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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第二部 魔術編 1章:交錯乱世

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12話:指名

 五月初旬、新学期が始まって1ヶ月が経った。世間ではゴールデンウィーク前ということもあり街中も活気づいてきていた。


 作見にとっても魔術師と学生の生活に慣れ始めてきたタイミングである。だが、いかんせん睡眠時間が足りていない。


 それは他の魔術師も同じである。


 しかし、寝れないというのは辛いことだ。寝る時間がない人と、寝たいが寝れないという人は睡眠という行為において一番ストレスが溜まる。


 ゴールデンウィークになると学校が休みになる。睡眠の時間が取れることに期待していた作見だったが、ある通達が本部から届く。


 大輝は本部からの通達を受け、その内容について海里と共有していた。


 「――六要指名の任務が入った。どうする?俺が行こうか?」

 大輝は自室の高そうな黒い椅子に座りながら机の上に置いてある封筒を弄っている。


 「いえ――僕が行きますよ。もうすぐゴールデンウィークですから学校もないですし」


 座る大輝の前に立つ海里は涼しい表情で言った。


 一般術師の手に負えない案件や早急に対処しなければいけない問題があった場合はこのように六要以上の魔術師が名を受けて対処する場合がある。


 「そっか! なら頼む!」


 「場所はどこですか?」


 「――北海道だ」


 「……遠いですね」


 「まあな。でもこっちの任務には参加しなくていいから、時間が許すなら観光でもしてくるといい」


 指名を受けた魔術師はその事案集中して欲しい措置として、担当区域の防衛は免除される。


 「1人でならすぐに解決して帰ってきますよ」

 海里は鼻息をふっと吐いて言う。


 「1人じゃない。西うちから海里を含む2人。東から2人。計4人でその任務に当たってもらう」

 と言い忘れてた顔で言った後に笑った。


 先に言ってくださいよ。と内心思いながら海里はジト目で大輝を見つめる。


 「もう1人は誰ですか?」


 「同行者は自由に選抜していいそうだ。誰を連れていく?」


 「――作見にします」

 正直なところ誰でもよかったがのだが、経験を積ませるいい機会だと思い、海里は作見を同行者に選ぶ。


 「おぉそうか! じゃあ作見にも声かけといてくれ」


 「わかりました」


 そう言って大輝の部屋を出る。


 早いほうがいいと思った海里は作見にこのことを伝える。


 「――ってことになったから準備だけしといて欲しい」


 缶ジュースの飲んでいた作見は、ゴールデンウィークが消え去ったことを悟り、口入ってくるジュースを飲み込むことを忘れ口から液体が溢れる。


 「何で、俺なんすか?」

 そう言った作見の声色から絶望を感じる。


 「え? いい経験になると思ったから」


 その言葉を聞いて、冷酷そうに見えて意外と情に厚いことを思い出した作見だった。


 「はぁー。分かりました」


          ◇

 移動当日。身支度を済ませた2人は家を出る準備をしていた。


 「海里くん……ねみぃっす」

 作見は玄関で靴を履きながら目を擦る。


 「飛行機で寝ろ」

 すでに外に出ている海里は全身グレーのジャージを着ていた。


 「はーい」

 情けない返事を返すと、大輝達が見送りに玄関まで来てくれた。


 「死ぬなよ!」

 大輝は作見の背中をビシッと押して送り出す。


 「頑張れよ〜」

 眠そうな司も手を振る。言美も「ファイト!」と書かれた紙を持って送り出す。


 「空港まで走っていくのかわいそー。じんは来れなかったんですか?」

 司は大輝を見上げる。


 「道枝みちえだも忙しいんだろーな」


          ◇

 2人は空港に向かって走る中、海里は何度も作見の方を見た後に確認する。


 「ちゃんと正装スーツは持ったよな?」


 海里は作見の背負うその小さな鞄に正装が入っているとは到底思えなかった。


 「ちゃんとありますよ」

 目を細めて言う。


 「そっか。後一個聞きたいんだけど、何で制服着てんの?」


 学校の制服を着ていた作見のことが分からず聞いてしまう。


 「私服ないんですよ!」

 

 ないことはなかった。以前住んでいたアパートに荷物を取りに行ったが、もぬけの殻だった。


 大輝が解約するように本部に連絡してから2週間後に赴いた作見のせいとも言える。


 「……」


 無言で前を向き、海里は何も聞いていないような顔で走る。


          ◇

 空港に着いてからスムーズに席まで乗ることができた2人は心身ともに疲労していた。


 「もう寝ていいですか?」


 「ああ。流石に疲れたからもう――」

 と海里は話の途中で作見がもう寝ていることに気づく。


 気絶やん。と内心思いながら自身も目を瞑る。


 約2時間ほどで到着した2人は北海道に一歩を踏み締める。


 「いやぁ〜初めて来ましたよ!」

 少し寝ることができた作見は少し元気が出てきていた。


 「僕も」

 海里もそう返しながら、東の魔術師との集合場所を携帯で確認する。


 街中に出ると、京都に比べて少し涼しい。


 そんな街を2人は歩きつつ周囲をまわしていた。


 「あのファミレスだ」

 と指を刺して向かいのファミリーレストランが集合場所だと作見に伝える。


 中に入った2人は店内を見渡すが、東の人達はまだきていなかった。


 テーブルに座った2人は、東組が来るまで待つことにする。


 「お腹空いてたら何か頼んでもいいよ」

 作見が入れてきてくれた水を飲む。


 作見はメニューを見ながらじゃあ、とハンバーグをタッチパネルで注文した。


 「東の人達って誰が来るんですか?」

 タッチパネルを置いて作見も水を飲む。


 「さあー? 六要は僕がいるし、作見と同じで普通の魔術師が2人来るんじゃない?」


 「普通って……」

 普通ってなんだよって思いながら、少し笑う。


 そんな時だった。海里の後方から1人の女性が歩いてくるのが見えた。


 「よお海里! 久しぶりだな!!」

 その女性はそう声をかけた瞬間――海里はビクッと両肩が上がる。


 ゆっくりと振り返った海里は、


 「な、なんで……?」

 と声が震えていた。


 「あ? 私じゃなんか悪い?」

 最初の声から少し落とした低い声で返す。


 「いえ」

 いつもクールな海里とは打って変わって怯えている様子だった。


 濃い赤い髪が目立ち、その風貌はとても力強く、口調通り――凛とした女性だった。

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