5話:初任務
これから始まるのは人を救うということ。その他大勢を死なせないために動き出す魔術師の時間だ。
それまで睡眠をとっていた者。趣味に時間を充てていた者。はたまた、日中にも動くシカバネを警戒して外を回っていた者。
魔術師にも色々なタイプがいるだろう。
たが、この夜の時間は別だ。
全魔術師が一斉に動き出す。皆はこう思っているだろう。
この時間が嫌いだ――と。憂鬱に包まれながら外に出る俺たちは、毎日、この言葉に救われている。
「いってらっしゃい」
声がなくとも、想いは伝わる。帰りを待つ人がいる。それがどれだけ支えになっているか、作見はこれから知っていくことになる。
4人は走りながら下山し、大輝が指示をする。
「作見は司と行動を共にしてくれ。海里は時間が来たら交代。いつも通りで頼む」
「了解」
海里は静かに返事をした後、道を外れて単独で行動に出る。
「おっけーす」
「は、はいっ!」
二人の返事を聞いた大輝は、スピードを上げて、踏み込んで勢いよく飛び去っていく。
司と作見はそのまま走り続けて、夜の街並みを目指す。
「あそこの建物の上で話そう」
街まで出たところで、司は前方に見えるビルのような高い建物に飛び移るように言う。
「えっ!? 無理ですよそんなの!」
まるで、ジャンプで飛び乗るように言う司の言葉に作見は動揺が隠せない。
「ん〜そうだなぁ〜。身体中に思いっきり力を入れる感覚で飛んでみてくれ」
司はそう言ってピョンとまるでウサギのようにビルの屋上まで飛んでいく。
「嘘ぉ〜」
飛び上がっていく司を見ながら溢れるように呟いた作見は、言われた通り、身体中に力を入れる。
すると力がみなぎる。こんな感覚に陥ったのは初めてだ。これなら行ける。そう確信する。そのままビルの屋上まで一蹴りで到達する。
「できるやん」
両手を腰に当てて待っていた司は言う。
「できました」
高い建物の屋上に乗り移った2人は夜の街を見下ろしている中、司は口を開く。
「これから説明するのは、魔術師の任務についてだ。夜にするのは大きく分けて3つある」
「3つ?」
「まずは、今から俺たちがやることだ。街の至る所にあるバネの捜索だ」
「黒い煙みたいな見た目なんですよね?」
「その通り。上着の内ポケットに入ってるものを取り出してくれ」
そう言われた作見は、内ポケットに入っていた二つの手袋を取り出す。
一つは白く、一つは黒く、とてもペアとは思えない手袋だ。
「なんですこれ?」
「バネを見つけたら、この黒い手袋で触れてほしい」
「黒ですか?」
「ああ。基本的にバネには攻撃する手段がない。ただ、煙のように動きながら人に乗り移るだけだ。だから、この黒い手袋で触れることで、うちの技術部に転送することができる」
「なるほど。じゃあ白い方は何に?」
「白い方はシカバネに使う」
「人に乗り移ったバネですよね?」
「そう。シカバネを見つけたら迷わず白い方で触れてほしい」
シカバネは人と同じ姿をしている。そんなシカバネは社会に溶け込みながら、魔術の素養を持った新たな肉体を求めて徘徊している。それゆえ見つけることは難しい。
バネとは違いシカバネとは確実に命懸けの戦闘になるだろう。魔術を持ったシカバネとなれば街への被害は免れない。
「白い方で触れるとどうなるんですか?」
「西区域は大輝さんか海里のところに転送される」
「どうしてその2人に?」
作見は頭を傾げながら聞く。
「あの2人は西区域の要だ。東西六守要っていう西と東に3人ずついる実力者でそこの要とも言える戦力のことだ」
それを聞いた作見はさらに頭を傾げて聞く。
「もう1人は?」
「あぁー。もう1人は西早星一っていうやつだよ。今はシークレット任務中でいないんだ」
「強いんですか?」
「強いよ。海里をあそこまで強くしたのは星一と言ってもいいくらいにな」
司は何故か誇らしげに言った。
シカバネに触れるだけ。これをするだけで戦闘は最小限に抑えられる。不意打ちでもいい。触れるだけで意味がある。
白い手袋のおかげで人気のないところで待機している大輝や海里がシカバネとのタイマンの状況を作ることができる。
そうなれば、きっと彼らが倒してくれる。司はあの2人の強さを信じて、手強い相手だったとしても、死に物狂いで触れに行っていた。
だが、西区域全土のシカバネが同時に転送されることはあるのか。答えはノーだ。
手袋に付与されている魔術は空間と転送。
もしシカバネを同時に触れたとしたら、1人はある空間で待機するようになっている。それにより一対一の状況を作り出すことができる。
倒し終われば、次のシカバネが出てくる。
特に星一がいない現状では、西区域のシカバネは2人に集中する。ゆえに六要の負担は大きい。
「3つ目は自殺スポットの捜索だ」
「………」
作見はその言葉を聞いて渋い表情を浮かべながら黙ってしまう。
「何をするかはだいたい予想つくだろ?」
「はい…もし死体があれば回収するんですよね?器にされないように」
「あぁ――たまにこれからって人に出くわすこともあるからなんとか止めてるよ…」
司の声のトーンも暗い。
「説明は大体済んだから――行くか」
「はいっ!!」
2人は夜風に髪を靡かせながら、ビルを飛び降りる。
作見は司のことを優しくてどこか軽い人だと感じていたが、説明の段階から顔つきを変えた司を見て、ギャップがすごいと思っていた。
そんな緊張感が漂う中、バネの捜索が始まる。




