11話:友達
朝のホームルームが始まる数分前、隣の席に座る爽やかな男性。制服をビシッと着こなし、綺麗な金髪が似合う壮健な顔立ちをしたその男は、土林圭と名乗った。
「髪長いなぁー!」
圭は作見が頭の後ろで丸くまとめた髪を見て背中を2回ほど叩く。
眠くて声を出すのも嫌になっていた作見だったが上体を起こして名乗る。
「柏木作見です。よろしく」
「なんだよ、ですって。同い年だろ〜タメ語で話そうぜ」
ガンガン距離を詰めてくる圭に作見はどう接するべきか分からず、口を開けて少しフリーズする。
太陽のような笑顔で笑った圭は、次に言美の方を向いて、
「桜花さんだっけ? よろしく! 声が出せないのは辛いよな。何かあればいつでも頼ってくれて構わないよ!」
と言美にも挨拶する。
入学式の自己紹介で言美が印象に残ったのは作見だけではなく、圭も気にかけていたのだった。
そして、一度会話が終わる。
(何か話したほうがいいのか。いやでも、向こうが話を続けないってことはもう会話は終わってるのか?)
沈黙の空気が苦手な作見は目を瞑っていると脳内で会議が始まっていた。
すると、「みんなおはよう!」とドアを開けて入ってきた先生の声が教室に響く。
「じゃあホームルームを始めます」
◇
学校2日目は意外にもハードだった。初回の授業というのは、担当の先生の自己紹介であったりして授業を進めるのは稀だと思っていた作見は寝ようと思っていたが、そんなことはなかった。
昼休みになると作見は朝と同じ姿勢で項垂れていた。
「なんで初回からちゃんと授業すんだよ〜」
作見の嘆きを隣で聞いていた圭は椅子を向けて作見の机の上に弁当箱を置く。
「この学校の上のコースは偏差値も高いし、その基準で俺たちのいるコースも方針が同じなんじゃない?知らんけど」
「知らねぇのかよ」
作見は自然とツッコミが出る。
「てか、俺ご飯……」
小さく呟いた作見は、昼飯をどうするか全く考えていなかった。
圭がすでに作見の机で弁当箱を広げているのを見て、何か教室で食べれるものをと考えるが金もない。
「あ、あー」と息を漏らして、少し上を向いていると、ポケットから振動がした。
携帯を取り出して、画面を見ると言美からメールが送られていた。
「鞄にお弁当入れて置いてあるよ」
という文章が書かれていた。
慌てて作見は鞄を漁ると、黒く四角い弁当袋らしき物を発見する。
丁寧に机の上に取り出して、前の席に座っている言美を見ると、前を向いて左手でカニのように小さくピースをしていた。
その素振りを見た作見は少し微笑んで、「ありがたや」とメールを返す。
弁当箱を開けると、そこには彩り鮮やかなおかずたちと、白米が乗せられていた。
「なんか、見せ方が上手いな。作見が作ったのか?」
圭は食べる手を止めて、作見の弁当を凝視する。
「ま、まぁそんなとこ」
と、嘘がつけない作見であった。
「へぇーやり手だな」
と、圭との会話が続き、作見がお弁当を食べ始めた頃、上の階にいる海里も同様に言美の作ったお弁当を食していた。
◇
午後の授業も終わり、作見はさっさと帰って日没まで仮眠をしようと思い、帰る準備をしていたが圭に呼び止められる。
「なあ、作見。ラーメン行こうぜ!」
揚々と圭は言ってくる。
そう言われた作見は心の表情が引き攣る。
正気かこいつは。昼休みに2段弁当を完食していた圭が言うセリフではない。それに、作見は少しでも寝たかった。
だが、言美の作ってくれたお弁当はかなり美味かったが、食べ盛りの男子高校生の腹を満たす量でもなかった。
よくよく考えると、ラーメン――悪くない。
「行くか」
作見はこの一瞬で乗り気になっていた。
「俺のおすすめに連れて行ってやるよ!」
「できるだけ近い目がいいかな」
「あぁーでも電車一本で行けるな」
そう言われた作見は圭の案内について行き、学校の最寄りの駅から5つ先の駅で電車を降りる。
電車を降りて地上に出ると、目につくのは都市型複合大型施設だ。
「おおー」
と作見は物珍しそうに眺める。
中には飲食店であったり、映画館であったりと一日いても飽きなさそうな建物だ。
作見のいた地域にはこのような娯楽施設はなかったこともあり、上から下まで何度も視線を向ける。
「こっちだ」
圭の後ろをついていき、横断歩道を待っていると、右斜め先にラーメンと書かれた看板を見つける。
そして、すでに3人並んでいた。
店の前に着くと、
「ここが俺のお気に入りの海上ラーメンだ」
と列の後ろに並んで、前の人の迷惑にならない程度に声を張る。
ラーメン屋で並んだことのない作見は、かつてないほどに期待が高まっていた。
列も進み、店内に入って食券を買って席に着く。
店員さんに食券を渡して、麺の硬さなど自分の好みを言うらしい。
圭は、硬め濃いめ多めと言っていたので、作見もそれと同じにした。
「ここは一口目がやばいんだよ」
「や、やばいだと」
唾を飲んでそのやばいはとんでもなく美味しい。そうに違いないと思い、作見はすでに箸を握っている。
そしてラーメンが到着する。
作見はすぐに蓮華でスープを口にすると、小さくガッツポーズをしていた。
その様子をニヤニヤしながら見ていた圭は、
「最初はこうなるんだよ!」
と嬉しそうに言った。
2人はすぐに食べ終えて、店を後にする。
「う、美味すぎた」
「だろー! 気に入ってもらえて何よりだよ」
「お金は返します」
手持ちがほとんどなかった作見は、電車賃とラーメン代を圭出してもらっていた。
「別にいいよ。布教代だと思えば安いもんだよ」
「いやでも――じゃあ今度何か奢るよ」
「まじで? じゃあそん時頼むよ」
と放課後を満喫していた2人は各々帰路に着く。
家に着いたときには、もう日没前で海里や司はもう着替えをしていた。
作見も急いでスーツを手に取って着替えを始めると、今日のことを思い出す。
楽しかったな。色々話して、放課後飯食って、いかにも高校生らしいことが、ただただ楽しかった。
さっきまでの時間を名残惜しくも感じるが、ここからは魔術師の時間だ。
眠いけど、圭のおかげで頑張ろうって気になれる。
スーツを着た一同は夜の街に駆り出す。




