4話:新しい生活
魔術師としてやっていくことを決めた作見は大輝と深い握手を交わす。
それを見ていた海里はお茶を飲んで言う。
「ここで、魔術師にならなかったらすぐ死ぬよ」
「えっ?」
振り向いて作見は海里を見つめる。
「ははっ。だが、まあ海里が言うことも一理ある。」
大輝は笑いながらそう言って立ち上がり、カッターシャツを脱ぎ、部屋を出ていく。
魔術の才がある肉体は、バネにとっては極上の標的である。
もし仮に作見が魔術師として力をつけないのであれば、バネから集中的に狙われるだろう。
そうなれば――すぐに死ぬだけだ。
だがら、魔力の使い方や魔術の特性を理解し、日々戦い続けている彼らと共に魔術師としてバネから人々を守り、経験を積んでいく必要がある。
「海里も最初のうちはよく狙われたよな」
洗い物が終わった司は、ハンドタオルで手を拭きながらこっちに歩いてくる。
「そうなんですか?」
作見はその時の話がためになると思い、深掘りする。
「海里の魔術はかなり戦闘向きだから、大きく力をつける前に、取りにくるバネは多かった」
海里が魔術を身につけたのは、約2年前のことだ。
星一や他のメンバーからの手厚い指導もあり、海里の成長速度は凄まじかった。
今では六要に抜擢されるほどの実力の持ち主である。
「作見がどんな魔術を持っているかはわからないけど、自分の身は自分で守れるようにならないとな!」
「はい!」
「じゃあ、寝るか」
そう言って司と海里は部屋を出ようと歩き出す。
「こんな時間から寝るんですか?」
作見は慌てふためきながら聞く。
「え? 魔術師の寝れる時間なんて今から日の入りまでなんだから、寝れるときに寝とくんだよ」
司はそう言って、さっさと自室に向かった。
日の出が大体6時前で考えると、日の入りが18時過ぎだ。
そこから朝食を食べて、ベッドに入れるのが7時45分くらいと考えると、10時間以上は寝れるということである。
作見は、なぜ司や海里が寝不足そうにしていたか分からなかったが、すぐに気づく。
「まさか……学校と両立してる?」
作見は思わず声を出しで呟いてしまった。
背後から視線を感じた作見は振り返ると、言美が不気味な笑顔で俺を眺めている。
言美は紙とペンを取り出して、こう書いた。
「正解」
「あっはっは……まじで……」
驚きを通り越して、呆れる。
学校が始まるのが8時半とすると、実際に寝れる時間はほとんどないことになる。
これからそんな生活が待っていると想像すると変な汗が浮かぶ。
「俺も……寝るか」
作見はそう呟くと、言美が部屋を案内してくれるのか、肩をチョンチョンと叩いて、歩き出す。
廊下に出て右に行くと階段が見えてくる。2回に上がると長い廊下に足をつけ、正面に一部屋あるのが見える。
左手には5つドアがあった。おそらく、この5つも部屋なのだろう。
言美は一番奥にある部屋を指差す。
「あれが、俺の部屋?」
3回頷いて、作見の背中をポンポン叩いた後に階段を降りていく。
作見は自室に入ると、中には必要最低限のものしか置いていなかった。
右端にベッド、左端に机と椅子。いかにも普通の部屋だ。
「後で、家のもん持ってこないとな……」
作見はベッドに飛び乗って、呟く。
海里が来るまで寝ていたはずだが、すぐに眠りについてしまった。
◇
「おーい。作見ぃーー」
ドアの向こうから声がする。
作見は気にせず布団に抱きつくように横になっている。
すると、ドアが開き司が部屋に入ってきた。
「そろそろ時間だから支度するよ」
司は作見の肩を持って起こすように揺らしながら声をかける。
「……支度って?」
体を起こして目をこすりながら眠そうにあくびをする。
司はそこで説明するのではなく、親指を立ててついて来い言わんばかりの表情で部屋を出る。
立ち上がって両腕を上げて身体を伸ばした後に作見は司の後についていく。
階段を上がって、まっすぐ進むと一つの部屋がある。
2人はその部屋に入る。中には大輝と海里が着替えている途中だった。
中は控え室のようなもので、部屋の右側には複数のロッカーが設置されている。
「来たか」
大輝はそう言って、作見に黒いスーツを渡す。
「これって?」
「俺たち魔術師の……まぁ制服みたいなもんだな」
司もロッカーを開けて、自分の黒いスーツを取り出す。
いくつか質問したいことはあったが、ここでは聞かずに、着替えを終えて、玄関に集まる。
「サイズはどう?」
座りながら靴を履いて隣に立つ司が聞いてくる。
「丁度いい感じです」
「ならよかった」
4人の準備は整った。
大輝と作見は手ぶらなのに対して、海里と司はあるものを持っている。
海里は、紫色の棒を持っている。持ち手のところに固結びで白い紐がついているが、あれをどう使うのか想像がつかない。
それに比べて司が持っているものは一目でわかる。
それは――銃である。拳銃のような小さなものではなく、肩に背負えるほどの大きさだ。
おそらくそれらが2人の武器なのだろう。
そうこうしているうちに、言美が慌てて駆けつける。
そして――大きなノートブックを両手で広げて見せるように前に出す。
「いってらっしゃい!!」
そう書かれたノートを見た一同は気合を入れて、
「おうっ!!」
示し合わせたわけではないが、自然と返事が噛み合った。
これが、魔術師としての初日の始まり。
想像を絶する過酷さや経験を味わうこととなる。




