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ダブルワールド  作者: 東城陽一
第二部 魔術編 1章:交錯乱世

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8話:赤き闘志

 日曜日の日の入り前、一同は任務に出るためスーツに着替えている。


 明日から学校が始まると思うと、作見は不安そうな顔でシャツを腕に通す。


 果たしてそんな生活に適応できるのか――学校のない休日にしか魔術師をしていない作見にとっては予想がつかない。


 ただし、一人でこの生活を送るわけじゃない。海里や司も同じことをしている。任務に出てない言美も同じクラスだ。


 そう思うと気が楽になってきた。


 孤独とは微量の毒かもしれない。


 暴力事件を起こしてからずっと一人だった作見の脳内には、もう言美たち魔術師との生活風景でいっぱいになっている。


 高校では友達を作る気はなかったが、そんな気はとうに無くなっていた。


 一人でいるより、誰かといた方が楽しいに決まってる。これは俺だけじゃなく、みんながそう思っているから、こんな無茶な生活が続けられるんだろうな。


 言美の見送り後、前日と同様に大輝と海里は単独で行動し、司と作見はペアで動く。


 街に着くまでの走行で司が言う。


 「今日はある程度街を見て回ったら、自殺スポットに行く」


 凍りついたような表情で作見は息を呑む。


 「わかりました……」

 

