こえない程度の声量で、
「多分俺らにはまだ早い話だよ」
と口元を手のひらで隠して言った。
「しゃーねーなー。ここは一つお姉さんが大事なことを教えてあげるよ」
海里の少し前を歩いていた千咲は海里の隣に立つ。
「お姉さんって……僕と一つ差だろ」
海里は目を細くする。
「うるさい」
「……はい」
「女の子と話す時は、ちゃんと相手の目を見て話すことだ。何を思っているのかとかじゃなく、君に向けてる感情はなんとなく読むことができる」
人差し指を上に立てて、先輩っぽく話す。
「……女性と目を合わすの苦手なんだよ」
と千咲の目を見て言う。
「ん? 私とは合ってるじゃん」
「いや、千咲は女の子として見てな――」
海里が言葉を言い終える前に内容を理解した千咲の拳が海里の頬に直撃して川に放り投げられる。
「ぶっ殺したろか」
殴った後で腕を組み、拗ねた表情でボソッと言った。
後ろで見ていた作見たちは体が震えるほど怯えつつも絶対に千咲の機嫌を損ねないようにしようと心に誓った。
◇
ある一つの場所を除いて、あらかた調査を済ませた魔術師たちはその建物の見上げていた。
「廃病院ですかこれ?」
今まで見てきた街の風景とは打って変わって、まるで異世界の建造物のように世界から隔絶された雰囲気を放つ建物を見た作見は、少し入りたくなさそうな口調で聞く。
「だろうな」
フェンスの前に立つ千咲は動じることなく、周囲を観察している。
蔦が生い茂り、建物中に絡まっている。
「一応ここも見ておこう」
千咲は皆の前に立ち、先導する。
「二手に別れよう」
中に入ってすぐにそう提案した。効率を考えたのか、ここに長居したくなかったのかはわからない。
だが、千咲は間違いなくここに違和感を感じていた。
「じゃあ、西と東で別行動だな」
海里は懐中電灯と点ける。
「ああ、そっちは1階と2階を頼む。私たちは3階と4階を見てくる」
そう言って千咲は健悟と共に階段を登っていった。
作見と海里も明かり灯しながら、隅々まで調査する。
「やっぱ、普通の夜の病院と違ってさらに不気味ですね……」
作見は海里に少しくっつき気味に話す。
「うん。僕も早く終わらせて出たいよ」
海里もこのような雰囲気の場所は得意ではない。加えて海里も何か異様な雰囲気をこの病院から微かに感じていた。
一方で、東組は3階に到着する。
「じゃあ俺は4階を見てきます」
健悟は得意げに4階への階段の1段目に足をかける。
「おいっ! 1人で平気か!?」
「大丈夫ですよ!俺ももう立派な魔術師ですから!!」
「……分かった。もし何かあったら、床をぶち破ってでも降りてくるんだぞ」
千咲は健悟を立てることにした。その選択が正解かはわからない。
だが、ここで健悟の自信を折るようなことをしたら、成長に繋がらないと考えた。
4階の調査を始めた健悟は、一番近い部屋に入る。
1人用のベッドやトイレ見るからに個室の病室だ。奥まで入ったところで、健悟は信じられないものを目にする。
そのベッドには、髪の長い1人の小さな女のコが眠っていた。
「――嘘だろ!?」
小さく驚愕した健悟は寝ている女のコの見下ろすように前に立つ。
すると女のコは目をこすりながら上体を持ち上げた。
「君! 大丈夫か!?――何でこんなところに!? 名前は!?」
健悟も少しパニクって聞いてしまった。
女のコはすぐに答えない。あくびをして、周囲を見渡す。
そしてこう言った。
「――わからない」
ただその綺麗で高い声が病室に放たれただけだった。
健悟は頭を抱え、どうするか考える。
この女のコはシカバネに連れ去られた可能性が高い。もしかすると、この病院は、今後乗っ取る体を管理している場所なのかもしれない。
と最悪な想像をする。
他の病室も見て回りたいが、手に余りすぎると判断した健悟は女のコを連れて千咲と合流することにする。
「今から君を逃す! だからついてきて欲しい!」
「――??」
女のコはいまいちな表情で首を傾げる。
何を言っているかわからないだろうと思いながらも、健悟は女のコをベッドから下ろし、手を引く。
緊迫した表情で病室を出ようとする健悟の後ろで、女のコは不気味な笑みを浮かべる。
病室の扉を開けたところで、健悟は抱いていった方が早いと思い、即座に振り返る。
しかし、そこに映るのは真っ赤な世界――普通そこに映るのは割れた窓ガラスとベッドの足の部分だ。
だが、そこにはサメのような大きな口だけしか見えなかった。
「――えっ?」
健悟がそう呟いた瞬間――口は閉じられ、上半身と下半身が離れる。
残った下半身だけが前に倒れ、病室を赤く塗りつぶしていった。