 自殺スポット――嫌な響きだ。


 行きたくないと思いつつも行かなきゃならない。


 そんな思いを胸に秘めながらもバネの捜索が始まる。


 ある程度の流れを理解した、作見は昨日よりも動きが良かった。


 さらに自分の魔術を知ったことで、常時魔眼を発動しながらバネを捜索する。


 魔眼のせいなのかわからないが、バネの発見が以上に高い。


 疑問に思った作見は司に聞いてみる。


 「魔眼って視力とか上がったりします?」


 「いや〜知らん。そもそも魔眼って、俺が知ってる中でも一人しか使い手がいないからめっちゃレアなんだよ」


 「そうなんですか? なんか、めっちゃ見えるんですよね」


 昨日と比べても格段に視界の状態が良いことに気づいた作見はその力をふんだんに使う。


 数時間が経ち、街をあらかた見て回った二人は次の場所へと向かう。


 走って行くうちに二人の空気はだんだんと重くなっていく。


 聞きたくもないが、沈黙に耐えられなくなった作見は、


 「どの辺なんですか?」

 司の表情を見ずに聞く。


 「市内から外れるからちょっと遠い」


 想像したら返答ではなかったが、この話をこれ以上する必要はないと思い、二人は黙々と走り続ける。


 「ん?」


 作見は走りながら、なぜか背後に視線を感じた。


 振り返るが誰もいない。そもそも魔力を纏っての移動について来れる人は限られる。


 気のせいだと思い前を向く。


 そして、山道に入った二人は走るのをやめて歩きながら向かう。


 その間も会話はない。司の表情はかなりひりついている。


 少しでも、軽くしようと考えた作見は司に話す。


 「司さんの魔術ってどんなんですか?」


 「そうだな。連携のためにも言っておいた方がいいな」

 そう言った司は少し緊張が解けたのか、ほんのり表情が柔らかくなる。


 「俺の魔術は屈折くっせつ。言葉通り、触れた魔力を曲げることができる」


 魔力のイメージが乏しい作見にとっては、どのような能力なのか想像できず、首を傾げる。


 目を点にしている作見を見て、司はわかりやすいように背負っている銃を持ってわかりやすく説明する。


 「この銃は、俺が魔力を込めることで弾となって飛んでいく代物だ。要は撃ってからでも弾道を操れる」


 「おー」と言いながら、納得する作見は、


 「司さん専用武器ってことですか」


 「まあ、そうだな」


 少し場が和み、二人はガードレールを飛び越えて、山の中へ入っていく。


 司の後ろを歩いていた作見は周囲を見回しながら歩いていると、立ち止まった司に気づかず、ぶつかってしまう。


 「どうしたんで――」

 「あれを見ろ」


 作見の言葉を遮って司は前方を見るよう言う。


 前方を見た作見はその光景に絶句する。


 一人の女性が木下で浮いているように見えた。


 最初は暗くてよく見えなかったが、近づいていくと首元にロープがかかっているのが次第に見えてくる。


 司は静かに女性を木から下ろして横に寝かせる。


 「これってどうするんですか?」

 普通ならパニックに陥ってもおかしくない状況だが、作見は冷静に聞いた。


 作見の質問に答える前に司はその女性の前で手を合わせた。それに倣って作見も手を合わせる。


 「死体の場合はバネと同じで黒い手袋で触れてくれ」


 「わかりました」


 司は黒い手袋で触れ、女性を転送させる。


 転送されるとある空間に送られる。そこで技術部が、バネかそれ以外かで仕分けをしてくれる。

 

 「よし――」

 司が何か話そうとした瞬間、二人は背中に衝撃が走る。


 「ッッ!?」

 前方に吹っ飛ばされた二人は急いで振り返り、何が起きたか確認しようとするが、体が動かない。まるで金縛りにあったように。


 (何がどうなってる!?)


 心でそう思いながら、横目に映る司の表情には焦りが見えた。


 「やっと隙を見せたな」


 後ろから低い声が聞こえる。


 足音が近づいてくるにつれて、二人の心拍数が上昇し、心音が暗い山の中で響く。


 目の前に現れたのは、黒髪に少し白髪が混じった中年のおじさんだ。


 右手で前髪を上げるように触りながら、


 「お前ら警戒しすぎだ。特に茶髪」


 と蔑んだ目で言う。


 ここへ向かう途中、作見は視線を感じていた。


 それは司も同様に感じており、周囲の警戒をしていたが、転送に気を向けたことが仇となる。


 まさに邪悪。


 この男を見た瞬間全身が震えるような感覚に作見は襲われる。


 これが――シカバネ。


 「動くことも、声を出すことすら出来ねぇだろ」


 男はそう言って、上着の内ポケットに入っている黒と白の手袋を取り出して、遠くに放り投げる。


 「この肉体の魔術は麻痺。文字通り、触れた相手を麻痺させる」


 (クソ! どうする? 何が目的だ?)


 作見は本気でやばいと思いながら、男を見つめる。司も同様で余裕がなくなっていた。


 「お前の魔術はかなりいい。貰うぜその体」


 男は司を指差して言う。


 (まさか……作見に説明したときに聞かれてたか!?)


 あの場での説明は迂闊だったと司は悔やむ。

 


 「ここでお前を行動不能にして、同類たちに引き渡せば俺たちの戦力増強につながるし、俺も認めてもらえる」


 (俺たちだと?)

 司はその言葉に引っかかりながらも強い眼光で抵抗する。


 そして、男の拳が司の顔面を打つ。


 頬が赤くなり、切れた唇から血が流れる。


 そして顔から腹部にかけて何度も殴られ続け、司は血まみれになりながらも、鋭い目を止めることはない。


 それを見てることしかできない作見は、全身に力を入れて抵抗するが動けない。


 (クソが!! 俺が今動けなくてどうするんだよ!)


 作見は内心で叫びながら、自分の無力さを痛感する。


 「そんな怖い顔すんな。こいつが終わったら次はお前だ」


 そう言って司を殴り続ける。


 (あと一発でいいだろう)


そう思った男は渾身の一撃を振りかぶる。


 だが、その一撃が当たることはない。


 跪いていた司は立ち上がって、男の拳を避けてカウンターを直撃させる。

 

 後方に吹っ飛び、木に体を打ちつけた男は、


 「な、なぜ動ける!?」

 驚愕の表情で叫ぶ。


 「……」

 

 司は何も言わず、顔から血がポタポタと落ちる中で魔力を集中させる。


 身体中からみなぎる魔力が次第に勢いを増していきながら――赤くなる。

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